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猫かぶり聖女×奴隷吸血鬼

02

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 聖女の仕事自体は大変じゃない。もちろん、楽ってわけでもないけど。

 二百年くらい前の聖女が、それはもう偉大で、彼女の功績はいまだに健在だった。ティディアン聖国には【黒】がたまりにくく、その割には人外種が寄ってこない。
 【黒】がたまりにくいのは、二百年も前の聖女の浄化の影響が残っているからで、人外種が集まってこないのは、ティディアン聖国で人外種が暮らすには、法律が厳しすぎるから。そして、その法律を決めていったのも、偉大な聖女様だった。

 聖女としての能力も、民をまとめる政(まつりごと)のセンスも、ずば抜けていたようだ。彼女が没してから二百年、ぽつ、ぽつと聖女が数人しかいなくてもなんとかなったのは彼女のおかげ。そうでなければ、隣のノアト王国みたいに、どこかの国の傘下に入らなければこんな小国、やっていけなかっただろう。
 本当に、偉大な聖女様がいたものだ。

 なので、さほどわたしの仕事はない。偉大な聖女様の浄化がほころんでいるようなところをちゃちゃっと直せば、それでおしまい。今日なんか、【黒】の浄化自体はいつもより更に早く終わったくらい。

 他の国では、何人も聖女を雇用していたり、いっそ組織化していたり。数が少ないところでは他国に支援してもらったり、一人当たりの仕事量がえげつないことになっている――と、聞いたことがあるけれど、この国の聖女がわたし一人でありながら、仕事がほとんど積もっていないのは、偉大な聖女様のおかげ、というところだろう。そもそも国自体が大きくない、というのもあるけれど。

 とはいえ、馬車を止めた場所から、【黒】が発生している場所が少し遠くて、結果としてはそれなりに時間がかかってしまったけど。体感だと、馬車から降りての移動距離の方が長かったように思う。
まあ、今日の現場は山の中。人が歩くのがやっとなくらいの急斜面の細道を通ることでしか現場にいけないので仕方がない。馬車で行くなんて、到底無理な話だ。
 山道を歩いたからか、聖女の衣装が少し汚れてしまった。まあいっか。どうせ洗濯するのわたしじゃないし。
 それに、聖女として働いた結果ついたものなのだからどうしようもない。

「ただいまー――っと」

 馬車に戻ると、半泣きのドドがいた。

「あらま」

 わたしは自慰をするのは駄目だし、服を着て隠すのも駄目、とは言ったけれど、膝立ちのままで居ろと言った覚えはない。なのに、ドドは律義に膝立ちでわたしの帰りを待っていたようだ。太ももがプルプルと震えている。

「お、かえりなさいませ、シャシャ様。ご無事で、なにより、ですっ」

 しかも第一声がこれだ。

 ――なんて従順な奴隷。わたしの機嫌を損ねれば死ぬと思っているのか、それとも、単純にそう言う性格なのか。

 年下の女にこんなにもいいようにされて、しっぽを振るなんて馬鹿みたい。
 頭の片隅では冷静なわたしがそう思うのに、可愛いわたしの奴隷が頑張っている姿を見ていると、ふつふつと、腹の底が熱くなる。
 こんなに頑張ったのだ。ご褒美を上げねばなるまい。

「ドド、椅子に座っていいわよ」

「ありがとう、ございます……」

 ほっとした表情を浮かべたドドはよろめきながらも、なんとか椅子に座る。ふらふらとして、危なっかしい。
 ……ちょっとやりすぎたかな。次からはちゃんと指示してあげないと。
 そんなことを思いながら、わたしはドドの隣に座った。

「ちゃぁんと、ご褒美はあげないとね?」

 わたしはつつ、と人差し指でドドの固さを失っていない上反りを、根元から先まで優しくなぞった。

「――ひぅっ!」

 びくり、とドドが体を震わせる。ふっと耳元に息を吹きかければ、こんな大柄の男が出すとは思えないような、可愛らしい声がドドの口からこぼれる。

「帰り道は長いし。いーっぱい、楽しんでね」

 わたしが言いながら、そっとドドの欲を握れば、その熱さが手のひら全体に伝わる。
 ちょうどそのタイミングで――がたり、と馬車が動き出す。
 ところで、わたしの馬車を動かす御者は、口が固いだけでなく頭がいい。察しがいい、とも言う。馬車に乗る前のことだが、彼のポケットにお金を少し詰め込んだ。
 彼なら、わたしが何も言わなくても、意図を察したはず。

