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「――白い!」
港町でもあるというエステローヒの街並みは、白い、の一言に尽きた。
レンガ作りの家も、石畳の道も白い。屋根だけは青を取り入れているが、透き通るような海に近い、さわやかな色なので、さほど浮いて見えない。
ランスベルヒと違って、人の好いエステローヒの転移術士は、にこにこと笑いながら観光名所を教えてくれる。そして、それをアルベルトが通訳してくれた。
今回は観光に来たわけじゃないけれど、少しくらいは寄ってみてもいいんじゃないだろうか? おいしい海鮮のお店とか!
以前のわたしは、ここまで訪れたことのない土地への好奇心が高くなかったように思う。とすると、前世のわたしの影響だろうか。前のわたしは旅行好きだったのかもしれない。
「フィー、行こう」
わたしが一通り観光名所を聞き終わると、アルベルトが声をかけてくる。付き添いで一緒に来てくれたのだ。
一緒に依頼を受けられないし、個人で受注できるような上級向けの依頼もない土地に用はないだろうと思っていたのだが、どうしてもついていきたい、と言われてありがたくついてきてもらった。
未だに冒険者としての勝手がわからないわたしにとって、先輩がいるというのは心強いし、単純に通訳としていてくれるというのも助かる。早く共用語を覚えるか、何か別の策を考えないとな、と思いながらわたしはアルベルトわたしの耳に輝くイヤーカフに目をやった。
ちなみにマルシはランスベルヒにお留守番。
なんだかんだ言っていたけど、きっと面倒になったのだろう。あの人、結構な面倒くさがり屋だし、そもそも冒険者でもないし。面倒見がいいけれど、そういうところがある人なのだ。というより、面倒くさがりのほうが基本のようなのに、あれこれよくしてくれる方が謎だ。
転移術士のお姉さんはお辞儀をすると、ガゼボのような見た目をした待合所に戻っていく。
「フィー、とりあえず飯食べに行こうぜ!」
きらきらと目を輝かせる様子は、まるで子供の様だ。可笑しいな、この人もう、成人してる、よね……? ちなみにエンティパイアの成人は二十歳。
アルベルトがどこの出身かは知らないけれど、上級冒険者になるためには、腕っぷしだけではなく他にもいろいろと条件があり、その一つに出身国の定義で成人済であることという項目があるらしいので(マルシに教えてもらった)、少なくとも成人はしているはずなのだ。
「その前に宿をとりましょう。昼食はその後ですわ」
わたしも比較的興奮しているが、こんなにもはしゃいでいるアルベルトと一緒になってしまっては、本来の目的を達成できない。
術士のお姉さんに宿も教えてもらったので、そこを目指して歩き出す。
道すがら、アルベルトとたわいもない話をしていたのだが、ふと彼は思い出したように言った。
「そうだ、フィー。オレのことはアルって呼んでくれ。エステローヒにいる間だけでいいからさ」
なんでまたそんなことを急に言い出すのだろう、と首をかしげる。
「アルベルト、って名前はこれでも冒険者の中では有名なんだぜ? 外見はそれほど広まってるわけでもねえけどさ。騒がれると面倒だしなあ」
なるほど、そういうことか。
確かに、こんな初心者向けの街に上級冒険者が、というだけでも何かよからぬ噂が立ちそうだし、有名な上級冒険者だというのならアルベルトに憧れて冒険者を始めた、という人もいるのかもしれない。
それならばまだいいが、もしかしたら『アルベルトという上級冒険者の名を騙る偽物』とでも思われたらもっと面倒なことになりそうだ。
「では、失礼して。アル、と」
「ん、そうしてくれ」
わたしに――フィオディーナに、愛称で呼び合うような仲の人は他にいない。なんだか親友ができたみたいで楽しくなって「すごく仲のいいお友達みたいですわね」と伝えたところ、すごく残念そうな顔をされた。なんでだ。
港町でもあるというエステローヒの街並みは、白い、の一言に尽きた。
レンガ作りの家も、石畳の道も白い。屋根だけは青を取り入れているが、透き通るような海に近い、さわやかな色なので、さほど浮いて見えない。
ランスベルヒと違って、人の好いエステローヒの転移術士は、にこにこと笑いながら観光名所を教えてくれる。そして、それをアルベルトが通訳してくれた。
今回は観光に来たわけじゃないけれど、少しくらいは寄ってみてもいいんじゃないだろうか? おいしい海鮮のお店とか!
