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第七十五話 フロンティア‐Ⅷ(8)
しおりを挟む魔力を循環させると言うことは、体の生命力を上げると言うことで、マナとも言われる生命の源を活性化させることにつながるらしい。
だからこそ、生命の起源である生殖本能に直結していると言うことで、繁殖行動に影響しやすいのだ。
言ってみれば、エロエネルギー?
「ぶっちゃけ過ぎじゃ!」
ぱこんと、プルミエが杖でたたいてきた。
「いってえな、いいじゃん。」
「お主の言いようは、おっさんくさいのじゃ。」
だっておっさんだったもん。
もうじき定年だったし。
そんなもんだから、説教ぐせも抜けてない。
勇気にしてみれば、小言の嵐である。
「そこでだ、勇気はまずチャッカマンを覚えろ。」
「チャッカマン?」
「着火の魔法だ、こういうやつ。」
カズマは、指先から小さな火種を出して見せた。
「おお!なるほど、これは便利そうだ。」
「基本技ができないと、応用に持っていけないからな。」
「わかりました。」
「まず、循環した魔法に働きかけて、火が出るイメージをおこせ。」
(俺の時は、だれもこんなこと教えてくれなかったもんな。)
カズマがぶつぶつ思っていると、プルミエがぽかりとたたいてきた。
「なんだよ。」
「お前、また余計なこと考えたろう。」
「ちぇっ、だれも体系的にとらえて、説明なんかしてくれないもんよ。この世界の住民は、考えるな感じろだからな。」
「魔法なんて、そう言うもんじゃ。それがいやなら、あの、恥ずかしい呪文をとなえるのじゃ。」
ネコミミ・のじゃロリに、そんなこと言われてもな。
おっと、またプルミエの杖が飛んでくるぞ。
「火が出ません~。」
「なにかきっかけがあれば、早いぞ。」
「たとえば?」
カズマは、目の前で指パッチンをして見せた。
その指先には、さっきと同じ火種が見える。
「燃焼、酸素と対象物、酸化、発熱。物理と化学だ。特に、燃焼なんて科学反応だろう。」
「うわ~、化学科はだめです!」
「数学、物理は?」
「赤点です。」
「ぐわ~!こう言うやつに説明するのいや!恵理子~!」
「はいなー。」
「こいつ、現役高校生のくせに、燃焼が理解できたてない!」
「ありゃ~、そこから教えるのは、ウチにも無理ですわ~。」
「じゃあどうする?」
「そやなあ、勇気くん、そこの木全部燃やす感じで、ぶわ~っと火炎放射してみ。」
「あれですか?」
目の前に一本の広葉樹が立っていた。
結構太い、直径二〇センチくらいで、高さも七~八メートルはある。
「ほら、両手を出して、かえん!」
「こ、こうですか?」
勇気は、おずおずと手を出して、声を出した。
「火炎!」
ぼはあ!
勇気の合わせた両の手のひらから、巨大な火炎が放射された。
目の前の木は、あっという間に真っ黒焦げになった。
「やっぱりなあ、基本魔力が大きいので、小さい火の出し方がわからんのや。」
カズマにも、身に覚えがあった。(第二話参照)
「なるほど、魔力の大きさに意識が着いて行かないやつだ。」
「だれかさんも、家焼きそうになってたよね。」
横合いからチコが顔を出した。
「ちぇっ、古いこと持ち出すなよ。」
「「あはは。」」
ふたりして、楽しそうに笑った。
「まあいい、それを小さくしていけば、着火の魔法だ。とりあえず、今日はそいつを空にぶっ放せばいいわ。」
「そうかい?」
「それだけじゃもったいないなあ、ねえお屋形さま、お風呂の下に焚口作って。」
チコが、いたずらっぽく笑う。
「ああ?また面倒なことを…ふむ、それもいいな。」
カズマは、風呂場の桶の下に穴を掘って、一段下がった焚き場を作った。
「さすがお屋形さま、仕事が早いです。」
「まあ、こんなもの魔力を遣ううちにはいらんだろ?」
「まあまあ、勇気君、ここに入ってその火炎の魔法で、お風呂焚いてください。」
「えええ~?」
「そうだな、水魔法の得意な子供はだれだ?」
カズマが聞くと、恵理子が答えた。
「アルマ(十三)ですね~。」
「じゃあ、アルマの訓練だ、この風呂桶に水を入れてもらおう。」
ブロワの孤児の、ボルクがやってきた。
「お屋形さま、今の火事はなんですかー?」
「ああ、こいつの魔法の練習だ。」
「え~、あんなでっかい火が出せるんですか?」
