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第十三話 まだあるの?

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 俺は、うっすらと目を開けた。
「ああ、兄ちゃん、目が覚めたかい?」
「ああ、俺はどうしたんだ?」
「ああうん、急に眠いって言って、寝ちまったんだよ。」
 俺は上半身を持ち上げた。
「そうか、丘に戻ろう、パリカールが心配だ。」
 立ち上がると歩き出す。
「あ、待ってよ。」

 ラルは、男爵亭の中を探検していたようで、なんかいろいろ持ち出してきた。
 金目のものは、全部は持てなかったようで、そこそこ残っていたようだ。
「まあ、香典代わりにもらっとけ、ほれ、これに入れろ。」
 俺は、小さな皮袋を渡してやった。
 お買い物袋で、パリカールの馬車一個分くらいしか入らない。
「ありがと!」
 金の燭台とか、銀の食器とか目についたものは、みんな入れている。
「おいおい、けっこうな量だな。」
「商売の元手にするんだ。どうせ、男爵なんか帰ってこないよ。」
 おれは首を折った。
「こないかなあ?」

「どのツラ下げて帰ってくるんだよ、領民見捨てて逃げたくせに。」
「それもそうだな、王様はどう裁くかね?」
 ラルは、クビに手を添えて、ぐいっと横に引いた。
「そうなの?」
 そしてうなずく。
 この世界、わりと野蛮だな。
 十二~三世紀のフランス王室みたいだな。
「ヘルム爺さんとかも、怒ってたよ。」
「まあなあ、なにもしないで逃げたもんな。」
「なあ、兄ちゃん、こっちの家も見ていい?」
「そこは商人の家か?」
 二人で覗くと、店の庭にばらまかれた金貨。
「うわ!金貨だ!」
「まあ、そいつはもらっとけ、ただ、残りはほかのみんなが使うだろうから、捨てて置けよ。」
「え~、もったいないよ。」

 ハイエナもやりすぎるとインフレになる。
「そこそこ食えるだけでいい、余計な欲は身を滅ぼすぞ。」
「うう、そうかなあ?」
「おまえひとり占めして、恨まれてもかなわんだろ?」
「うん…」
「町の復興にも金がかかる、どうすっかは住民が考えることだ。」
 うわ~、なんかおもきしよそもんの考え方だな。
 まあ、俺にレジオに対する責任なんかねえもんよ。
「わかったよ。」
 これだけ一気にゴーストタウン化すると、貨幣経済も何もあったもんじゃないが。
 それでも、子供に金貨山盛りは多すぎるだろう。
 銀貨一枚三万円、銀板一枚三十万円、金貨一個三百万円になるんだぞ。
「火事場泥棒なんて、するだけいやな気分になるのは、俺だけか?」
「いや、俺も欲張りすぎた。」
「いい子だ。」
「よせやい。」



「あとは、ヘルム爺さんに任せようぜ。」
「そうだな、みんな無事に帰ってこられるといいな。」
「まあ。俺たちが来た道だ、シャドウ=ウルフだって残ってないさ。」
「そうか~、それもそうだ。」
 商人の家には、りっぱな荷馬車があったので、連れてきたパリカールにくくりつけてみた。
 ぜんぜん似合わないな。
「やっぱ、パリカールには、でかいなあ。」
「無理すんなよ。馬車だけで重くて動かんわ。」
「まったくだな、これはパス。」
 商人の家の喰いもんはみんな食われてしまって、馬も残っていない。
 逃げる時に使ったのか、魔物に喰われたのかはわからんが。
 俺たちは、腹が減ったので、ウサギを出して台所で料理して腹を満たした。
 考えたら、モンスターの素材が一万匹以上あるんだぜ、どうすんだこれ?
 むちゃくちゃインフレになるぞ。

「本当に、喰いもんはみんな食っちまったみたいだな。」
「オークやゴブリンは、腹がいっぱいってアタマがないからな。喰いもんがあれば喰い続けるさ。」
「そんなもんかね、あ~あ、飯食ったら眠くなった。」
 おれは、応接間のソファーでごろりと横になった。
 パリカールも、玄関ホールに入れてある。
 明るい陽射しが、窓から入ってきて、そよ風に揺れる葉擦れの音に眠気が深くなる。
 廃墟に近い街だが、人の生活の音に聞こえて、むなしさが漂う。

