ヒノキの棒と布の服

とめきち

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第七十一話 閑話 酒場の一夜

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 みなさま、新年あけましておめでとうございます。
 旧年中は、拙作をお読みいただき、ありがとうございます。
 今年最初は、軽い閑話でお楽しみください。
 車を運転中に思いついて、メモしておいたものです。
 では、どうぞ~



 閑話なので、少し前のお話し。
 カズマが魔物ぶっ殺して、レジオを開放したころのようす。


『放せっつってんだろ??』


 乱暴なこえが聞こえてきた。
 時間は夕食時から少し経ったあたり。
 ちょっと一杯ひっかけようかと言う時刻。

 カズマが振りかえると、酒場の横の路地から、赤毛の女が出てきた。
 
痩せた女だ。
 頬にも肉が少ない。


「コノヤロ??カネ出せってんだよ。」
 
きたねぇ髪色の太った男が、拳を振るうと、女が吹き飛ぶように倒れた。
「あにすんだよ??」
「うるせえ??」
 
さらに足も出る。
ゴロゴロと転がる女の横に座り込んで、女のフトコロに手を突っ込む。
「ああ??」

 
男の手には、女の財布。
「返せ??」

 男は、女を払いのけると、路地から出てきた。

 
がん??と言う音がして、男が表通りに転がった。

「な…な…」
 
なにがと言いたいのだろう。
「財布出せ。」

 カズマは、男の腹を踏みつけて静かに声を出す。

「ぐへえ、て・てめえなにも…」
 何者だと言う前に鈍い音がした。

 
ガン??

 
カズマのつま先が男の顎に当たる。

「ぐええ」
 
舌噛んだらしい。
 口から鮮血がとぶ。

「財布出せ。」
 
もう一度言うと、男はしぶしぶひったくった女の財布をだした。

「ふん、最初からこうすれば殴られねぇのにな。」
 
カズマが不適に言うと、男は涙目で見上げる。

「おまえは、冒険者のデアスだな。俺の顔を知ってるか?」
「か、カズマ…」

「今度俺の前で女殴ってみろ、その百倍殴ってやる。」
 
カズマは、やると言ったらやる男だ。
 
デアスは、震えあがった。

「あれは、お前の女か?」
 かくかくと首を縦にふるデアス。

「二度と近づくな。」
 デアスは、えっ?と言う顔をした。

「二度と近づくな。」

 カズマが、全身から殺気をあげると、デアスは駆け出した。
「ひいい~??」

「あ~あ、やりすぎだよカズマ!!!」
 
レミーは、女に手を貸しながら言う。

「あ?手足折ってねぇぞ。」
 カズマは不満そうな顔をする。
「あ、あはは( ̄▽ ̄;)」
 レミーは冷や汗をたらした。

 
女は、テルマと名乗った。

「テルマ、顔見せてくれ。」
 
カズマが言うと、テルマは不思議そうな顔をする。

 テルマの頬は、紫色に腫れあがって歪んでいた。

「あ~あ、思いきり殴りやがって。」
 
カズマの手から、金色の光りが溢れると、テルマの頬はゆっくりとその形を戻す。


「い、痛くない。」
 
蹴られた腹部も、痛みはなくなっていた。

「一発二発で帰すんじゃなかったな。テルマ、デアスと住んでいるのか?」
「ああ、うん。」


 イシュタール王国では、かなり男尊女卑なところがある。
 
むかしの江戸のように。
 
女は、絶えず搾取されたり、殴られたり。
 
胸くそ悪い話だ。


「よし、行こう。」
 
カズマは、テルマに向かって笑う。
「へ?」
「お前の家だ。
デアスの荷物は、全部放り出そうぜ。」

 テルマは、ぱあっと明るい顔を見せた。
 
レミーは、苦笑。
 
結局三人は、テルマの借りている部屋にやってきた。

 場末の酒場の三階にある狭い
部屋だ。
 中からごそごそ音がする。
 カズマがドアを開けると、デアスがテルマの荷物を漁っていた。
 
ドアが開いた音にさえ気がついていないようだ。
 
カズマは、後ろからデアスのアタマにケリをくれた。


「ぐへ!」

 アタマからつんのめる。

「な!なにしやが…る…」
 
尻切れトンボになるセリフ。

「今度は、コソドロか?」

 
さらに腹を蹴りあげると、デアスは悶絶する。

 
皮鎧や剣を、無造作に窓から放り出す。

「きたねぇサルマタだな。」
 
それも棄てる。

「これは?」
「そいつのさ。」

「じゃあいらねぇ。」
 
ポイ

「これは?」
「うん」

 ポイ


 最初からあまり多くもなかったデアスの荷物は、全部窓から棄てられた。
「ぐええ、な、なにを?」
「お前は、今日を限りにテルマから棄てられた。二度とこの部屋に戻って来るな。」

 
カズマに冷たく言われて、デアスはテルマの顔を見る。
 
テルマも冷たい目で、デアスを見た。
 
テルマは、デアスをにらみつけて首を横にふる。

 デアスは、がっくりと首を垂れた。

 
カズマに、その細い体からは信じられない膂力を発揮して、デアスの襟首をつかんで階段を下りる。
 デアスのケツが、がんがんと階段板に打ち付けられる音がする。
「いて!いて!いて!」
 階段板の数だけ、律儀に悲鳴を上げるデアス。
 一階に降りたところで、デアスを外に放り出した。
  
 ごろごろ転がるデアス。

 デアスの手から、銀のネックレスが飛んだ。

「アンタが買ってくれたのは、これだけだね。」

 テルマは、ネックレスを拾いあげて、デアスの顔に叩きつけた。
「おとといきやがれってんだ!」

 酒場の女は性根が据わっている。

 テルマは、中指立てて下品に自分のケツをたたいた。
「クサレ野郎が、二度とツラみせんな!」
 デアスは、さらにがっくりと首を落として荷物を抱えてとぼとぼ歩いて行った。
 別にデアスが特別ひどい奴と言うわけでもない気がするが、やはり女を殴るのは気に入らない。
「ねえ、カズマ、呑んでいってよ。」
 テルマは、カズマの腕を引いて店に向かう。
 カズマも気にした様子もなく店のドアをくぐる。

「なんだよテルマ、もめごとならよそでやっておくれ。」
 店のママは、不満そうな顔をする。
「ああ、もうあのバカは追い出したからもめごとはナシだよ。」
「おやそうかい?」
「ああ、清々したわ。」
 テルマはからからと笑う。

「その人は?」
「ああ、いま売り出し中の冒険者カズマだよ。」
「へえ~、盗賊三十人ぶっ殺したってやつ?」
「え~、アンタそんなことしたの?」
「まあな、偵察に行ったら襲われたんで返り討ちにした。」
「ひでえなあ。」
「この人、情け容赦ないからね。」

「なんだよ、ひでえなあ。」
 レミーはからから笑った。

 なんて話を思いついたので、少しふくらましてみました。
 このままじゃ尻切れトンボなので、後編も書こうと思います。
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