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色街の聖女×少年吸血鬼

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 いつもは終わるとすぐ「疲れた」と言って寝るか、体を清めるかする。

 でも、今は違う。
 性的なことを避けている性格の彼が、この行為を性行為だと認めた上で、否定しない。

 わたしは、「少し待ってて」と立ち上がり、さくっと手を洗う。またすぐにべとべとになるのは分かっているが――このままだと、彼を抱きしめることができない。
 手を洗い終わり、ライールの元へ戻って、おいで、と両手を広げると、彼は迷いなく飛び込んできた。彼のさらさらの銀髪が、わたしの頬に当たって、少しだけくすぐったい。でも、そのくすぐったさが心地よかった。

「いっぱい気持ちよくしてあげる、けど、嫌なら嫌って、言ってね」

 今からすることは、吸血後の慰めだとか、そんな言い訳にもならない、明確な行為。彼が娼婦のお姉さんにされて、嫌だと泣いて帰ってきたことである。どこまでされたのかは分からないが、やることはきっとほとんど同じだろう。

 嫌よと言っても本心は、なんて夜灯の国ではよく言われるけど、わたしは閨事の経験があるわけでもないので、娼婦や遊女のお姉さん方のようにその微妙な一線を見極められない。
 ライール相手だと、多少はなんとかなるけれど、それでもまだ、少し自信がない。さっきもちょっと失敗したし。

 結局、わたしはただの耳年増なのだ。恥ずかしいことに。
 だから、予防として言ったのだが……――。

「きよか、なら、もっとしてほしい……から、大丈夫、かも」

 なんて、ライールが言う。
 ……なんかもう、わたし、少年趣味で加虐的な性癖持ちでいいや。ライールの実年齢を考えると、少年趣味、というには微妙なところではあるけれど……。
 この目の前にいる、見た目の幼い吸血鬼は、わたしをこじらせることに長けているようなので、仕方がない。

 いつもの、わたしに背中を預ける体勢になろうか、と、ライールの体を動かそうと思ったところで、ライールが、少しばかり抵抗を見せた。……こっちは駄目なのか。

「……きよかの顔、みたい」

「――んんッ、ごほんっ」

 あまりにも可愛すぎて、思わず咳ばらいをしてごまかした。
 本当に、ライールが今まで性的なものを避けて生きてくれてよかった。こんなに可愛かったら、男娼で世界を牛耳ることができていたかも。少なくとも、この国では一番になれる。

 でも――現実のライールは、男娼なんかじゃなくて。この姿を見られるのも、わたしだけなのだ。

「じゃ、じゃあ、このままで……」

 わたしは、どきどきしながら、体勢を変えさせるのをやめた。……わたしだって、見たいし。
 ライールの、泣きはらして少し赤くなった目じりに口づけをすると、ライールも、お返し、とばかりに、わたしの目元に唇をつける。

 あまりにも、初心な行動ではあったけれど、ライールが楽しそうなので、好きにさせる。口ではないからか、余計に抵抗がないようで、何度も、目じりや頬のあたりに口づけをしてくる。
 そういえば――いつも、手淫ばかりで、口づけとか、口吸いはしたことなかったかも。まあ、今までは、医療行為のようなもの、と騙していたから、当然と言えば当然なんだけど。

「……ライール、少し口開けて」

「ん」

 わたしが言うと、ライールは素直に口を開ける。幼い見た目には不釣り合いなほど、立派な牙が上下に二本ずつ、開ききってない唇の間から見える。ああ、これでいつも、わたしの肌に穴を開けて血を飲んでいるのか。

 わたしはライールの唇に自分の唇を押し付け、うっすらと開けてくれた間から、舌を滑り込ませた。

「――ッ!?」

 舌が入ってくるとは思わなかったのか、びくり、とライールが肩を跳ねさせている。でも、特に抵抗する様子は見られないので、嫌ではないんだろう。わたしと違って、しっかり目をつむっているし。

 でも……ここからどうするんだろう。

 口づけなら、唇をくっつければ終わりだと思うのだが、口吸いはどうやるものなのか、あまり分からない。
 露骨な技術に比べ、お姉さん方から情報を仕入れられていないのだ。お姉さんによっては、「どんな行為でも付き合うけど、口吸いだけは絶対に嫌」と言って、うまいことお客さんを誘導するくらい、特別なものらしい。

