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☆酒好き追放聖女×俺様系伝説の吸血鬼
03
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不服、と言わんばかりの表情を隠しもしないシルム。その表情が、どうにも第二王子を思い出させてイライラしてくる。どうしてこうも、顔のいい男って自分に絶対の自信があるのかしら。
第二王子に関しては、王族だから、というのもありそうだけど。イエスマンで周りを固めていた人ではなかったけれど、自分に対して厳しい意見を言う人物ばかりを従えていた印象もない。
もしも第二王子の周りにそういうしっかりした人がいたのなら、今わたしはこの場にいなくて、未だにノアト王国の聖女をやっていたことだろう。
……はー、やだやだ。どうでもいいこと思い出しちゃった。もう、思い出す必要もないのに。
「――えい」
「っ!?」
わたしは起き上がりながら、シルムの肩を強く押した。上下が簡単に入れ替わり、わたしはシルムのお腹の上に、馬乗りになる。
「な、なんで……」
「あれ、知らないの? もしかしてシルムって見た目より若い?」
吸血鬼という種族は、見た目と実年齢が一致しないことが多い。
一般人は、血を飲むことで若さを保っている、という認識らしいが、少し吸血鬼という生物について調べれば分かること。いつまでも若くいられる、と言うのは正確ではなく、『見た目が変わらない』というのが正しい表現だ。
この世界の吸血鬼という生き物は、生後五年程度で成長しきる。本人が求める血を最も吸いやすい姿に成長するのだ。
赤子のように見えて実はもう何百歳という吸血鬼もいるし、美青年に見えてまだ七歳ほど、という吸血鬼も珍しくない。逆に、老人のような見た目をしている者もいると聞いたことがある。
シルムの実年齢がいくつかは知らないが、この姿をしているに、彼は若い女性の血が好きで、その血を吸いやすいように、こうして女性に好かれやすい整った容姿をしているのだろう。実際、若い女を求めているようだったし。
わたしに、若い、と言われてカッとシルムの顔が赤くなる。
「――若くない!」
うーん、その反応では結構若そうだ。歳を取っていれば、もっと老獪なものである。
実際に、見た目が若く、実年齢は何百歳、という吸血鬼に会ったことがないから、完全にイメージではあるけれど、人間でも、子供扱いされて怒るのって、大抵実際に子供だったりするから、わたしの予想はそう遠く外れていないと思う。
と、そんなことを伝えるとさらにうるさくなりそうなので、わたしは余計なことを言わずに、聖女の力について教えてあげる。
「聖女って、人外種に対して抵抗力があるものなの。吸血鬼の魅了が効かないとか、そういうのだけじゃなくて、物理的にもやり返せるのよ」
これは初歩中の初歩。お酒が入っていたってコントロールを誤ることはないくらいの。と言うか、コントロール云々以前の問題である。下手に攻撃してしまわないように、【黒】の浄化が働かないよう意識するだけ。
まあ、いくら聖女が人外種に対しての抵抗能力を持ち得ているといえど、普通に体格差があれば負けてしまうものなのだが――シルムは、すっかり『わたしに敵わない』と思い込んでいるのか、本気で抵抗するそぶりを見せない。
そう思わせた時点でわたしの勝ちである。
シルムに対してマウントを取ったわたしは、自分の左の手のひらを、右の人差し指でなぞる。なぞった後は、切り傷のようになって、ぷつぷつと血があふれ出す。
これも聖女の力の応用。傷を治すことができる力は、それを逆に使えば傷つけることもできる。空中の【黒】をかき集めて、傷つけたい場所に押し付けるイメージで行うと、あっさりと傷ができる。
これは、おそらく、ノアト王国の人間も知らない、わたしだけの発見。
わたしの左手から、血が滴り始める。
……ちょっとやりすぎたかな。傷が深くて普通に痛い。やっぱり、お酒が入っているとコントロールが難しくて、基礎程度のもの以上のことは思った通りにいかない。
まあ、いいか。
