ヒノキの棒と布の服

とめきち

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第百十七話 やっちゃえオッサン?

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 人生オワタ人たちは、だんだん忘れ去られて行くのだが、いつまでも引きずってもいられない。
  さて
「モリス=トーヴァンでございます。」
 カズマと同年代の男で、やせ形のいい男。
 細マッチョなのか、服の下は堅そうだ。
「カズマ=ド=マリエナどす、ようこそ。」
「ははっ」

 背丈もカズマと同じくらいで、モテそうだなあ。

「モリスは、剣は使える?」
「はあ、まあ人並みには。」
「そう、いま兵舎に居てはるんやろう?使える人間は何人くらい?」
「えっと、どう言う?」
「ああ、モリスに付き合って働いてくれる仲間は、何人くらいいるのかな。」
「ええまあ、それなら十人ほどです。」

「そう、ほならその十人と、町の警備を頼みたい。」
「警備ですか、どの程度までやってもよろしいですか。」
「うん、あばれているなら、手足の一本くらい折れてもええわ。」
「ははっ、かしこまりました。」
 モリスは、快諾してくれた。
「ロイブル男爵。」
「ははっ」
「彼らの駐在できる建物を用意して。街中に目立つように。」
「は、はあ?」

「警備隊の駐在所を用意せよ。」
「か、かしこまりました。」
「市場のそばがええな。」
「はい。」

「ちょっとその辺で休んでて。」
「はい。」

「オスカー参りました。」
「ヘンリーです。」
「アランです。」
 三人がやってきた。
「おう、よく来た。そこで待ってて。」
「「「はっ」」」
 マルソーとジャック、ミシェルがやってくる。
「六人では少ないなあ。」

「お屋形さま、兵士から選抜してはいかがですか。」
 アリスティアに言われて、気がついた。
 騎士たちは、兵舎でトグロ巻いている。
「騎士二〇人選別して、オスカーたちに付ける。」
「言うこと聞きますかね?」
「聞かなければ交代させて、聞く奴に替えればええ。」
 うわ、また乱暴なこと言ってる。

「う~ん、二〇人では少ないかな、よし一〇〇人や。」
 ロイブルが、ぐりんとクビを回した。
「うん、一〇〇人いてたら、逃がさんやろ。」
「かしこまりました、一〇〇人用意します。」
 ロイブルは、なにのことやらわからないが了解した。
 この殿さまの考えていることは、推し量っても無駄だ。

 全員がそろったところで、カズマは声をかけた。
「今日は、このままあてに着いてきてもらいます。行先は郊外の関所。全員帯剣。行きます。」
 ぞろぞろと、百人余りがカズマに着いて歩く。
 まあ、埃の立つことはどうだ。
 道の整備が急がれる。

「おお、あそこや、それひとりものがすな!」
 道々説明されたので、全員の動きが早い。
 関所に居た二十人余りは、瞬く間に囲まれて縛りあげられた。
「誰が党目さん?」
 カズマは気軽な調子で聞いた。
 郎党の目が一人に向かう。
「あんたか、ごくろうさんやな。この関所は、今日で廃止や。」
「えええ?」
「今後、ここで関料を取ることはまかりならん。お前たちは、全員強制労働三十日や。」

「「「「ひでえ!」」」」

「領主の許可もとらず、私設の関所を作ったお前たちに言い訳などないやろ。」
「そんな!俺たちは代官に…あわわ」
「ほう」
 カズマの目がきらりんと光った。
「その代官とはどなたはんのことどすやろ?」
「いえあのう」
「きりきりハキなはれ。めっきり攻めさせてもらいまひょ。引っ立てい。」

 あわれ意外なものが釣れたようだ。

「みんなでこんなもん叩き壊してしまいなはれ。」
「「「ははっ!」」」
 百人からに叩かれて、関所の建物はきれいになくなった。
「それ!」
 どがしゃああん
 大槌で叩かれ、適当なつくりの関所は、もろくも崩れ去った。
「おお!ついでに持って帰れば、厨房のマキになるぞ!」
「「「おおお~」」」
 あわれ、関所はまとめて運ばれていった。

 これで私設の関所はなくなっていくのかと言うと、アホはたくさんいて、なかなかなくならない。
 そのたびに騎士が出動して、完膚なきまでに叩き壊してきた。
 もちろん、関所を運営していたならず者は、すべて強制労働に就くことになる。
 レーヌ川の護岸工事や、堤防工事がはかどったことは言うまでもない。

