ヒノキの棒と布の服

とめきち

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第二十一話 魔法の修行?②

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 翌日、アランはかなり憔悴していた。
「ど・どうしたんだ?」
「おめえのせいだよ。」
 目が落ちくぼんで、目の下に盛大なクマができている。
「へ?」

「おめえが、才能見せるもんだから、ルイラが興奮して寝かせてくれなかったんだよ。」

「あ・ああ・あ~あ~、…ゴメン。」
 なんか、スマン。
「わかりゃいいんだよ、だから今日は昼前休んで寝る。」
「わかった、自主練してるよ。」
「たのむ、もう限界だ。」
 言うなり、アランは木陰で眠ってしまった。
 なんかいろいろスマン。


 俺は、アランの枕元に、四リットル樽に入った酒をお供えした。

 ち~ん

 おかげで時間ができたので、それからの時間は火球の数を減らすことに没頭した。
 人間追いつめられればなんでもできるものだ、昼飯少し前までになんとか一個にすることができた。

 喜んだのはルイラである。

「あんたはやればできる子なんだから、せいぜい修行しなさい。」
「ほえい。」
「気の抜けた返事ねえ、ほら、凝縮。」
「はい。」
 バスケットボール大の火球をぎゅっと凝縮して、ハンドボールくらいにする。
 これくらいなら、温度も上がりすぎず、色も明るいオレンジだ。
「そう、それでいいのよ。はい、的に向けて打ちだす!」

「いけ!」
 ぎゅうう~んんん


 ばごおおおおおおんん!

 的は、木っ端みじんに吹き飛び、地面にちらばった。

「すごい進歩だわ!これなら、次の段階にいけるわね。」
 やっと火魔法卒業である。

 次は?
「次は、水魔法ね。」
「水…」
「これも、玉にするところから始めるのよ。」
「はい。」
 ルイラは、手のひらにピンポン玉くらいの水玉を出して見せた。

「はい、水。」
「う~ん、魔力の流れは読めた。」
「やってみ。」

「水…」
 直径1メートルほどの水玉が出てきて、ルイラの頭上に浮いている。
 結果は火を見るより明らかだな。

 ずばしゃあ!

「…アホ。」
 ルイラは、地獄の底から聞こえるような、低い声で罵倒した。

 ローブも何も、水びたしで、体に張り付いて色っぽい。
「見るな!」
 がきん!
 ルイラの太い杖が、俺の頭上に急降下してきた。

 火魔法と風魔法を複合して、温風を作りだすと、ルイラの濡れた衣装はあっという間に乾いてしまった。

「おしい。」
「なんか言った?」
「いえ、なにも。」
「そう、じゃあもう一回ね。出現場所は、あそこにしましょう。」
 指さした先には、ヨールがいた。

「そりゃ悪いよ。」
「ユフラテが落とさなきゃいいでしょお?」
 ええまあ、そのとおりなんですがね。
 落ちる前提で、ヨールの上を指定しているような…

「魔法なんて、回数よ!何度も失敗して覚えるんだから、すぐにやりなさい。」
 ヨール、失敗したらごめんな。
 俺は、できるだけ小さくなるよう魔力を削って、水の玉を出現させた。
 成功だ!
 ヨールの上には、野球の球くらいの、小さな水玉ができている。

「上々ね。」
「あっ!」

 ぱしゃり。

「うっひょ~!」
 はんば居眠りしていたヨールは、これで目が覚めたらしい。
 一気に跳び起きた。
「ゴメン、ヨール。」
「んだよ、ユフラテかYO。」

 ヨールは、ベルトから手ぬぐいを抜いて、顔を拭いた。
「用意がいいな。」
「夏場は、汗っかきなんだYO。」
「そりゃよかった。」
 ヨールは、早々に避難した。

「なあなあ、ルイラ、こういうのはどう?」
 俺は、火魔法をマイナスに転換して、水玉を氷にして見せた。

「なにこれ?どうやったの?」
「え?火魔法は熱いほうにシフトした魔法だから、反対向きにしてやったら温度が下がって、凍った?」
「自分でもわけわかってないんじゃない!」
「ああうん、温度の動きが火魔法だと思ったから、熱いのはプラス、冷たいのはマイナスって定義付けたんだ。」
「めんどくさいこと考えたわね。」