以前のわたしは、ここまで訪れたことのない土地への好奇心が高くなかったように思う。とすると、前世のわたしの影響だろうか。前のわたしは旅行好きだったのかもしれない。
「フィー、行こう」
わたしが一通り観光名所を聞き終わると、アルベルトが声をかけてくる。付き添いで一緒に来てくれたのだ。
一緒に依頼を受けられないし、個人で受注できるような上級向けの依頼もない土地に用はないだろうと思っていたのだが、どうしてもついていきたい、と言われてありがたくついてきてもらった。
未だに冒険者としての勝手がわからないわたしにとって、先輩がいるというのは心強いし、単純に通訳としていてくれるというのも助かる。早く共用語を覚えるか、何か別の策を考えないとな、と思いながらわたしはアルベルトわたしの耳に輝くイヤーカフに目をやった。
ちなみにマルシはランスベルヒにお留守番。
なんだかんだ言っていたけど、きっと面倒になったのだろう。あの人、結構な面倒くさがり屋だし、そもそも冒険者でもないし。面倒見がいいけれど、そういうところがある人なのだ。というより、面倒くさがりのほうが基本のようなのに、あれこれよくしてくれる方が謎だ。
転移術士のお姉さんはお辞儀をすると、ガゼボのような見た目をした待合所に戻っていく。
「フィー、とりあえず飯食べに行こうぜ!」
きらきらと目を輝かせる様子は、まるで子供の様だ。可笑しいな、この人もう、成人してる、よね……? ちなみにエンティパイアの成人は二十歳。
アルベルトがどこの出身かは知らないけれど、上級冒険者になるためには、腕っぷしだけではなく他にもいろいろと条件があり、その一つに出身国の定義で成人済であることという項目があるらしいので(マルシに教えてもらった)、少なくとも成人はしているはずなのだ。
「その前に宿をとりましょう。昼食はその後ですわ」
わたしも比較的興奮しているが、こんなにもはしゃいでいるアルベルトと一緒になってしまっては、本来の目的を達成できない。
術士のお姉さんに宿も教えてもらったので、そこを目指して歩き出す。
道すがら、アルベルトとたわいもない話をしていたのだが、ふと彼は思い出したように言った。
「そうだ、フィー。オレのことはアルって呼んでくれ。エステローヒにいる間だけでいいからさ」
なんでまたそんなことを急に言い出すのだろう、と首をかしげる。
「アルベルト、って名前はこれでも冒険者の中では有名なんだぜ? 外見はそれほど広まってるわけでもねえけどさ。騒がれると面倒だしなあ」
なるほど、そういうことか。
確かに、こんな初心者向けの街に上級冒険者が、というだけでも何かよからぬ噂が立ちそうだし、有名な上級冒険者だというのならアルベルトに憧れて冒険者を始めた、という人もいるのかもしれない。
それならばまだいいが、もしかしたら『アルベルトという上級冒険者の名を騙る偽物』とでも思われたらもっと面倒なことになりそうだ。
「では、失礼して。アル、と」
「ん、そうしてくれ」
わたしに――フィオディーナに、愛称で呼び合うような仲の人は他にいない。なんだか親友ができたみたいで楽しくなって「すごく仲のいいお友達みたいですわね」と伝えたところ、すごく残念そうな顔をされた。なんでだ。
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