 どれだけ時間が過ぎたかわからんが、おれはラルにゆすられて目を覚ました。
「う~、なんかすげえ眠くなるなあ。」
「兄ちゃん、疲れてるんだよきっと。」
「そうかな~?」
「なあなあ、教会の中で変な音がするんだけどさ。」
「まだ魔物が残ってるのか?」
「わからん、避難できなかった人がいるとか?」
「それってあるのか?襲撃から一週間だぜ?」
「わかんねえけど、見に行こうよ。」
「そうだな、ゴブリンとかだと、やっかいだし。」

 人口八〇〇〇人の町には不似合いなぐらい立派な教会の聖堂。
 白い大理石で積み上げられた壁には、血のりがべっとり着いている。
 前庭は、テニスコート二~三枚分の広さがあって、俺の剣が刺さっていた石が玄関前に鎮座している。
 広場を囲むように、五〇センチくらいの高さで、二〇センチ幅くらいの石の杭がずらりと並んでいる。
 間は、人が通れるように、ロープも何もないが、教会の解放と言う意味なのかね?
 大きさから言えば、男爵の家の倍ぐらい大きい。
 高さもそれなりで、いかに教会勢力が大きいかがわかる。
 まあ、オシリス神がどこまで信心されているかはよくわからんが、あんま他力本願は良くないよ。
「町の囲いの外に、教会専用の麦畑もあるんだ。」
「へえ~、儲かってるな。」
「いや、神様の家だから…」
「ああ、そうね。」
 あの巨乳ねーちゃんが、神様って言われても、浄土真宗の人間にはなあ…


 教会の戸はあっさり開いた、当たり前か。
 こんなところに盗みに入る不信心者もいるまいし、基本、教会は一般に開放されている。
 魔物も、ここにはあまり寄らなかったようだ、喰いもんの匂いがしないからな。
「こっちだよ。」
 ラルに着いていくと、祭壇の裏の方から音がする。
「なんだよ、ゴブリンでも落ちてるのか?」
「ここが少し動くよ。」
「気をつけろ、魔物が飛び出してくるかもしれん。」
「あ、うん。」
 祭壇の後ろには二メートルほど隙間があって、その壁側からカリカリ引っかくような音がする。
「だれかいるのか?」
 俺は、隙間に向かって声をかけた。
『い、います、扉が開きません。』
 女の声で中から答えが返ってきた。

「なんだ、人間じゃないか。」
『はい、教会のシスターです、どうかここを開けてください。』
 俺は、隙間に指をかけて、思い切り引っ張った。
『うきゃー!』
 扉にへっついて、黒い服の女が転がり出てきた。

 お約束通り、行きついた先でケツ丸出しである。
 黒い法衣の下は、膝上のドロワーズで、ケツ丸出しと言っても俺にとってはズボンみたいに見える。
 本人は強烈に恥ずかしかったらしいが。
「なにやってんだ?」
 俺の声にシスターは、わちゃわちゃとあわてて、こちらに向き直った。
「すみません、出していただいてありがとうございます、この教会のシスターでティリスと申します。」
「そのティリスさんが、どうして祭壇の後ろに詰め込まれていたんだ?」
「ははい、聖堂裏の書籍庫の掃除をしていたのですが、急に扉が閉まってしまい、出られなくなってしまったんです。」
「そうか、よかったな、魔物に気付かれなくて。」
「魔物?」
「ああ。」
「そ、そう言えば、教会の司祭様たちはどこにいらっしゃるんですか?」
「さあなあ、この町には俺たち以外人っ子一人いないよ。」
「ええ!」


「こっちに来て見てみるか?」
 俺は、シスター=ティリスを連れて男爵の家に向かった。
「ここ、男爵様のお宅ですよね、勝手に入って叱られません?」
「だから、誰もいないって。男爵は、風を食らって逃げたよ。」
「…」
 玄関前の落とし穴に案内すると、シスターは息をのむ。
「ひ!」
 穴の中で串刺しになった、オーク鬼を見つけたからだ。
「俺たちでやっつけたオーク鬼の親分だ。」
「では、教会の外で大きな声がしていたのは、このオークたちだったのですか?」
「ああ、不用意に音を出して、見つかったらひでぇ目に会ってたな。」
 あらためて、青い顔で冷や汗をかくシスター。
 オークやゴブリンに、生殖対象とされていたかもしれない。