わたしはその左手を見せびらかすように、シルムに言った。
「ほら、お腹、空いてるんでしょう? 貴方が好きな若い女、居なかったんでしょう? 言わなくていいの? 『飲ませてくださいお願いします』って」
その間にも、わたしの手のひらからは血があふれ出す。腕を伝う血を、わたしは思わず、ぺろりと舐めとる。
ただの、血の味。おいしくないし、むしろまずい。
でも、シルムの目には、この血が、なによりもごちそうに見えるのだろう。目をぎらぎらと光らせながら、わたしの血に、釘付けになっていた。
ごくり、とシルムの喉が上下する。生唾を飲み込む音が、やけに、部屋に響いた。
「どうするの? わたしはいいわよ、別にそこまでヤりたいわけでもないし」
もとより、好奇心だけでここにいる。性に対して執着しているわけではないので、ここで、はい解散、となったところで、わたしは何も困らない。
シルムが歯を食いしばる。視線はわたしの血に釘付けなのに、表情は苦いまま。試しに軽く、彼の目の前で左手を、左右に行き来させれば、面白いくらい、シルムの視線はわたしの左手についてくる。
そこまでして飲みたいのに、喉が乾いてしかたがないのに、「飲ませてください」とお願いするのが、彼のプライドに障って出来ないのだろう。
素直に飲みたいって言えばいいのに。
わたしだって鬼じゃない。飲みたいです、飲ませてください、って一言、言ってくれればすぐにでも、この手のひらを舐めさせてあげる。
ただ単に、向こうが望んだことのはずなのに、『飲んでやろう』って、あたかもわたしが求めているような状況にしようというのが気に食わないだけなのだ。
「ほらー、どうするー? ……っと」
「――っ!」
ゆらゆらと、彼の目の前で手を揺らしていたが、傷が深いのとお酒が入っているのとのダブルパンチで、出血がなかなか激しい。ぽた、ぽたり、と二滴程、彼にかかってしまった。
一滴は彼の頬に当たり、もう一滴は彼の口の中へと入る。
むむ、まだ「飲ませてください」と言われてないのに、口に入ってしまったか。
まあ、これはしょうがない、と思いながらわたしは服で腕を伝う血をぬぐう。
「ほら、早く飲みたいって言わないと、わたしの服、が、ぜんぶ――……」
わたしの服が全部吸っちゃうぞ、なんてアホみたいなことを言おうとして、固まった。
ごくりとわたしの血を、たった一滴の血を飲んだだけのシルムが、ふーふーと鼻息を荒くして、顔を真っ赤に染め上げていた。
――そして、独特の、雄の臭い。
「え、もしかして……」
わたしは腕を拭くのをやめ、後ろ手で、シルムの股間の辺りを撫でる。
「ひぅ」という、短い、吐息のようなシルムの喘ぎと、ぬとり、という、服越しでも分かる、少しだけ湿っぽい感触。
間違いない。こいつ、わたしの血を一滴飲んだだけで、射精したのだ。早漏ってレベルじゃないわ、これ。
「早……」
思わず言ってしまうと、ぼたぼたと、シルムが大粒の涙をこぼした。まさかの反応に、わたしは、次に何を言おうとしていたのか、忘れてしまった。フォローのしようもない。
「お、お前が! お前が悪いんだろうが!」
赤い顔をくしゃくしゃにして泣く姿は、見た目よりもずっと幼く感じる。いや、わたしだってこんなんですぐイっちゃうと思わないわ。
雑魚じゃん。何が伝説の吸血鬼だよ。
とは流石に可哀想すぎて言えなかった。
「聖女の、血だぞ! 覚悟もなく、飲めるか!」
「……そんなに違うものなの?」
「全然違うッ!」
シルムに言わせれば、聖女の血は、普通の人間とは比べ物にならないくらい『イイ』らしい。
味は勿論、香りも格別。そして、同時に、吸血鬼特効の催淫効果があるのだという。だからこそ、飲みたくても、簡単に飲めないし、主導権を渡して飲むことはしたくなかったという。
シルムには、こうなることが分かっていたのだろう。
「ふぅん……」
ぐすぐすと泣きながら、そんなことを教えてくれるシルムを、いいことを聞いた、と、わたしは見下ろした。
わたしは指を舐め、唾液を多めに付着させ、手のひらの血と混ぜ合わせ、シルムの口に突っ込む。
「ン!? っふ、……うぅ」
くちゅくちゅと、わざと音を立てながら、わたしはシルムの口の中をまさぐった。シルムの舌に、わたしの唾液で薄まった血を塗りたくるようにして、指を這わす。