 確かにそれは、ちょっと分かるかも。
 初めてライールと口づけをして、身をもって実感した。性欲を満たすための行為だけとは、全然違う。なにか、もっと別のものが埋まっていく感じがする。

「ん……っ」

 舌を絡ませるんだっけ、となけなしの知識を総動員させ、ライールの舌をなめるように舌を動かすと、ライールが吐息交じりの声を漏らした。
 わたしにしなだれかかるライールが、わたしの服を引っ張る手に、少し力が入っているが――すぐに、それも緩まる。

 ……大丈夫っぽい。
 わたしはぎこちなくも舌を動かし、ライールの様子をうかがう。初心者なんだし、彼が不快に思わなければそれでよしとしよう。

 あ……そういえば、前に読んだ小説で、上あごのところを舐めると、登場人物がいい反応をしてたような……。

「んぁっ!?」

「――ッ」

 こんな感じ? と思って上あごをなめると、ライールが大きな反応を見せた。反射的に、と言わんばかりに彼の口が動くものだから、ぴり、と舌に痛みが走る。多分、ライールの牙で切ったに違いない。
 思わず声がでて、ほんの一瞬だけ、ライールの表情が、しまった、とでも言いたげなものになる。
 でも、すぐに、とろっとしたものに変わった。一瞬、開かれそうだったまぶたが、ぎゅ、と強く閉じる。

「あ――あ、ぅ……」

 口の中に、血の味が広がる。どうやら出血までしているらしい。ほんのりと鉄臭いだけだから、そこまでの量ではないと思うけど……。

 …………。
 ……あーあ、少年趣味で、加虐心が強い、とか、うみお姉さんのこと怒れないな、これ。

「――ッ、あ!」

 ぴりりと痛む舌先を、わざとライールの舌にくっつけるようにして、彼の熱へ、するりと手を伸ばす。
 すると、ぴったりくっついていたライールが、パッと顔を離す。血交じりの口吸いに堪えられなくなったようだ。

「きよ、か……っ。これ、や……ッ」

 彼のものを触るわたしの手に、息を荒げながらすがるようにするライール。
 嫌だ、とライールは言うものの、声は随分と甘い。本人は抵抗しているつもりなのか、身をよじるが、もたれかかったライールが崩れ落ちないように支えているだけの、わたしの片手を振りほどけずにいる。

「かわいい♡」

「ひぅ!」

 ライールの耳元でささやくと、びく、と彼の腰が跳ねる。早くも二回目の限界を向かえたようで、手に、じんわりと温かく、ぬめった感触がする。
 いつもなら、ライールが吐精してすぐに手を止めるが、今日はまだ動かしたままなので、高い声を上げながら、ライールがわたしの名前を呼んだ。

「き、きよ、かぁ!? なん、なんで、ん、ぁう!」

 ライールの、出したばかりの精液のおかげで、さっきよりもさらに滑りが良くなる。ぐちゅぐちゅと、卑猥な音が、はっきりと聞こえていた。もしかしたら、部屋の外に響いているんじゃないか、と錯覚してしまうほど。

 本能的にか、ライールは腰を引くが、わたしの腕の方が長いので、逃げ切れない。……本気でわたしを突き飛ばしでもしないかぎり。

「や、やめ……っ、やらぁ、や、あ、だぁ! お腹、あつ、あつぃよぉ……っ!」

 嫌だ、という割には、腰をくねらせるだけで、わたしにくっついてきて、離れようとしない。
 強く歯を食いしばる音が聞こえる。

「歯、痛めるよ?」

「だっ……てぇ……っ!」

 頑張って耐えているようではあったが、さほど長くは持たなかったようだ。そのうちに、がくがくと、彼の腰が跳ねた。
 手のひらに、精液よりも粘度の低い、さらさらとした液体の感触が伝わる。量が多く、わたしの手に収まりきらなかった分が、ぽたぽたとわたしの服や床にこぼれた。

 ……やりすぎたな。
 なんだか許されそうな雰囲気で、可愛くて、つい、手が止まらなくて。

 手は止めたものの、ライールの一物から手をぱっと離したら、手の中にある液体が全部下に落ちそうな気がして、どうしようかな、と目線だけ動かして拭けそうなものがないか探す。そういえば、この辺の引き出しの取っ手に手ぬぐいをかけていたはず……。
 わたしの意識が、少しばかり手ぬぐいに向かうと、肩で息をしているライールが、絶え絶えに、「ご、ぇん、なさ……」と謝ってきた。少しばかり泣いているようで、鼻にかかったような声だ。