 だらだらと、額に冷や汗をかいて、俺を見上げるシスター。
 身長は一五〇センチに足らず。
 丸顔に、真ん丸な目。
 申し訳程度にある鼻。
 なんと言うか、タヌキ顔だな。
 かわいいっちゃ可愛いが。
 真っ黒な法衣に、白い尼さんベールをかぶっている。
 なんか、ぶかぶかだなあ、小さい子用の法衣がないせいか、教会が貧乏なせいか…
 十二~三かな?
 年齢不詳なちんまいシスターに、俺は疑問を投げかけた。
「あの穴倉で、どうして一週間も生きていたんだ?」

「ええ、私の袋には司祭様にないしょで、おやつがいっぱい隠してあるんです。」
「それを食いつないできたと…」
「あ!あっ、司祭様には言わないでくださいね!」
「言わないし、言えない。たぶん、司祭様は最初の襲撃で、オシリスさまの元に旅立った。」
「へ?」
「あんたが、穴倉にいる間に一〇〇〇〇匹の魔物の襲撃があって、この町は壊滅したんだ。」
「そ、そんな!」
「そんなもどんなもない、それが証拠にこいつがいる。」
 俺は、オークキングを指さして答えた。
「ああ!みなさまの安らかな眠りを!」
 シスターは、聖句を唱えて使者を弔う法を切った。

 聖職者と言えども、腹は減る。
 俺は、シスターを連れて商家に戻った。
 台所でウサギを焼いて、前に出してやった。
 さすが、男爵亭の前にいる商家だ、皿もいいものがそろっている。
 一口大に切って、食べやすくしておいたので、シスターはちまちまとリスのように食べている。
「おいしいです。何日ぶりのお肉でしょうか…」
「何日って、閉じ込められていたのは七日くらいだろう?」
「いえ、教会はあまり裕福ではないので…」
「でも、教会の麦畑が…」
「あまり育ちませんので。」
「ふうん、そうなんだ。」

「司祭様の机には、金貨がざくざく入っていたぜ。」
 ラルが、皮袋を持ち上げて言う。
「ラル、教会まで家探ししたのか?」
「いや、ただ興味があったから、見てみただけだよ。そしたら、司祭様の机の引き出しにこれが。」
 金貨で三〇枚くらい入っている。
「まあいい、そいつはしまっておこう。」
「うん、兄ちゃん持っててくれ。」
 ラルは金貨の袋を俺に差し出した。だまって受け取り、皮袋にしまっておく。
「清貧なのは、シスターたちだけだったと言うことだ。」
 シスターは、そのことに少なからすショックを受けたようだ。
「男爵は、避難民とは反対の方向に逃げたそうだよ、今頃は王都にいるかな?」
「王都ですか?」
「ああ、俺たちはマゼランからここに来た。こいつはラル、この町からマゼランに逃げてきたんだ。」
「そうですか、よく生きて…」
「父ちゃんと母ちゃんは、最初の襲撃でやられたんだ、俺はヘルム爺さんに助けられてマゼランまで逃げた。途中で魔物に追いつかれたところを、兄ちゃんに助けてもらったんだ。」
「そうですか、お父様とお母様がともにオシリスさまのおひざ元に向かわれますよう。」
 聖印を切る。

「シスター、あんたは少し休めよ、狭いところでたいへんだったろう。」
「はあ、はい。」
 俺は、シスターを応接室のソファーに遺して、家の中を歩いた。
「やっぱりあったな。」
「兄ちゃん、なにか?」
「風呂だよ、大きい商家だからあるかもしれんと思ったんだが、ビンゴ。」


 庶民は水浴びくらいしかできないが、金持ちはもしかしてと思ったら、大当たりだったようだ。
 男爵亭はトロールが大暴れしたから、ぶっ壊れているしな。
 井戸が生きているので、水を入れた。
 焚口を探すが、なんか見当たらない。
「これって、魔法で温めるのか?」
「そうじゃないか?どこにも火を入れるところがないもん。」
「しゃあねえな。」
 俺は火魔法を使って、風呂の水をお湯にかえた。
「あちち!熱湯じゃん!」
「わりい、細かい調節ができない。」
「しゃあねえな、水を入れるよ。」
 俺たちは、また井戸から水を運ぶことになった。

 ラルと二人で、着替えを探す。
 魔物たちは、人間の着るものなんかに興味はないから、タンスなんかはそのまま残っている。
 この商家の主人は、なかなか趣味がいいらしく、地味な服が多くてありがたい。
 ラルには、あまり合いそうな服がなくて、子供の服を探すのに苦労した。
 なにより、奥方の服の多いこと多いこと!
 一部屋いっぱいのクローゼット。
 下着も、レースだらけのびらびらで、誰も見ないのにな~って思うんだが。
 とにかく、着替えとタオルは見つかったので、全部風呂場に運んだ。

