あなたはミラ

秋野小窓

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「小堀さん、代車とかないんですか?」
「今日すぐには無理なんですよ。パーツ注文してもらえるなら手配しますけど、いつまでになるか分からないと代車ってわけにいかないですし。もうあとはレンタカーで凌ぐか、通勤のことなら職場の近くでしばらくホテル暮らしとかじゃないですかね」
「無理だよ、金ないって」
「あー……じゃあ、ウチ来ます?」

 きっと断られるだろうと思うが、念のため提案してみる。

「職場、科学館ですよね?歩いて10分ちょっと……あー、15分くらいですね」
「あ、いいじゃないですか!お知り合いなんですよね?」

 息子さんの言葉に俺の動きが止まる。そうだ、俺は一方的に知っているが、向こうからしたらなぜ知られているのかと不審に思われるところだろう。
 貼り付いた笑顔のまま硬直していると、沈黙を破ったのは黒シャツの彼だった。

「うん、まあ」
「えっ!」

 一番驚いたのは俺である。俺たち知り合いだった……?

「知り合いっていうか、常連さん」
「うわ、認識されてたんですね……」
「ん?どういうことですか?」
「お話しするのは初めてなんです。俺が一方的に知っていただけで……いや、こちらも知られていたんですが……」

 歯切れの悪い俺の説明に、彼の表情は何一つ変わらない。感情が何も読み取れないのだが。

「そうだったんですね!でもお二人の身元は私が保証しますよ。こちら、科学館にお勤めの柳井さん。こちらは税理士事務所の重谷先生」
「小堀さん、私、税理士じゃないです。見習いです」

 慌てて訂正するが、ヤナイと呼ばれた彼の表情は相変わらず読めなかった。無表情というより、やはり少し不機嫌そうに見える。

「あの、あくまで提案なので……」

 乗り気でないのだろうと判断してそう声をかけると、

「ご厚意感謝します」

 ヤナイさんからは意外な返答が返ってきた。

「ええと、それは……?」
「ご迷惑でなければ、お願いします」

 かくして、俺たちの奇妙な関係が始まったのである。
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