「お、おし、っこ、漏らし、ちゃった……ぁ、ごめ、ん……」

「――……」

 わたしはすーっと、深呼吸をした。落ち着くために。ただ、部屋の中に雄臭さが充満していて、それが妙に、わたしの理性を取り戻す邪魔をしていた。

 止めなかったわたしの方が悪いのに。
 こうやって、ライールの方が謝ってくるなんて。

 わたしの中で、何か、燃え上がるような感覚に見舞われる。自分はこんなにも、加虐心の強い人間だっただろうか。
 聖女なのに。

 今、ライールを、ぐずぐずに可愛がって、気持ちよさに泣かせて、彼が嫌っていた性行為に溺れさせたくて仕方がない。

「おしっこじゃないよ。ほら、ちゃんと、見て」

 わたしはライールの一物から手を離し、手の中を見せる。動かした振動でわたしの服や床が濡れるが、そんなのはどうでもいい。あとで掃除すればいいだけである。

「これは潮っていって、気持ちいいと出ちゃうものなんだよ。女でも、吹けない人がいるのに、ライールは男の子でもできて、凄いね」

「……すご、い?」

 わたしはライールを支えていた方の手で、彼の頭を撫でる。こっちはまだ汚れていない。

「凄いよ。気持ちよくなって、潮まで吹けて偉いね♡」

 わたしがそう言うと、ずし、とライールがもたれかかっていた部分に、さらに重さを感じるようになる。
 安心して、完全に力が抜けたらしい。くったりとした様子。流石にこれ以上は無理か。疲れ切って眠くなったのか、ざきほどまでとは違う意味で、とろけたような表情をしている。

 わたしはなんとか、ライールを抱きかかえる体勢を崩さないまま、台所の棚の取っ手に引っ掛けた手ぬぐいを取る。
 明らかに足りないが、ないよりはいい。一枚の手ぬぐいで拭けるだけ、手や床を拭いた。

 それにしても……台所でこんなことしちゃって……。ライールが、料理をしているときに思い出したりしないだろうか。
 行為を思い出して恥ずかしがるライールは見ていたいが、料理中は料理に集中してもらわないと、怪我をしそうだ。……それとも、余計なことを考えながら調理をすると怪我をするのは、炊事関係全般が苦手なわたしだけなのだろうか。身長の関係から、踏み台を使わないと料理がしにくそうだったけれど、彼が困っていたのはそのくらいで、なんとも見事な手際だった。なら、安心して、彼が恥ずかしがるところを見ることができるだろうか。

 わたしが、片手で拭けるところまで拭き、そんなくだらないことを考えている間に、ライールの息が、少しずつ平常に戻っていく。……いや、どちらかというと、少し深くなっているかも。

「……もう、寝る?」

 これだけぐずぐずになっていたら、体を清めないと寝心地が悪そうだが……。これだけぐったりと疲れていたら、今から湯あみは難しいだろう。軽く体を、お湯で濡らした手ぬぐいで拭くくらいが限界か。

「――ん、ねる」

 ライールは、小さくつぶやいたかと思うと、わたしの頬に口づけをした。

「……痛くなかった?」

 うとうと、とし始めたライールに、わたしは聞く。途中でわたしが楽しくなっちゃったけれど、彼は辛くなかっただろうか。
 そう思って聞いたけど……。

「……嫌だったら、今度こそ逃げてる」

 みなまで言わせるな、と言わんばかりの声音だった。強い照れを感じる。

「嫌じゃないから、困るんだ。……ダリルにどんな顔して会えばいいんだろ……」

 そういうライールの横顔は、本当に困っているように見えない。
 ダリルさんになんて言われるかは分からないけど――わたしが責任もって、ライールを騙すような輩から守っていくので任せてほしい。……わたし自身が、彼に色々吹き込むのは……ライールが本気で嫌がらない範囲でやるので、見逃してほしいな。

「性行為なしで生きていけなくなったって、わたしが責任とっていつでも付き合うからね」

 ライールの耳元でささやくと、彼がゆっくりと、こちらを向いた。

「……ばか」

 ――その表情が、疲れ切って呆けている中にも、期待している欲の色が透けて見えていたことは、言うまでもない。
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