「シスター、風呂が沸いた、入ってくれ。」
 応接間のソファでうとうとしていたシスター=ティリスは、はっと顔をあげた。
「お、お風呂ですか?」
「ああ、一週間も閉じ込められていて、大変だったろう。風呂を沸かしたので、ゆっくりしてくれ。」
 女の子は、いろいろと大変なんだよ。
 オマタとかオマタとか。
「俺たちはあっちに行ってるから、ゆっくり入ればいいよ。着替えはここ、タオルはこれ。」
 いちいち説明して渡す、どうしても気後れするからな。
「あ、あの、着替えって?」
「上のタンスから失敬してきた、どうせ誰もいないんだ、汚れた下着では気持ち悪いだろう?」
「え、あの…」
 ティリスは真っ赤になって、小さくなった。
「いいから入ってきな、石鹸はその奥にあった。あんたが入ってくれないと、俺たちも入れない。」
「は、はい。わかりました。」
 ティリスは、そそくさと風呂の中に消えた。

「兄ちゃん、いろいろ知ってるなあ。」
「ああ、まあな。」
 伊達に前世が五十八才なわけじゃない。
 オンナにゃ苦労しているしな。
 クソッタレニョーボは、おれの保険金でのうのうと暮らすんだろうなあ。
 ちくしょう。

 俺たちはまた居間に戻った。
「寝ている間に、オシリスさまが現れた。」
「へ?」
「オシリスさまは、俺の忘れ病を治してくれて、俺の名前はカズマだと教えてくれた。」
「ななな!本当かよ!」
「ああ、神様っているんだなあ。」
「兄ちゃん!預言者だったのかよ。」
「預言者?そんなもんじゃねえよ、ただの冒険者さ。」
「でも、神様に会ったなんて、預言者しかいないぜ。」
「ふうん、そうなんかー、どうせ預言なんか聞いてないしな。」
 ジェシカもたいしたこたー言ってない。
 二人ともおっぱいが大きかったことしか覚えてない。

 あ、ヒーリング教えてもらったっけ。
「そうか、お茶ねーかな?」

 俺とラルは、棚の中を探して、お茶っぱを見つけた。
「へへ、有ると思ったんだ。お湯沸かそう。」
「今度はあちちでもいいぜ。」
 ラルは、にやりと笑った。

「ちぇ!言うじゃねーの、まあいい。」
 俺は、火魔法で水差しの中の水をお湯にする。
 今回は、沸騰しても平気だもん。
 なんかいい匂いがする、黒っぽい葉っぱのお茶だ。
 こいつをポットに入れて、お湯を注ぐ。
 ゆっくり葉っぱが解けてくるのを待って、カップに注ぐ。
「あ~、うまい。酒もいいけど、やっぱお茶がいいなー。」
「そういうもんかね?」
「おこちゃまにはわからんよ。」
「う~。」

 しばらくしてティリスが出てきた。
 ほこほこと湯気が上がっているようだ。
「お先いただきましたー。」
「ああ、よかったな。」
「きもちいいですよ。」
 商家の奥方のちょっと大きな服をまとって、髪の毛をタオルで拭いている。
「よし、俺たちも入るか。」
 俺は、ラルを引っ張って風呂場に向かった。

 長旅のうえ、魔物の返り血とかで、ひどく汚れている。
 気持ち悪いので、早く落としたかったんだ。
 浄化の魔法では、なんだかきれいになった気がしない。

「ぷあ~!やっぱこれだなあ!」
 顔にあったかいお湯がかかると気持ちいいなんてもんじゃないね。
「あ~、これはそんな気がする!」
 二人で、湯船に落ちると、むっちゃ体のこわばりがなくなったように思う。
「兄ちゃん、背中洗ってやるよ。」
「おう!頼むわ。」
 石鹸も、商家の家らしくいいものが置いてある、アタマから一気に洗う。
「やっぱ、脂っぽいわ~!」
 顔も頭も、返り血で脂がこびりついていて、本当は人前を歩けるようなもんじゃない。
 まあ、ゴーストタウンみたいなもんだから、気にしてもしょうがないけどな。

