あなたはミラ

秋野小窓

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 早退手続きを済ませて自家用車を取りに帰宅し、その足で柳井さんを迎えに行った。

「お待たせしました。家どの辺ですか?」

 ナビに直接住所を入力してもらうと、

「いや結構遠いですね?」
「うん」

 市を跨いで、車で片道30分以上かかるところだ。

「ご実家ですか?」
「違う」
「なんでわざわざこんな遠くに……」

 心の声がしっかり口に出てしまった。

「この辺家賃高いんだよ。泰歩と違って薄給だから」
「俺だって全然ですよ」
「嫌味?」
「とんでもない!」

 むしろ柳井さんの言い方のほうが棘があるじゃないか。俺なんてまだぺーぺーだし、他の人に自慢できるような給与じゃない。
 運転しながら隣を横目で見る。不機嫌そうなのはずっとだが、空気が重苦しい。

「柳井さん?俺、何か気に障ること言いました?」
「いや。ただ、あんな街中に住んで、こんないい車乗ってて『全然』はないなって」
「そうですか?」

 特別いい部屋なわけではない。車も柳井さんの元愛車と比べてしまったら、街中で走っているほとんどの車が「いい車」になってしまいそうだ。

「そんなに、その、厳しいんですか?」

 そういえば、小堀自動車でもしきりに金がないと言っていた。

「理系職の立場が弱すぎるんだ。クソみたいな組織だよ」

 吐き捨てるように柳井さんが言う。

「どういうことですか?」
「科学館のトップって誰だと思う?」
「え……と、」

 考えたこともなかった。

「理系出身の……それこそ、博士とか出て論文書いたりしてる人じゃないんですか?」
「違うよ」
「文系出身の人……?」
「そう」

 今の話の流れからすると、そういうことだよな。
 隣から深いため息。

「要職は行政職の奴らで占められてる」
「展示のこととか分かるんですか?」
「分かるわけないだろ」
「ですよね……」
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