わたしが指を動かす度、分かりやすく彼の肩が跳ねる。
「ほら、美味しいんでしょう? 唾液で薄まった血じゃなくて、ちゃんとしたの、飲みたいでしょう? ――なら、分かるわよね」
わたしが言うと、シルムはようやく観念したのか、こくこくと頭を縦に振り、わたしの指を、必死にねぶった。
「――血を、飲ませて、くださ、い……ッ」
不服、と言わんばかりにこちらを睨みながらも、その言葉をようやく口にした彼に、わたしは上から降りて、肩を差し出した。吸血鬼と言えば、ここだろう。ちなみに手はさくっと聖女の力で治癒しました。
シルムはゆったりと起き上がり、わたしの肩口に顔をうずめる。
「――ふ、ぅ」
ぺろ、ぺろ、とシルムがわたしの肩を舐める。どのあたりから血を飲むか決めかねているのか、それとも、飲む覚悟を決めているのか。わたしにはくすぐったいだけだが。
「――っ」
く、と肩に歯が食い込む感覚。思っていたよりは全然痛くないが、それは想像よりも痛みがないという話であって、麻酔をされたかのように、感覚だけがなんとなくあるわけじゃない。
ちゅう、とシルムが音を立てながら、わたしの血を吸う。頭が肩口にあって、すぐ傍にいるからか、血を飲む音がよく聞こえる。
こく、と一口飲むたび、シルムは口を離し、荒く息継ぎをしている。飲むのに覚悟がいる、というのは嘘じゃないらしい。まあ、別に疑ってもいなかったけど。
それでも、彼が傷つけた場所からあふれる血が垂れるのがもったいないのか、ぺろぺろと息継ぎの間にわたしの肩をなめる。くすぐったいってば。
吸血行為自体は歯を食いしばって耐えるようなものでもなくて、正直、痛みよりくすぐったさとか、もどかしさのようなものの方が大きい。シルムの牙が食い込んだ一瞬に痛かったけど、本当にそれだけ。なんなら、さっき自分で左手を傷つけたときの方が痛かったくらいだ。
だからか、なんとなく、手持無沙汰になってしまう。暇――というとシルムが可哀想だが、でも、どうにも余裕があるのも、また事実だ。
「――……」
ふと、シルムがもぞもぞしていることに気が付く。最初は、飲みやすい位置を模索しているのか、と思っていたがどうやら違うらしい。
腰が動いている。わたしの手に、股間を擦り付けるように、シルムの、腰が。
必死になって血を飲みながら、腰を動かすシルムに、つい、いたずら心がむくむくとわいてくる。
わたしはシルムが再度わたしの肩に噛みついて、血を飲むのに夢中になっているタイミングを見計らって、彼のベルトを外し、その中へと手を滑り込ませた。
一度出したにも関わらず、再度固くなって熱を持っているソレに手を這わす。
「ひ、ッ――な、なに……?」
わたしのあごを載せていたシルムの肩が大げさな程跳ねる。口を開けていたら舌を噛んでいたかもしれない。
「あは、女みたいな声だすのね」
高い声が可愛くて、わたしは思わず笑った。
「――、この!」
「おわっ」
どさっと押し倒される。まだそんな力と気力が残っているとは思わなくて、変な声が出てしまった。
口の端に血をつけたシルムは、真っ赤な顔をしている。本人はわたしを怖がらせようとして睨んでいるのかもしれないが、鳴いた跡がハッキリ分かる赤い目じりに、涙目なままでは、迫力なんて欠片もない。
わたしはシルムの行動に構わず、再び彼の熱に手を伸ばし、緩く上下させた。ここでわたしの手を防げないほどには疲労しているらしい。可愛い子。
「あ、あ……ッ」
がくり、と彼の腕から力が抜けて、覆いかぶさってくる。高くて可愛い喘ぎ声が、すぐ耳元で聞こえてきた。
「もうお腹一杯? それともおかわりはいる? ――黙ってちゃわかんないわよ」
「ひ、ア、手、手を、止めろ――止めて、ください……っ! ごち、そうさま、もう、いらない、いらない、から、ァ!」
わたしが手を動かすたびに、面白いくらいびくびくと彼が動き、嬌声を上げる。
「そ、お粗末様?」
別に料理を作ったわけではないが、わたしの血を飲ませたので、まあ、お粗末様で間違いはないだろう。
