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 わたしがここで働き始めて一週間が経った。そう、一週間も経ったはずだったのだ。

 ツムギさんのこのお店――『ひだまり食堂』に、お客さんは、一人も来なかった。
 ツムギさんの性格だと、たしかに上手くやるには難しいだろうな、とは思っていたが、まさか一人も客が来ないとは思わなかった。繁盛していない、と言ったって、限度があるだろう。ぼーっと立って客を待っているのも疲れる。客が来ないので、汚れもしないから掃除もすぐに終わってしまう。
 これはまさか閉店まで秒読み、というほどまでにまずかったのだろうか。

 何か対策を考えないと……。
 とはいえ、シルヴァイスは識字率が低いようだから、チラシみたいなものを作ってもあまり効果は期待できない。
 となると口コミが一番いいのだろうが、わたしには声をかける知り合いが一人もいない。
 ないないづくめで困ってしまう。そもそも、既に変な噂が立っているのがネックなんだよな……。しかもかずりもしないような根も葉もない噂ではなく、間違っていると言い切れないものだから余計に質が悪い。

 料理はこんなにも美味しいのに、店にこないのなら、この素晴らしさも分かってもらえない。

「あ、あの……お、お昼です。どうぞ……」

 そんなことを考えていると、ツムギさんが声をかけてきた。
 正直、もうそんな時間? というより、ようやく昼か……という感じである。
 ひだまり食堂の営業時間は朝七時から昼三時までと、夕方五時から夜の九時まで。その時間、客が来ないとわたしはいつお客さん来るだろうか? と思いながら立っているしかないのである。
 ツムギさんは座ったらどうか、というようなことを言ってくれたのだが、もし客が来た時に、従業員が座ってくつろいでいたら感じが悪いだろう。ただでさえ、変な噂があるわけだし。

「ありがとう、じゃあ休憩貰うわね」

 休憩、と言っても何にも仕事していないのだが。開店前三十分の準備と閉店後三十分の片付けが一番仕事しているくらいだ。

 休憩室に入ると、テーブルの上にお盆がちょん、と載っている。
 今日のメインは肉じゃがで、日替わりのお味噌汁の具はホウレン草だった。賄いご飯は店がこんな状況なのでほとんど店の余り物だが、逆に言えばお金を出してでないと食べられないものが食べられるわけで。
 しかもツムギさんは気を使ってくれているのか、三食同じ内容が出てくることはない。合わせのお漬物すら、別である。

「いただきます」

 肉じゃがのじゃがいもは、に崩れていないのにとろとろしていて口の中で溶ける。味のしみ込んだお肉は非常にご飯が進むし、彩のためのサヤエンドウは少し食感が残っていて、それもまたいい。
 というか、サヤエンドウ、絶対筋が残っていないの、凄いんだよな……。前世で料理したとき、わたしだと絶対三本に一本くらいは残っていた。綺麗にとったつもりなんだけども。
 だしの風味が落ち着く味噌汁を少し啜って、わたしは息を吐いた。

「こんなにも、美味しいのになあ」

 ――今日も、彼の店に客は来ない。
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