ヒノキの棒と布の服

とめきち

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冒険者ギルドもめんどくさい その②

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「ただいま~。」
「お帰りユフラテ、父ちゃんは工房に居るよ。」
「お、そうか。チコ、また儲かったから金預けておくわ。」
「もういっぱいもらってるのに。」
「ま、あって邪魔になるものでもあんめえ、これだ。」
「げげ、金貨じゃん!それをどうしろと?」
「まあ、生活費の足しにしてくれ、俺はまだもらってるから、こいつ一枚だけど、預けておくわ。」
「聞いたよ、盗賊の賞金だって?危ないことはしないってやくそくだったのに。」
「まあ、成り行きだもん、しゃあねえじゃん、そう怒るなよ。」
「今回は、だいぶん儲けたみたいだから、預かっとくよ。」
「かっちけねえ。」

 俺は、背中の剣をがちゃがちゃ言わせながら工房に入った。
「チグリス、ナマクラもらってきた。」
 チグリスは、横目でチラッと見て、ぼそりと言う。
「本当にナマクラだな、そんなもんゴブリンでも切れんぞ。」
 俺も、チグリスの剣を見てきたから、こいつが粗悪品だとわかる。
 鋳型に質の悪い鉄を流し込んで作ったナマクラだ。
「だねえ。鋳つぶして、何かの足しにしてくれよ。」
「ああ、その辺に積んどいてくれ。」
「了解、このへんでいいか?」
「ああ、そこでいい。」
 ほとんど見てもいないんですけど。
「ユフラテー、お茶飲む?」
「お~う。今行く~。」

 工房を出て、もう一度台所に戻る。
「ああ、これ返すよ。」
 チコは、前掛けのポケットから、小さな皮袋を出した。
「おう、すまなかったな。」
「なにそれ?」
「ああうん、名前はしらんが、便利な袋だ。」
 俺は、中から金貨を出して見せた。
「げげ!魔法の皮袋じゃん!そんなもの預けるなよ!」
「え?まんまやん。」
「それ、買ったらいくらすると思ってんのよ!」
「い~、見たことないからわからんし。」
「金板三枚はくだらないね。」

 チコは、ため息混じりに言った。
「そ・そんなにするのか!ヤベ~!」
「で?お金以外に何が入ってるのさ。」
「ああ、塩に砂糖にコショウに…」
「げげ、もっとヤバイモンが入ってたのか。」
 俺は、イスに座ってカップを手に取る。
「塩や砂糖は必要だろう?」
「そりゃまあ、あればありがたいけどさ。」
「じゃあ、台所に置いておこうよ、さすがに全部出すと台所が狭くなるから、一個ずつで。」
「ドンだけ入ってるのよ。」
 チコもいすに座ってあきれている。
「塩が壷で一五〇個。」
「はあ?」

「砂糖が壷で三〇個。」
「…」
「コショウがこの壷で、一〇〇個。」
 カップより少し小さい壷に入ってる、粒コショウだ。
 すり鉢ですりつぶすと、鮮烈な香りが立つ逸品だな。
「それ、家が建つ…」
 チコは、若干青ざめた顔で言う。
「そうなのか?」
「この地方で、砂糖・コショウは金持ちの食べ物だよ。」
「へ~、そうなんだ。」
「甘いお菓子なんて、なかなか高級品だしね。」
「そうなんだ、みんなチコにやる。」
「やめてよ!どこから盗んだかなんて聞かれちゃうよ!」

「ひとんちの台所なんて、だれも見やしないよ。」
「そりゃそうだけどさ。」
「ま、塩は丁度品切れ状態らしいから、あって損はないよ。」
「そうだね、ありがとう。」
 塩も砂糖も、台所の高い棚に収納された。
 湿気がこなくていいんだってさ。
 塩は、ピンクがかった粒の細かいヤツだ。
「これも少しお高いやつだよ。粒が大きいほど品質が悪くなるし、砂とか混じってくる。」
「砂あ?」
「だって、塩なんて地面に埋まってるし、露天掘りだよ。砂なんて、入ってあたりまえじゃない。」
「へ~、そうなんだ。なるほどねえ。」

「塩なんて、安くて当たり前だと思ってた。」
「どこのお貴族さまよっ!」
「あはは、さて魔法の練習でもすっかー。」
「うん。」
 俺は、裏庭に出て行った。
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