 きっとこの馬車での帰路は、行きよりもずっとゆっくりだ。
 ――その分だけ、楽しもうじゃないか。

 垂れる先走りを彼のものに擦りつけるようにして、ドドの熱をしごく。最初はなるべくゆっくり目に。徐々に速度を上げたり、少し焦らすように、緩急をつける。頑張ったご褒美だから、あんまりもったいぶるようなことはしない。
 それでも、最大限気持ちよくなってもらうことを考えると、どうしても焦らしが入ってきてしまう。

「気持ちいい?」

「――ッ」

 ドドに問えば、彼は必死に首を上下に振る。ドドがどう思ってるかなんて、わざわざ聞かなくても分かるけれど、わたしはあえて尋ねる。普段は性欲のかけらもなさそうなこの男が、快楽に溺れているのを見るのが大好きなので。

 もどかしそうに、服の腹のあたりをつかんでいたドドが、だんだんとわたしに寄りかかってきて、最終的には縋り付いてくる。ガタイのいいドドが抱き着いてくると、結構視界が悪くなるのだが、ドドを慰めるのも慣れたもので、目をつむってたって、相手をできる。まあ、流石にそんなことはしないけど。
 ――だって、顔を真っ赤にしてもだえるドドを、少しでも見ないなんてもったいない。

「シャシャさま、シャシャ、さ、まぁ……っ!」

 大の男がわたしに縋りつきながら、必死に名前を呼ぶ。その声は絶えだえで、余裕を感じられない。本当に限界が近いのか、ドドが自ら腰を振り始める。

「あ、あぅ――ッ、ああっ」

 わたしをぎゅっと抱きしめながら、ドドが体をびくびくと震わせる。ドドの太い腕で半分くらいふさがれた視界に、ドドが出した精液が勢いよく床に落ちていくのが映った。
 勃ったままのものをそのままにさせ、長い間放っておいたからか、結構な量が出ている。

「は……っ、は……っ」
 ぴゅ、ぴゅ、と何度かに渡っての長い吐精が終わっても、ドドの欲は固いまま。まだ足りないらしい。
 しゅる、と手淫を続けると、ドドが、ひと際高い声を上げた。

「床に、こんなに出したのに、まだ物足りないなんて」

 馬車の中は、ドドが出した精液の臭いでむせ返っていた。

 行きと違って、帰りは民衆の出迎えがないから見られる心配もない。たまに誰か、平民と出くわしても、馬車から手を振ればいい。明らかにパフォーマンスとしてやっている出発のときのように、馬車のぎりぎりまで誰かがくるようなことはない。
 だから、窓から見えない範囲の床に何があろうと関係ないのだ。掃除するのもわたしじゃないし。

「やめ、やめ、て、くぅっ……、先、先ほど……ああっ!」

 びくびくと、ドドの内ももが震える。達したばかりのところを触られると敏感なのは、男も女も変わらないようだ。
 それでも、わたしは手を緩めない。この状態での「やめて」が、本当にやめてほしいパターンだったことなんて一度もない。

 そのまま、二度目の射精を促そうとしたとき――。

「せ、いじょ、さま……っ」

「――は?」

 ドドのその言葉を聞いてわたしはぎゅっと、ドドのものを握る手に力を込めた。ドドの、息が詰まるような声が聞こえる。

「誰が、なんだって?」

 自分でもびっくりするくらい、固い声。わたしの口から出ている。

「も、もうしわけ――ぐっ!」

 わたしはドドのモノから手を離し、謝罪しようとしているドドの肩を思いっきりひっぱたく。聖女の力を込めて。

 ドドはあっけなく椅子から落ちた。咄嗟に手をつくのが間に合ったようで、向かいの椅子に顔面を打ち付けるのは免れたようだ。
 でも、体勢に気を使う余裕までなかったようで、わたしの方に尻を向けるような体勢になっている。下半身だけ、全部脱がせているので、かなり間抜けな格好だ。

 ドドが姿勢を直すより早く、わたしは目の前の尻を思いっきりひっぱたいた。

「何が聖女よ! わたしの名前は! 『聖女』じゃない!」

 バチン、バチン、と、何度も、力の限りひっぱたく。わたし自身の手も痛いくらいだったが、そんなのは関係ない。
 二、三度叩いただけで、ドドの尻は真っ赤になる。怒りに任せて叩けば、聖女の力も乗ってしまうようで、軽い水膨れのようなものができていた。
それでも、手を止める気にはならなかった。

 ――バチィン!