「ああ、お前は着火の魔法ができるか?」
「だって、簡単な生活魔法ですよー、俺だって出せます。ほら。」
すっと指先に火がともる。
「どうだ、勇気、これがチャッカマンの魔法だ。」
「へえ~、これは小さくて使いやすいね。」
「ちぇっ、小さくて悪かったな。」
「いやいや、うまく制御されている証拠だよ。」
ボルク(一〇)も、ほめられて悪い気はしなかったようだ。
「で?風呂場の裏でなにやってるんだ?」
「ああ、これから風呂をわかすんだ。」
「へえ、どうやって?」
「まあ、アルマが来てからだな。」
チコに呼ばれて、アルマもやってきた。
「お屋形さま、お呼びですか?」
「ああ、アルマ、この風呂桶に出せるだけ水を出してくれ。」
「だ、出せるだけ?」
「途中で止まってもいい、全力でやってみてくれ。」
「は、はい!がんばります。」
なんだかんだ言って、キャラバンの風呂だ、土魔法で固めた浴槽はタテヨコ二メートル、深さも七〇センチはある。
カズマの趣味だが、マーブルもようがきれいに見えるようになっている。
大きな風呂桶に両手をかざして、アルマ(十三)は水を出し始めた。
「みずみずみず…」
約三十分ほどたって、三分の一を越える頃、アルマは脂汗をにじませ始めた。
「ううう~」
そばで見ているチコまで、両手に力が入っている。
「はあはあ!もうだめ~!」
アルマは、その場にへなへなと崩れ落ちた。
すかさずチコが、両脇から手を出して支える。
ぐったりとした様子から、魔力が底をついたことがわかる。
「よくやった、アルマは休め。」
ボルクは、不安そうな顔をしてアルマを見ていた。
「ボルクはどうだ?水は出せるか?」
「バケツ一杯なら。」
「そうか!よしよし、お前も目いっぱい出して見せろ。」
「お屋形さまが言うなら…」
ちょろちょろと、竹の筒からこぼれるような水が、浴槽に注がれた。
「うう!」
すぐに、脂汗を流して、ボルクも力尽きた。
「よしよし、よくやった。ボルクも休ませてやれ。」
「なにしてるんですか?子供に無理させて。」
勇気は、不満そうに口をはさんだ。
「なに、全力で魔法を使って、魔力が底をついたら、次の日には魔力が上がっているんだよ。」
「へ~、そう言うものなんですか?」
「だから、プルミエは子供たちの訓練で、ぶっ倒れるまでやってるだろ?」
「なるほど。」
「と・言うわけで、勇気は風呂を焚け。」
「へ?」
「お前の火魔法を、この焚き口に焚き続けて、風呂を沸かすのだ。」
カズマは、残りの水を風呂桶に満たして、こともなさそうに言った。
「とりあえず、できるところまでがんばってみろ。」
そう言い置いて、カズマは勇気の前から去った。
カズマの後ろ姿を眺めながら、勇気はぶつぶつと文句を言っている。
「ちぇっ、派手な魔法から教えてくれればいいのに、風呂焚きなんて地味なことしなくても…」
「くくく、ぼやいてるぼやいてる、聞こえてるぞ勇気。」
「どうしたんですか?」
ティリスが、アンジェラを抱いてやってきた。
アンジェラは、カズマを見つけると、両手を出して声を出す。
「あー。」
「よしよし、アンジェラ。」
カズマは、ティリスからアンジェラを受け取って、高く持ち上げた。
「きゃー、あははははは!」
アンジェラは、高い高いされて、喜んで笑った。
「俺は、これが幸せだと思っているが、ティリスはどうだ?つらいか?」
「いいえ、教会で目的もなく働いていたころに比べたら、ずっと充実してるわ。」
「そうか。」
「あたしがお母さんよ。このほうが、ずっと驚きだわ。」
「それはそうだな。」
「なによう、意外だとでも言うの?」
「いや、ティリスがいてくれて、ありがたいよ。」
「そう、それならいいのよ。」
こころなしほほを染めながら、ティリスは満足げにうなずいた。
「えい!」
「おう!」
マリウスとユリウスは、お互いに型稽古を繰り返している。
受ける側、打ち込む側を交代しつつ、何度も繰り返す。
繰り返すことのよって、自分の体に型を刻みこむのだ。
四十を越えて、なお稽古に励む姿は、子供たちのよいお手本だ。
いっそ、ここに村を作ってしまいたくなるほど、のびのびとした環境だ。
だが、やはり峡谷は危険な場所でもある。
未知の獣がたくさんいて、いちいち勉強しなくてはならない。
「ぎぎー!」
コボルトだ、珍しいな。
こんなに人間が居ても、襲ってくるものなのか?
