ヒノキの棒と布の服

とめきち

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冒険者は冒険してナンボ その④

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 チグリスの短剣だけでなく、盗賊の持ってたよさげなブロードソードを背中にしょって、リュックサックに古びた剣を何本も入れて歩く。
 村長の家には良さげな背負子があったので拝借した。

 すごいのは、三〇キロくらいの荷物を背負っているのに、ぜんぜん重く感じないことだな。
 体鍛えていた訳でもないのにな。

 帰り道は、鼻歌でルンルン歩いている。

 空にそびえるくろがねの城~だよ。
「とばっせ~てぇっけぇ~ん」

 それに合わせて、背中の剣ががちゃがちゃあいの手を入れる。
 空は晴れて、小鳥も飛ぶ。
 俺には、殺人の罪悪感がないのか?
 よくわからんが、精神耐性がべらぼうなんじゃないだろうか?
 ま、いろいろ忘れているようだから、無理に考えてもしかたがないんだが。
 盗賊に対する情容赦がないところが怖いじゃないか。

 来た時と同じ行程なので、帰還に二日かかった。
 何の変哲もない城門なのに、懐かしく感じたのは、ここが拠点になってるからかなあ?


「おう、ユフラテじゃないか、お帰り。」
 門番の兵士が声をかけてくれた。
「あ、えへへ、ただ今戻りました。」
「おう、道中無事だったようだな。」
「いや、無事でもないですよ、盗賊も出たし。」
「ええ!」
「ほら。」
 背中の二束三文を見せる。
「あらま、本当だな。」
「もうかりました~。」
「も、もうかったのか?」
「ええ、これで少し楽になります。」

「ま、俺たちにしても、塩が来るようになるならありがてぇ。」
「そですね、では通って好いですか?」
「おう、ごくろうさん。」
 俺は、にこにこと城門をくぐった。


 あとで慌てたのは門番たちだ。
「てえ!あいつ一人でなかったか?」
「そう言えば…剣が二十本くれえあったぞ。」
 城門では、にわかに騒がしくなっていた。

「ただいま~。」
 俺は、チグリスの家のドアを開けた。
「あ!ユフラテ、おかえり!とうちゃん!とうちゃん!」
 チコは、奥の工房に向かって声を上げる。
「あんだあ?チコ。」
 のっそりと出てくる、ずんぐりとした影。
「おお!ユフラテ!無事だったか!よかった!よかった!」
 チグリスは、大きな手のひらで俺の肩をたたきながらよかったと繰り返した。
 なんだか涙が出そうだ。

「うん、これからギルドに報告に行ってくる。」
「おお、帰ったらゆっくり呑もうぜ。」
「ああ。」

 ここに帰ってきたから嬉しかったんだな。

 俺は、懐の革袋をチコに預けた。
「チコ、これを持っていてくれ。」
「なにこれ?」
「大事なものだ、誰にも見せるんじゃねぇぞ。」
「うん、わかったよ。」
 チコは頭がいい。
 言ったことの三倍は理解している。
「じゃあ、ギルドに行ってくる。」
「うん、いってらっしゃい。」
 人間用心してしすぎるってことはないもんさ。
 特に、組合長(ギルドマスター)みたいなやつは、疑ってかかって当たり前ってもんだよ。

 腹くろいからな。

 腹黒なら、俺も負けてないかもな~あはは。

 職人街の広い路地を抜けて、メインストリートに出て、ゆっくり歩く。
 たまに知り合いが声を掛けてきたりする。
 ギルドでは、マスターが待っていた。
「おお!帰ってきた!」
「ああ?あたりめぇだろう。行ったら帰ってくるさ。」
「ああ…まあそりゃそうだが。」
「これ、土産だ。」
 リュックサックを下ろす。
 がちゃがちゃと、剣が雑音を洩らす。
「なんだこりゃ?」

「盗賊が持ってた剣だよ。」
「はああ?」
 昼間で、人数の少ないギルドの中は、大騒ぎになった。
「おい!ひとりで盗賊団をやっつけたのか!」
「お宝!お宝あったのか!」
「盗賊はどうした!」
 ギルドマスターは、冒険者を制して俺に声をかける。
「まあ待て、詳しいことを報告しろ。」
「どこがいい?」
「こっちへ来い。」
 二階のマスター室に入った。

「助かったよ、へんなもの他の奴に見せられないからな。」
「なんだ?」
 俺は、冒険者のドッグタグをポケットから出した。
「!」
「盗賊たちがぶら下げてたやつだ。」
「おおお!なんてことだ!」
「しょうがあんめえ、これが事実だ。」
「よく隠して持って帰ってくれた、ギルドの秩序が…」
「かなりひでえありさまだったぜ。モイラの村は、全滅していた。」
「な、なんだと!」

「言った通りだよ。盗賊二十八人が村人を全員殺して埋めた。これは、盗賊に聞いたからまちがいない。」
「…」
「そして、村人になりすまして、そこを拠点に盗賊家業を行っていたのさ。」
「ううむ。」
「この剣が証拠だ、奴らの持ってた剣はここにある。」
「おまえ、どうやってこれを…」
「なに、全員ぶっ殺して、奪ってきただけだ。」
「全員か!」
「あ、三人は魔物にやられた。夜の森に駆けこむなんてアホだな。」
「ちょっと待て!盗賊二十五人だぞ!」
「ああ、半分は落とし穴に落とした。まだ生きているかもしれんが、深さ五メートルだ出られやしねえよ。」
「のこりは?」
「全員、足切ってやった。朝になったら三人くれえいなくなってたから、魔物に引かれたかもな。」