 二人で全身洗いまくって、上等なタオルで拭いて、上等な服に着替えたらすげえ気持ちよくなった。

「あはは、お二人ともお似合いですよ。」
 ティリスは、くすくす笑いながらこっちを見ている。
 髪が渇いてきたらしく、三つ編みのお下げを二本たらしている。
「やっぱ成金くさいかな?」
「いえ、地味ながらいい素材ですからね、本当に良くお似合いですよ。」
 まあ、白いシャツに、黒いズボンだけなんだけどな。
「シスターもよく似合ってるじゃないか。」
 赤い花柄のワンピースで、横幅があるためか帯で締めている。
「そうですか?横幅が広くて、がばがばなんですよ。」

「そりゃあいい。」
「なにがいいんですか、もー!」

 徐々に夕暮れがせまってくると、風が少し涼しくなってきた。
 台所には、小麦粉やふくらし粉なんかがあったので、パンケーキを焼いてみた。
「わあ、なんですかこれ?おいしいですね。」
 パンケーキで焼いた肉を捲いて食べる。
「なんだ、シスターはパンケーキ知らないのか?」
「この辺では、こういったものは食べませんね。」
「ラルも?」
「ああ、パンは丸くて硬いと決まってる。」
「そうか、小麦文化は進んでないんだな。」

 肉なんかは、荒らされた時に食い散らかされてなくなっているが、粉なんかは食べなかったようだ。

 魔物なんて、変な習性を持っているもんだな。
「カズマさんは、不思議な方ですね。」
「そうか?」
「ええ、小麦のこんな食べ方は、聞いたこともありません。」
「そうかねえ?まあ、味付けもあんま幅があるわけでもないか。」
 だいたい塩味主体である。
「そう言えば、塩ってどうしてるんだ?」
「山の岩塩か、海の塩を運んできますね。」
「ふうん。」
「大きな川を船で運ぶんです。」
「なるほどね。大量輸送は船が主体か。」


「兄ちゃん、難しいこと知ってるな。」
 ラルとティリスは、けっこう打ち解けているらしい。
 ティリスは、あんま俺には近づいてこない。
「だって、男の人って気がしますもの。」
「ええ?おれ(設定)十七才だぜ。」
「十七ならりっぱな大人ですよ。」
 この辺では、十五歳で成人するらしい。
「そうだよ、オーク鬼一撃でやっつける癖に。」
「いちげき?」
「そうだよ、このメイスで一撃!がきん。」
「ほえ~、お強いんですねえ。」
「よせやい。」

 あたりが暗くなってきたので、ティリスはライトの魔法を使った。
「あ、ライト出せるんだ。」
「ええまあ、生活魔法と治癒術は、シスターの基本ですから。」
「そういうの、どこで習うんだ?」
「シスターには学校がありますよ。王都の本庁に行けば、学ぶことができます。」
「ほえ~、それはすげえなー。」
「王都の神学校には、常時百名くらいの生徒が学んでいます。歴史や儀式や、魔法なんかですね。」
「なるほどな、治癒術のほかには何ができるんだ?」
「まあ、水魔法を少しと、火魔法くらいですね。」
「へ~、ファイヤーボールとか?」
「そこまで強力じゃないです。」
「水は?ウオーターウイップなんか?」
「いえ、一日にお風呂二杯分くらい出せます。」


「やっぱシスターに、攻撃魔法は似合わないかな。」
「いえ、もう少し強力なら宣教師として旅ができるんですけど。」
「ちょっと魔法がショボいよなあ。」
「そうなんです、さすがに教会で攻撃魔法を教えてはもらえませんし。」
「みんなどうしてるの?」
「まあ、冒険者の方に教えてもらったりですね。」
「ふうん、教えてくれるの?」
「値段しだいじゃないでしょうか?」
「金とるのかよ!」
「兄ちゃん、冒険者って本来そういうもんだよ。」
「そうなのかー、知らなかった~。」

「ふわ~。」

 シスターは、かわいらしいあくびを漏らした。
「今日は疲れたようだな、寝るならそこに毛布がある。」
「ここで寝るんですか?」
「いやなら、上に寝室があるが?」
「いえ、ここでいいです。」
「ああ、離れると何か来たとき、助けられないかもしれん。」
「さわっちゃだめですよ?」
 シスターは、俺に小声で言った。
 子供には聞かせられんわ。
「ガキに興味はないよ。」
「ガキって…これでもハタチなんですけど。」
「はあ?どう見ても十三~四だぞ。」
「すみませんね童顔で!」
 ティリスは、怒って毛布にくるまった。

 まあいい、怒っても笑っても、生きていればこそだ。
 ゆっくり眠れ。
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