「――うぅっ!」

 ひと際強く叩くと、ドドが呻き声を上げる。

「ドド! わたしの名前は!? 言ってみなさいよ!」

「しゃ、シャシャさま、シャシャ様ですっ……! ぐぅっ!」

「分かってるなら間違えるな!」

 もう一度、強くひっぱたこうとしたそのときだった。

 ――コンコンコン。

 車体を三度叩く音。その音に、わたしは一瞬で我に返る。もうすぐ街につくという、御者の合図だ。……もうそんな時間? 元より街に近い場所ではあったけれど――せっかくお金を握らせたのに、こんなにもすぐついてしまうなんて。

 わたしは荒げた息を整えるため、軽く深呼吸をする。

「――ッ、ふぅ……。……ドド、街に入るからそのまま頭を下げて――あら」

 馬車の外からドドが見えないよう、隠れて貰おうと彼を見たとき、床に散る精液が、増えていることに気が付く。

「なぁに、ドド。アンダ、わたしに尻を叩かれて気持ちよくなっちゃたわけ?」

 する、と、叩かれた跡が酷く残る尻を撫でると、小さくドドの嬌声が聞こえた。本当に叩いて痛めつけるのでよくなってしまったらしい。

「――可哀想な男」

 わたしは窓の外を見る。……もう、街に入る門のすぐ傍だ。わたしは姿勢を正す。いつ、誰とこの馬車がすれ違ってもいいように。

「こんな、我がままなガキのいいようにされるなんて、奴隷って、本当に嫌ね」

 ドドを見ないまま、わたしは言った。門をくぐったら、わたしはドドの飼い主だけじゃなくなる。もし、街の住人に気が付かれて手を振られたら、わたしも振り返さないといけないのだ。

 ――それがこの国の聖女だから。

「……シャシャ様は」

 ドドがわたしに、声量を押さえて話しかける。馬車の中の音はあまり外には漏れ出ないから、そこまで声をひそめる必要はない。まあ、さっきみたいに騒いでいたら流石に外へ聞こえるから、ドドの尻を叩いてヒステリーを起こしていたことは、御者に丸聞こえだろうが。
 わたしはちらっと一瞬、ドドに目線だけ移すとドドはわざわざ体勢を立て直した。
精液と汗でぐちゃぐちゃになった床にセイザまでして。外からは絶対に見えないように気を使っているのか、背は曲がっているが。

 彼の体は軽く震えていた。こんな風に、姿勢を整えるのもつらいだろうに、表情ばかりはうまく取り繕っている。

「シャシャ様は、『我がままなガキ』ではありません。違います」

 ただ、声音だけは強かった。疲れからか、少し震えていて、さらにわざと声を落としているだろうに、はっきりと耳に届く。
 ドドは、そんなことを言いながら、シャツを脱ぐ。ついに全裸になったドドは、そのシャツでもって、わたしの汚れてしまった手を拭いた。

「……こんなにされても、まだ言えるの? 流石奴隷ね」

 呆れた根性だ。奴隷って、皆こんなものなんだろうか。ドド一人で満足してしまったから、他の奴隷は見たことがない。ドドを買ったきり、奴隷商と連絡は取っていないし、わたしに奴隷商を紹介した教団員が買った奴隷に会うこともなかったし。

「いいえ、本心です」

「そんな――」

 そんな馬鹿なことをよく言えるわね、と、最後まで言えなかった。窓の外で、わたしに気が付いた子供たちが、大きく手を振っていたから。
 わたしはいつもの、『聖女の笑顔』を浮かべて、手を振り返してやる。子供たちは、わたしが手を振ってやったのが分かったようで、嬉しそうにはしゃぎ合っている。

 なんて無邪気。
 きっとあの子たちは、馬車の中はこんなことになっているなんて、微塵も知らず、欠片も想像することなんてないのだろう。

「俺は――シャシャ様の元に居られて、幸せです」

 馬車の中。小声ではあったけど、ハッキリとドドは言った。

 命を救われたからって、ここまでするなんて、本当、馬鹿みたい。

 そんなことを思っても、口には出せなかった。誰かと話していることを見られるのがまずいからじゃない。

 常に死がご近所のスラムという場所から、聖女としてすくい上げられたわたしも、こうして平民の理想の聖女を演じて、仕事をしている。
 内容が違うだけで、わたしもドドと同じようなものだったから。衣食住を握っている相手が望むがままの反応を見せ、こびへつらっている。

 教団に命を救われたわたしもまた、『聖女』という名の道具なのである。
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