「…、それで?」
「それだけだよ。ああ、盗賊に殺された冒険者のタグだ。」
 反対側のポケットから、棚に合ったタグを出して渡した。
「盗賊二十五人、全員ぶっ殺したって言うのか?」
「そうだよ。ああ、なんかガラクタが積んであったから、そのまま放置してある。なにしろカサがあるから、持ってこれなかった。」
「そうか、あとで馬車でも向かわせよう。」
「それと、こいつは盗賊の懐からもらってきた現金だ、おれが貰っていいか?」
「まあ、盗賊のものなんか、やっつけたやつのものだ。もらっとけ。」
 マスターは、大した額ではないと持っているようだ。
「そりゃありがたい、金貨三枚あったからな、しばらく喰えるな。」
「金貨だと!」
 わざと言わなかったんだよ、最初から知ってたら取り上げたろう。
「ううむ…ガラクタってなんだ?」
「ああ、鎧とかそんなもん、どっかの冒険者からむしったんじゃねえ?」

「ちくしょうどもが…」

「まあ、これで街道の安全は確保できたと思うぜ。」
「すまなかった、これは依頼領だ。」
 マスターは銀版を並べた。
「銀版五枚だけかよ。」
「賞金首については、あとで査定する。」
「ちゃんとするんだろうな。」
「当たり前だ、そこでズルしてんみろ、ギルドの信用がなくなるわ。」
「そりゃそうだな、頼んだぜ。」
 俺は、いすから立ち上がった。
「ドッグタグか…冒険者も喰えないとこうなるんだ。」
「そいつらは、根性がなかったのさ。あんたのせいじゃない。」

 マスターは、ふり返って俺を見た。
 俺は、ひとつうなずいて、部屋を出た。
「あ!剣は鋳つぶしたいから、あとでもらっていいか?」
「いいぜ、持ち主が特定できた後で渡してやる。」
「ありがとさん。」

 冒険者も、いいやつだけとは限らないよな。

「よ~、酒おごってくれよ。」
 痩せた、へんな奴が声をかけてきた。
「なんだ?」
「俺はヨールってんだよ、盗賊退治で儲かったろう?エールおごってくれよ。」
「見ず知らずの野郎におごる酒はねえよ。」
「そう言うなよ~。」
 まてよ、俺がいない間のギルドの様子が気になる。
「待てよ、おいヨール、酒おごってやる。」
「ほんとかヨー?」
「おう、着いてこい。」

 俺は、ヨールを連れて、表通りのカフェに向かった。
 道路にテーブルやいすを出して、勝手に商売やってやがるんだよ。
 ま、だれもそれを咎めるやつもいないがな。
 当たり前みたいに占有してやがる、これも文化かねえ?
「まあ、座れよ。」
「ヨー。」
「エール二つと、串肉二つ。」
「おつまみ付きかよ~。」
 エールが届く前に、ヨールに聞く。
「なあ、昨日ギルドであったこと教えてくれよ。」
「昨日か~、そうだな、知らない顔の若いのが何人も出入りしてたな~。」
「へ~、ヨールの知らない顔がいるのか。」
「このギルドも、ワタリが何組かくるからな、護衛なんかでほかの街の奴もいるし。」
「なるほどねえ。」
「そいつらは、何度も二階に駆け上がってたぜ~。」
「へ~、なにやってるんだろうな。」

「まったくだyo~」
 ヨールは気付いていないが、どうやらそいつらはギルドの情報屋だな。
 あの組合長は、闇でなんかやってやがる。
 まあ、あの盗賊どもの黒幕って訳じゃなさそうだけどな。
 器がちっちぇえから。

 あ!村長の家の落とし穴、埋めてくるの忘れた!
 だれか落ちてねえだろうな?

 一方ギルドマスターは…
「なにい!落とし穴?」
「はい、モイラの村の村長宅には、深さ三メートルの落とし穴が掘られていて、扉を開けたらまっさかさまです。」
「なんでそんなものが?」
「さあ?用心のためですかね?」
「それで、だれか落ちたのか?」
「いえ、すんでのところで腕をつかんだので、だれも落ちていません。」
「ならよかったな。で?略奪品はどうした?」
「ええ、どうにも、ガラクタばっかりで、あまりいい仕事はしていませんでした。」
「では、ユフラテの言う通りか。盗賊はどうしていた?」
「全員死亡です。地面に引きずった跡がありましたので、死体を持って行った魔物がいるようです。」
「ほう、落とし穴の中も確認したか?」
「村長宅のですか?」

「あほう、馬小屋の方にも落とし穴があったろう。」
「残骸で埋まっていて気がつきませんでした。」
「そうか、そっちは調べてこないといかんな。」
「そうですか?」
「ああ、ユフラテも放置して来たようだからな。」
 ポケットには金が入ってるかもしれんからな~(笑)
「外の盗賊は、全員足が切れてなくなっていました。」
「切れて?」
「はあ、切り口は焼け焦げて真っ黒でしたが。」
「真っ黒…どうやったのか、聞きたいようなキキタクナイような…」
「一部炭化していましたよ、よほどの高温でないと…」
「あいつ、なにやったんだ?」
「はあ、魔法でしょうか?」

「ユフラテが、魔法を使えるとは聞いてないぞ。」
「まあ、なにぶん情報が少ないですからね。」
 男は、マスターが情報を渋ったと見ている。
「偵察だけの予定だったからな、まさか全員ぶっ殺してくるとは思わんだろう。」
「まさに。」
「まあいい、この件は打ちきりだ。顛末は、殿さまに報告する。」
「はは、では失礼します。」
 マスターは、鼻から強く息を吐いた。
「まったく、手間がかかる。」
 ギルドマスターは、肩をすくめた。
「おらあ、正義の味方ってわけじゃないんだけどな。」

 じゃあ、悪の使者かよ?

「ちゃうわ!」






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