手を動かすスピードを上げると、シルムが腰を逃がす。させるか、と言わんばかりに、わたしは片足を器用に使って、彼の腰を押さえつけた。
「――――ッ」
彼の高い声を聞き、手に湿った感覚を感じながら、わたしは深く息を吐いた。
第二王子に関しては、王族だから、というのもありそうだけど。イエスマンで周りを固めていた人ではなかったけれど、自分に対して厳しい意見を言う人物ばかりを従えていた印象もない。
もしも第二王子の周りにそういうしっかりした人がいたのなら、今わたしはこの場にいなくて、未だにノアト王国の聖女をやっていたことだろう。
……はー、やだやだ。どうでもいいこと思い出しちゃった。もう、思い出す必要もないのに。
「――えい」
「っ!?」
わたしは起き上がりながら、シルムの肩を強く押した。上下が簡単に入れ替わり、わたしはシルムのお腹の上に、馬乗りになる。
「な、なんで……」
「あれ、知らないの? もしかしてシルムって見た目より若い?」
吸血鬼という種族は、見た目と実年齢が一致しないことが多い。
一般人は、血を飲むことで若さを保っている、という認識らしいが、少し吸血鬼という生物について調べれば分かること。いつまでも若くいられる、と言うのは正確ではなく、『見た目が変わらない』というのが正しい表現だ。
この世界の吸血鬼という生き物は、生後五年程度で成長しきる。本人が求める血を最も吸いやすい姿に成長するのだ。
赤子のように見えて実はもう何百歳という吸血鬼もいるし、美青年に見えてまだ七歳ほど、という吸血鬼も珍しくない。逆に、老人のような見た目をしている者もいると聞いたことがある。
シルムの実年齢がいくつかは知らないが、この姿をしているに、彼は若い女性の血が好きで、その血を吸いやすいように、こうして女性に好かれやすい整った容姿をしているのだろう。実際、若い女を求めているようだったし。
わたしに、若い、と言われてカッとシルムの顔が赤くなる。
「――若くない!」
うーん、その反応では結構若そうだ。歳を取っていれば、もっと老獪なものである。
実際に、見た目が若く、実年齢は何百歳、という吸血鬼に会ったことがないから、完全にイメージではあるけれど、人間でも、子供扱いされて怒るのって、大抵実際に子供だったりするから、わたしの予想はそう遠く外れていないと思う。
と、そんなことを伝えるとさらにうるさくなりそうなので、わたしは余計なことを言わずに、聖女の力について教えてあげる。
「聖女って、人外種に対して抵抗力があるものなの。吸血鬼の魅了が効かないとか、そういうのだけじゃなくて、物理的にもやり返せるのよ」
これは初歩中の初歩。お酒が入っていたってコントロールを誤ることはないくらいの。と言うか、コントロール云々以前の問題である。下手に攻撃してしまわないように、【黒】の浄化が働かないよう意識するだけ。
まあ、いくら聖女が人外種に対しての抵抗能力を持ち得ているといえど、普通に体格差があれば負けてしまうものなのだが――シルムは、すっかり『わたしに敵わない』と思い込んでいるのか、本気で抵抗するそぶりを見せない。
そう思わせた時点でわたしの勝ちである。
シルムに対してマウントを取ったわたしは、自分の左の手のひらを、右の人差し指でなぞる。なぞった後は、切り傷のようになって、ぷつぷつと血があふれ出す。
これも聖女の力の応用。傷を治すことができる力は、それを逆に使えば傷つけることもできる。空中の【黒】をかき集めて、傷つけたい場所に押し付けるイメージで行うと、あっさりと傷ができる。
これは、おそらく、ノアト王国の人間も知らない、わたしだけの発見。
わたしの左手から、血が滴り始める。
……ちょっとやりすぎたかな。傷が深くて普通に痛い。やっぱり、お酒が入っているとコントロールが難しくて、基礎程度のもの以上のことは思った通りにいかない。
まあ、いいか。
わたしはその左手を見せびらかすように、シルムに言った。
「ほら、お腹、空いてるんでしょう? 貴方が好きな若い女、居なかったんでしょう? 言わなくていいの? 『飲ませてくださいお願いします』って」
その間にも、わたしの手のひらからは血があふれ出す。腕を伝う血を、わたしは思わず、ぺろりと舐めとる。
