黒ギャル聖女、世界を救う！

９

　街の向こうから、声がした。

「あ、陛下ヘーカちゃんが助けてって言ってる」
「分かるのですか？」
「うん。ヤだけど聞こえるんだよね。お城から」

　街の向こう側。目でも見える場所だ。

「ちょっと行ってくる」
「は？」
「あそこまでーー、ジャンプ！」
「せ、聖女様！？！？」

　パッとユイの姿が消える前、レオちゃんは口を開けて驚いた顔をしていた。



「陛下ヘーカちゃーん、元気ー？」
「なっ……お前っ……」

　陛下ヘーカちゃんは部屋の真ん中で魔物に囲まれて、騎士たちを盾にしながら立ってた。

「助けろ！」
「え？　ヤだし」
「何！？」
「言ったじゃん。陛下ヘーカちゃんのことは助けてあげないって」

　廊下でメイドさんを追いかけるゴブリンを退治して、ワイバーンが騎士の人に飛びかかる前に光の壁を作る。
　この部屋は最上階で、その下に向かって光を広げた。これでこの部屋以外は大丈夫なはず。

「みんな、下は大丈夫と思うから、逃げて」
「はっ……はい、聖女様……！」
「ありがとうございます聖女様！」
「お前ら！　わしを守れ！」

　陛下ヘーカちゃんが叫ぶけど、みんな走って逃げていく。わかる。部下を物みたいに盾にする人、命懸けで守りたくないよね。

「ごめんって言ったら助けてあげてもいいけど」
「なっ……」
「見かけで判断してごめんなさいって、ちゃんと頭下げてね」
「このっ……聖女のくせに」
「聖女だって人間だし。人にヒドイこと言う悪い人は助けたくなくて当然じゃん？　ごめんなさいとありがとうは一番大事なんだよ」

　光の壁をゴブリンがガンガン叩く。陛下ヘーカちゃんの後ろの壁をワイバーンが爪で引っ掻いた。
　ちょっと意地悪して、ユイが光の壁を小さくしていく。すごい、ユイってばラスボスみたい。
　そしたら陛下ヘーカちゃんはユイの服を掴んで大声を出した。

「クッ……すまなかった！　だから助けてくれ！」
「これからはみんなの話もちゃんと最後まで聞いてね」
「分かった！　分かったから！」
「本当に悪かったと思ってる？」
「悪かった！　許してくれ！」

　そう言って頭を下げる。
　アタシは手を翳して、部屋中に光を広げる。溢れ出た光はお城全体を包み込んだ。