 中にはめちゃくちゃ抵抗する者もいたが、手足の二三本も折れたところで降参した。

 こうして、オルレアンの街周辺の私設関所は、どんどん減っていった。
 同時に騎士の詰め所が置かれて、街道の安全に一役買っている。
 また、関所にいた者たちは、街道整備に活用されて、街々をつなぐ大事な事業に参加することになった。

 騎士団詰め所の一角。
「で?だれが許可したと言うのだ?」
「いえあのう…」
「おまえなあ、ここに連れてこられて、はいそうですかと笑ってもらえると思うのか?」
「でも、名前を言ったら、俺たちの命が…」
「アホウ、そいつらも引っ括るに決まっておるだろう。なにもできんわ。」
「ああ、あはは」

「言わないなら、言いたくなるようにしてやろう。」
「ひっ」
 人権なんて言葉が通用する訳もないからなあ。
「連れていけ。」
「「「はっ」」」
「い・いやだああ!」
 ずるずる…

 毎日騎士団の詰め所では、苛烈な取り調べが行われたようだ。

 そのうち、大物が釣れた。
「ほほう、あそこの代官所がなあ。」
 ゴルテスは、にやりと笑った。
「オスカー、ひとりも逃がすな。」
 静かだが、有無を言わせぬ迫力がある。
 さすがもと陸軍三百人長である。
「どれ、ワシも行くとするか。」

「ご・ご家老」
「殿にご出馬願うわけにもいくまい?」
「はい、さようで。」
「ならば、支度をせい。」
「御意!」

 ロイブルには真似のできない荒事の始末である。
「いいか、アリの子一匹のがすでないぞ。」
「ははっ」
「逃げようとするものは、足のアキレス腱を切るのだ。そうすれば、一歩も動けぬ。」
「はっ」
「そこそこ歩けるように、治癒魔法はかけてやる。」
 恐ろしいおっさんである。

 陸軍の軍服に身を包み、騎乗で軍配を振る姿はまことに凛々しく、いまだ現役である。
 オルレアン東部代官所の職員は約二百名。
 規模の大きな代官所である。
 そこを包む騎士団は、こちらも二百人。
 しかし、その気迫は凄まじく、まさにアリの子一匹逃すまいという布陣である。

「それ!かかれ!」
 たかが代官一人捕えるために、筆頭家老と騎士団二百名がなだれ込む。
「な、なにごと!」
「これよりこの代官所を検閲する!私は筆頭家老ユリウス=ゴルテス男爵である!」
「そのまま、手をはなして整列せよ!」
「これ!何も触ってはならぬ!」
「あ!逃げたぞ!」

「切れ切れ!足を切れ!」
「ぐわああああ!」
 即座に足の腱を切られ、その場に倒れ伏す。
「雉も鳴かずば撃たれまいに。」
 ゴルテスは不敵に笑う。
「縄をうて!」

 部隊長の声に、若い隊員が即座に縛り上げた。

「代官はおるか!」
 ゴルテスの大音声に、奥にいた代官が転げるように出てきた。
「おお、東の代官か、大儀である。」
「ご家老様、いったいこれは?」
「なに、検閲であるよ。代官、ついてまいれ。」
「は、なにゆえ?」
「お主には、ちと嫌疑があるのでのう。」

「け、嫌疑?」
「身に覚えがあるのか?」
「め、めっそうな。」
「かかか そうか。ではついてまいれ。」
「ど、どこへ?」

「領主館である。お屋形さまがお待ちじゃ。」
「お、お屋形さまが?」
「疾くまいれ、騎士団が護送するほどに。」
「くっ」
「切れ!」
 代官が逃げ出そうと踵を返したところで、ゴルテスの厳しい声が飛んだ。
「ぐあああ!」
 アキレス腱を切り裂かれて、代官はその場でもんどりうった。

「きゃああああ」
 女官がたまらず悲鳴を上げる。
 ゴルテスは、するどい目を向けた。
「お屋形さまの女官たるもの、たやすく悲鳴をあげるでない。」
 静かに、しかし威厳を持った声に、女官は息をのんだ。
 ただのおっさんではない。
 ユリウス=ゴルテスは漢でござる。

 足を切り裂かれた代官は、その場から逃げることもかなわず、もがき苦しんでいる。

「代官、シル=ノワイユ、お屋形さまに断りもなく関所を設置したこと、申し開きをせよ。」
「うぐぐぐ」
「ふむ、治癒士、適当でいい加減に治してやれ。」
「ははっ」
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