ただの、血の味。おいしくないし、むしろまずい。
でも、シルムの目には、この血が、なによりもごちそうに見えるのだろう。目をぎらぎらと光らせながら、わたしの血に、釘付けになっていた。
ごくり、とシルムの喉が上下する。生唾を飲み込む音が、やけに、部屋に響いた。
「どうするの? わたしはいいわよ、別にそこまでヤりたいわけでもないし」
もとより、好奇心だけでここにいる。性に対して執着しているわけではないので、ここで、はい解散、となったところで、わたしは何も困らない。
シルムが歯を食いしばる。視線はわたしの血に釘付けなのに、表情は苦いまま。試しに軽く、彼の目の前で左手を、左右に行き来させれば、面白いくらい、シルムの視線はわたしの左手についてくる。
そこまでして飲みたいのに、喉が乾いてしかたがないのに、「飲ませてください」とお願いするのが、彼のプライドに障って出来ないのだろう。
素直に飲みたいって言えばいいのに。
わたしだって鬼じゃない。飲みたいです、飲ませてください、って一言、言ってくれればすぐにでも、この手のひらを舐めさせてあげる。
ただ単に、向こうが望んだことのはずなのに、『飲んでやろう』って、あたかもわたしが求めているような状況にしようというのが気に食わないだけなのだ。
「ほらー、どうするー? ……っと」
「――っ!」
ゆらゆらと、彼の目の前で手を揺らしていたが、傷が深いのとお酒が入っているのとのダブルパンチで、出血がなかなか激しい。ぽた、ぽたり、と二滴程、彼にかかってしまった。
一滴は彼の頬に当たり、もう一滴は彼の口の中へと入る。
むむ、まだ「飲ませてください」と言われてないのに、口に入ってしまったか。
まあ、これはしょうがない、と思いながらわたしは服で腕を伝う血をぬぐう。
「ほら、早く飲みたいって言わないと、わたしの服、が、ぜんぶ――……」
わたしの服が全部吸っちゃうぞ、なんてアホみたいなことを言おうとして、固まった。
ごくりとわたしの血を、たった一滴の血を飲んだだけのシルムが、ふーふーと鼻息を荒くして、顔を真っ赤に染め上げていた。
――そして、独特の、雄の臭い。
「え、もしかして……」
わたしは腕を拭くのをやめ、後ろ手で、シルムの股間の辺りを撫でる。
「ひぅ」という、短い、吐息のようなシルムの喘ぎと、ぬとり、という、服越しでも分かる、少しだけ湿っぽい感触。
間違いない。こいつ、わたしの血を一滴飲んだだけで、射精したのだ。早漏ってレベルじゃないわ、これ。
「早……」
思わず言ってしまうと、ぼたぼたと、シルムが大粒の涙をこぼした。まさかの反応に、わたしは、次に何を言おうとしていたのか、忘れてしまった。フォローのしようもない。
「お、お前が! お前が悪いんだろうが!」
赤い顔をくしゃくしゃにして泣く姿は、見た目よりもずっと幼く感じる。いや、わたしだってこんなんですぐイっちゃうと思わないわ。
雑魚じゃん。何が伝説の吸血鬼だよ。
とは流石に可哀想すぎて言えなかった。
「聖女の、血だぞ! 覚悟もなく、飲めるか!」
「……そんなに違うものなの?」
「全然違うッ!」
シルムに言わせれば、聖女の血は、普通の人間とは比べ物にならないくらい『イイ』らしい。
味は勿論、香りも格別。そして、同時に、吸血鬼特効の催淫効果があるのだという。だからこそ、飲みたくても、簡単に飲めないし、主導権を渡して飲むことはしたくなかったという。
シルムには、こうなることが分かっていたのだろう。
「ふぅん……」
ぐすぐすと泣きながら、そんなことを教えてくれるシルムを、いいことを聞いた、と、わたしは見下ろした。
わたしは指を舐め、唾液を多めに付着させ、手のひらの血と混ぜ合わせ、シルムの口に突っ込む。
「ン!? っふ、……うぅ」
くちゅくちゅと、わざと音を立てながら、わたしはシルムの口の中をまさぐった。シルムの舌に、わたしの唾液で薄まった血を塗りたくるようにして、指を這わす。
わたしが指を動かす度、分かりやすく彼の肩が跳ねる。
「ほら、美味しいんでしょう? 唾液で薄まった血じゃなくて、ちゃんとしたの、飲みたいでしょう? ――なら、分かるわよね」
