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第31章訓辞

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ゼンは今回の戦で、投降したカンテルの兵を全て殺した。
その結果、過去の戦も踏まえると、100万に近い人間がゼンの軍隊によって殺されたことになる。
ゼンが平和な世のためには、血を流す事を厭わない上に、ゼンの軍は無類の強さを誇るためにこの様な結果となったのだろう。

戦により多くの人間の命を奪った事にゼンは苦しんでいる。
だが将軍として兵たちに自分の考えを示そうと考えたのだろう。
ゼンはルームの兵士を集めて訓辞を行なう事にした。

ゼンは兵士達に向かって言った。
「俺達は、母国である、ルームを飛び出して、様々な敵と戦ってきた。そしてその全てを俺達は撃破した。そして今度は遂に長年の宿敵であるカンテルも破った。カンテルにはもはや継戦能力は無い。このままカンテルの都を落とせば、長かった戦乱の世に終止符が打たれる。そこから先にはきっと今よりも素晴らしい生活が待っているはずだ。」

ルームという国は驚くほどに貧しい。
また法は厳しく、税は高い。
そのため普通に暮らして行く方法は少なく、大抵の家は息子が戦に出て、手柄を立てて始めて生活が成り立つ。
だからルームの兵士は必死に戦うのだ。

つまり、彼らは愛国心ではなく、自分の生活のために戦をしているのである。
それだけに、天下統一の後に、素晴らしい、戦が無くても良い世の中が待っているというゼンの言葉は兵士達の心に届いたらしく、彼らは静かに、ゼンの言葉に耳を傾けていた。

さらにゼンは言った。
「中には、長い戦で、多くの人間を殺したことを気に病んでいる者も居るだろう。だが気に止む必要は無い。俺が全てを許す。良いか。お前達は勇敢で、忠実で、立派な、俺の誇りの兵士達だ。仲間思いで、真っ直ぐなお前達が背負うべき罪など何も無い。それでも、もし良心の呵責に苦しむものが居たとしたら、そういう者達は俺を恨め。すべてを俺のせいにしろ。上官とはそういうものだ」

エマはその言葉を聞いて良くそんな事が言えるものだと思った。
普段のゼンのもがき、苦しみ、悩む、様子を見ていたからである。
だがゼンは兵士達には決してその様な、様子は見せない。
迷い無く決断に行動しているように装う。

エマは案外英雄とは皆こういうものなのかもしれないと思った。
エマが歴史上で知る英雄は全て人間離れした、考えと行動力を持つ。
しかし、実際の彼らはもしかしたらそういう人間的な一面を見せないようにしているだけなのかもしれない。

ゼンは最後に言った。
「俺をここまで支えて、共に戦ってくれたお前達は俺の誇りだ。気を引き締めて、最後の戦の準備をしろ。覚悟を決めろよ。俺達はきっと伝説になるからな。」

エマはその言葉を聞いて自分の頬を叩いた。
そして厳しい目でゼンを見て呟いた。
「憧れては駄目なのでしょうね。尊敬はきっとあの人を孤独にしますから。」
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