「お屋形さま、どうします?」
ティリスが横から聞いた。
「コボルト一匹だ、それほど脅威でもあるまいが…」
「じゃあ、あたしが。」
無造作に出した手から、五本のマジックアローが、無詠唱で送りだされた。
しゅしゅしゅ!
「ぎえ~!」
コボルトは、あっけなく倒れた。
「ファイア!」
火の玉が、横合いから飛んで、コボルトを焼き尽くす。
「アリス!」
「油断は禁物ですわ、ほら、木の陰にはまだいましてよ。」
「わかった。」
コボルトは、一匹ではなかった。
数匹固まって、こちらの様子を伺っていたのだ。
すきを見て、アンジェラを奪うつもりだったのか。
「サーチ。」
気配を探ると、柵の向こうには七いや、八匹のコボルトが居る。
「アリスの言うとおりだな、コボルトが八匹、森の中にいる。」
「位置はわかります?」
「まかせろ。」
片手のホーミングレーザーを打ち出すと、一本ずつが生き物のように木々をさけて、森の中を進む。
一気に五匹を屠り、アンジェラをティリスに渡して、森の中に入る。
「あそこか。」
木の上に三匹いた!
即座にマジックアローを打ち出して、木の枝から落とした。
「柵が低かったかな、木を使って飛び越したようだ。」
「コボルトと言えども、知恵はあるのね。」
「そうですわね。」
コボルトの死体は、他の魔物を呼ぶといやなので、ひとまとめにして焼く。
マンモスがあるので、チョイマズなコボルトなんか食べる必要はない。
肉も少ないしな。
非常食ってことで…
夕暮れが迫っている、カズマは柵を少し高くして、駅舎に戻った。
「あら~、こんなとこで寝るなよ。」
勇気は、風呂焚き場の中で気を失っていた。
全力で風呂を焚いていたらしいが、力尽きたようだ。
ま、魔力はあるけど、制御がマズイので、ダダ漏れだ。
魔力の無駄遣いでしかないが、これが後々効いてくる。
今は、めいっぱい無駄遣いさせなければならない。
俺が生きていた時の、当たり前の生活が、ここでは努力しないと維持できない。
生き残るために、みんなが戦い続けなければ、生きていけない。
それがどうした、俺はかならずこの世界を生き抜き、妻を子を守り続けるのだ。
カズマは、風呂に手を突っ込んで嘆息した。
「ぬるま湯…」
あまりに駄々漏れの魔力に、風呂桶の加熱がままならず、お湯は少ししか暖まっていなかった。
簡単な火魔法を放り込めば、瞬時に適温になるものを、時間を使って無駄に消費させるのが目的だ。
カズマは、直径一センチくらいの火の玉を作って、ぽいっと風呂桶に放り込んだ。
火の玉は、瞬時に水を適温に引き上げる。
「グッド。」
「お屋形さま?」
「どうしたアリス。」
「いえ、勇気さんが、寝ていたとうかがいましたので。」
「ああ、魔力が尽きてぶったおれた。なに、すぐに戻るさ。朝までほっとけばいい。」
「はい、お風呂なさいます?」
「ああ、頼もうかな?」
「かしこまりました、ティリスさまと恵理子様も呼んでまいりましょう。」
「まかせる。」
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