わたしが言うと、シルムはようやく観念したのか、こくこくと頭を縦に振り、わたしの指を、必死にねぶった。
「――血を、飲ませて、くださ、い……ッ」
不服、と言わんばかりにこちらを睨みながらも、その言葉をようやく口にした彼に、わたしは上から降りて、肩を差し出した。吸血鬼と言えば、ここだろう。ちなみに手はさくっと聖女の力で治癒しました。
シルムはゆったりと起き上がり、わたしの肩口に顔をうずめる。
「――ふ、ぅ」
ぺろ、ぺろ、とシルムがわたしの肩を舐める。どのあたりから血を飲むか決めかねているのか、それとも、飲む覚悟を決めているのか。わたしにはくすぐったいだけだが。
「――っ」
く、と肩に歯が食い込む感覚。思っていたよりは全然痛くないが、それは想像よりも痛みがないという話であって、麻酔をされたかのように、感覚だけがなんとなくあるわけじゃない。
ちゅう、とシルムが音を立てながら、わたしの血を吸う。頭が肩口にあって、すぐ傍にいるからか、血を飲む音がよく聞こえる。
こく、と一口飲むたび、シルムは口を離し、荒く息継ぎをしている。飲むのに覚悟がいる、というのは嘘じゃないらしい。まあ、別に疑ってもいなかったけど。
それでも、彼が傷つけた場所からあふれる血が垂れるのがもったいないのか、ぺろぺろと息継ぎの間にわたしの肩をなめる。くすぐったいってば。
吸血行為自体は歯を食いしばって耐えるようなものでもなくて、正直、痛みよりくすぐったさとか、もどかしさのようなものの方が大きい。シルムの牙が食い込んだ一瞬に痛かったけど、本当にそれだけ。なんなら、さっき自分で左手を傷つけたときの方が痛かったくらいだ。
だからか、なんとなく、手持無沙汰になってしまう。暇――というとシルムが可哀想だが、でも、どうにも余裕があるのも、また事実だ。
「――……」
ふと、シルムがもぞもぞしていることに気が付く。最初は、飲みやすい位置を模索しているのか、と思っていたがどうやら違うらしい。
腰が動いている。わたしの手に、股間を擦り付けるように、シルムの、腰が。
必死になって血を飲みながら、腰を動かすシルムに、つい、いたずら心がむくむくとわいてくる。
わたしはシルムが再度わたしの肩に噛みついて、血を飲むのに夢中になっているタイミングを見計らって、彼のベルトを外し、その中へと手を滑り込ませた。
一度出したにも関わらず、再度固くなって熱を持っているソレに手を這わす。
「ひ、ッ――な、なに……?」
わたしのあごを載せていたシルムの肩が大げさな程跳ねる。口を開けていたら舌を噛んでいたかもしれない。
「あは、女みたいな声だすのね」
高い声が可愛くて、わたしは思わず笑った。
「――、この!」
「おわっ」
どさっと押し倒される。まだそんな力と気力が残っているとは思わなくて、変な声が出てしまった。
口の端に血をつけたシルムは、真っ赤な顔をしている。本人はわたしを怖がらせようとして睨んでいるのかもしれないが、鳴いた跡がハッキリ分かる赤い目じりに、涙目なままでは、迫力なんて欠片もない。
わたしはシルムの行動に構わず、再び彼の熱に手を伸ばし、緩く上下させた。ここでわたしの手を防げないほどには疲労しているらしい。可愛い子。
「あ、あ……ッ」
がくり、と彼の腕から力が抜けて、覆いかぶさってくる。高くて可愛い喘ぎ声が、すぐ耳元で聞こえてきた。
「もうお腹一杯? それともおかわりはいる? ――黙ってちゃわかんないわよ」
「ひ、ア、手、手を、止めろ――止めて、ください……っ! ごち、そうさま、もう、いらない、いらない、から、ァ!」
わたしが手を動かすたびに、面白いくらいびくびくと彼が動き、嬌声を上げる。
「そ、お粗末様?」
別に料理を作ったわけではないが、わたしの血を飲ませたので、まあ、お粗末様で間違いはないだろう。
手を動かすスピードを上げると、シルムが腰を逃がす。させるか、と言わんばかりに、わたしは片足を器用に使って、彼の腰を押さえつけた。
「――――ッ」
彼の高い声を聞き、手に湿った感覚を感じながら、わたしは深く息を吐いた。
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