「で、水魔法に、マイナス火魔法を加味したところ、めでたく氷になったってこと。」
「その論理は、いかがなものかしらね?」
「いいじゃん、この世界、意外とアバウトにできてるし、氷魔法なんて特別に覚える必要はないんだな。」
「氷屋にあやまれよ!」

 俺はカップに氷を入れ、水を注いでルイラに渡した。
「気が利くわね。」

 実に魔法はバリエーションが付けやすい。
 この世界の住民は、雷の論理がわかっていないから、雷魔法なんてものは使えない。
 しかし、俺は水魔法と風魔法でおもしろい実験をした。
 つまり、水蒸気を風でかき混ぜて、積乱雲を作ったんだ。
 当然、そこに摩擦が生じて、静電気が発生。

 めでたく雷が落ちた。
「ついでにルイラのカミナリも落ちた。」
「あんたなにやってんのよ、あたしまでしびれたじゃない!」
「すんません。」

 その後、ルイラはまじめな顔になって言った。
「しかし、これは新しい魔法ね、革新技術だわよ。」
「そうなん?」
「雷魔法なんて、あたしの師匠だって使えないわよ。あんた、革命をおこしたわね。」

 そんな大げさな。

「ばかいってんじゃないわよ、これ本当にすごい魔法なんだから。」
 ルイラはかなり興奮している。
「いい?この世界の人間は、どうして雷が落ちるかなんて、知りもしないのよ。でも、あなたは知っている。」
「うん。」
「その差が、いまの魔法よ!」
 正直、こんなこと知っていても当たり前だと思っていた。

「歴史に名を残すわよ。」

「いや、そんなのは遠慮したいわ。」
「え・でも…新魔法開発した人は、登録されるのよ。」
「じゃあ、ルイラの名前でいいじゃん。」
「それはだめよ、あたしもプライドがあるからね。」
「うわ~。」
「ああ、いいわ。悪いようにはしないから。」
「はあ…」
「それより、次は治癒魔法をやりましょう。」

「治癒魔法?」
「そう、怪我や病気を治す魔法。いちばん需要が高いわよ。」
「そっすか。」
 夜になって、治癒魔法の講義が入った。
 …で、始まったのは地獄のような時間…


「すべてはイメージよ。あなたはできる。こんな傷はすぐに元に戻る。」
 いや、痛いから!ナイフで指を切るのやめて!



 うげー、痛いって!

 治れ治れ治れ治れ…

「魔力を集中して、魔力で傷口を巻く感じ。ほら、治るわよ。」
 治れ治れ治れ治れ!
「もっと集中して。」
 ふさがるふさがるふさがる…

「そうそう、魔力が循環するわよ。」
 循環、まわる、まわる、治る
「ほらふさがった。できたわ。」
 できた…三日目にして、やっと傷がふさがった。


「いい感じよ。こんなに習得が早いなんて、やはり、あなたの魔力は強力ね。」
「先生がよかったからだよ。」
「あら…」
 さすがに、毎日指を切られては、真剣にやらざるを得ない。

 たとえそれが、自分の治癒力が上昇した結果であっても。
 なんとなく、治癒魔法なのか自分の治癒能力なのか、イマイチ自信はないよ。

「ファイアーボールもだいたい出るようになったし、ウオーターボールも出る。練習しだいで、どんどんうまくなれるわ。」
 それならありがたい。物理的な攻撃だけでは、なかなかはかどらないもんな。
「土魔法も、基本が入っているから、練習次第でいろいろ出来るようになるわ。まずは練習よ。」
「はい~。」

 土ボコで、穴掘りまくったからな。
 土魔法は得意なんだよ。
 
 剣も魔法も、かなり上達した。
 もともと剣は習っていたようなので、しみ込むのが速くて助かったし、魔法も素地があったのか、上達が早い。
 遠距離から隙を突くことができたら、こっちは安全だ。
 マレーネが、うらやましそうにこっちを見るけど、代わる?杖で殴られるけど。

 マレーネは、涙目でふるふると顔を横に振った。

 ちくせう。


「明日は少し違うことを覚えましょう。」
 ルイラ先生は、満足そうに笑ってうなずいた。
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