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「これは……魔力切れね。……これも、これも! どれもこれも故障じゃなくて魔力切れなだけじゃない! ちゃんと手入れしてるの!?」
もう一人分の記憶が増え、幾分か意識が明瞭になって落ち着きを得たとはいえ、わたし自身、沸点が低い性格はあまり変わらないようだ。
埃っぽい冒険者ギルドの倉庫の中で、かっかと怒りながら、わたしは適当に投げ捨てられたようにしまい込まれた術具たちを見ていく。
「修理に時間がかかるはずよ! どこも壊れてないんだもの!」
あるはずのない故障の原因の追究だけでも時間がかかっていそうだ。
怒られているマルシは、困ったように頭をかくだけ。
「ここ、魔術に詳しい人間がいないからさ。強い奴には従う、っていう掟が一番に来る辺りで分かると思うんだけど……脳筋しかいなくて」
そう言うマルシは、グルトンへ食品を卸しに行く商人。転移に少し複雑な術具を使い、新しく買う余裕がないから自分で修理しているところを見られて、術具に詳しいと勘違いされたらしい。
自分の扱う術具以外はさっぱりなのに、冒険者ギルドの術具修理を押し付けられ、ほとほと困っていたのだとか。
「術具っていうのは、魔術士が魔力を込めて、魔術が誰にでも発動できるように基礎の魔術をかけておくものよ。その魔術に込められた魔力がなくなれば、使えなくなる。だから定期的に術士に魔力を込めてもらう必要があるのよ」
「へー」
感心しているけれど、どこか他人事のようにマルシが相槌をうつ。
「ここ、術士はいないのかしら?」
「うーん、一応、転移術士はいるけれどね。彼らは自分の仕事以外をしたがらないから」
転移術士という職だけで充分稼げる。面倒くさい仕事はなるべく引き受けたくない、というのが彼らの本音なのだろう。
「……術士の代わりに術具メンテナンスを受け付けたら、仕事になるかしら」
ぽろっとこぼしただけなのだが、マルシは目を輝かせた。
「それはいいね! そういう人がいると助かる!」
よほど押し付けられたのが堪えていたのだろうか。まあ、確かに、自分の専門外のことを頼まれてもね。――ん?
そこでわたしは一つの違和感に気が付く。
「マルシって……商人なんですのよね?」
「そうだよ! 主に食品を扱ってて……何か欲しいものがあるの?」
「いえ、そうでなく。エンティパイアでは物流のための転移術士は雇っていなかったように思って……」
そう聞いてみると、マルシの顔が固まった。やっべえ! という焦りがにじみ出ている。
他国とのかかわりあいを持たないエンティパイアで雇われている転移術士は、大体が帝中都にある帝国城で数人のみ。王子が見分を広めるために留学するときに使ったり、よほど切迫して他国の助けが必要なときのみに使う。後者の利用はここ数百年なかったように思うけれど。
「別に、気になったから聞いただけですわ。言いたくなければそれでかまいませんのよ」
グルトン王のことだ、帝国に届を出さずに転移術士をこっそり雇っているに違いない。グルトンは三大美食国家の中で一番『おいしいものが食べれればそれでいい』という国だ。それがたとえ違法な食材であろうと、体に有害なものであろうと、彼らは構わないのだ。
あそこは、ほんのひと時、食事の間に至福を得られれば良いという、刹那主義が多すぎる。
「そうだね、グルトンにたまに訪れるということを聞かなかったことにしてくれると助かる……」
別に帝国は転移術士を禁じているわけではない。届けさえ出せばいいのだが――やはりこの反応は、無届けの術士か。
まあ、もう帝国に戻れない身としては関係ないのだけれど。
もう一人分の記憶が増え、幾分か意識が明瞭になって落ち着きを得たとはいえ、わたし自身、沸点が低い性格はあまり変わらないようだ。
埃っぽい冒険者ギルドの倉庫の中で、かっかと怒りながら、わたしは適当に投げ捨てられたようにしまい込まれた術具たちを見ていく。
「修理に時間がかかるはずよ! どこも壊れてないんだもの!」
あるはずのない故障の原因の追究だけでも時間がかかっていそうだ。
怒られているマルシは、困ったように頭をかくだけ。
「ここ、魔術に詳しい人間がいないからさ。強い奴には従う、っていう掟が一番に来る辺りで分かると思うんだけど……脳筋しかいなくて」
そう言うマルシは、グルトンへ食品を卸しに行く商人。転移に少し複雑な術具を使い、新しく買う余裕がないから自分で修理しているところを見られて、術具に詳しいと勘違いされたらしい。
自分の扱う術具以外はさっぱりなのに、冒険者ギルドの術具修理を押し付けられ、ほとほと困っていたのだとか。
「術具っていうのは、魔術士が魔力を込めて、魔術が誰にでも発動できるように基礎の魔術をかけておくものよ。その魔術に込められた魔力がなくなれば、使えなくなる。だから定期的に術士に魔力を込めてもらう必要があるのよ」
「へー」
感心しているけれど、どこか他人事のようにマルシが相槌をうつ。
「ここ、術士はいないのかしら?」
「うーん、一応、転移術士はいるけれどね。彼らは自分の仕事以外をしたがらないから」
転移術士という職だけで充分稼げる。面倒くさい仕事はなるべく引き受けたくない、というのが彼らの本音なのだろう。
「……術士の代わりに術具メンテナンスを受け付けたら、仕事になるかしら」
ぽろっとこぼしただけなのだが、マルシは目を輝かせた。
「それはいいね! そういう人がいると助かる!」
よほど押し付けられたのが堪えていたのだろうか。まあ、確かに、自分の専門外のことを頼まれてもね。――ん?
そこでわたしは一つの違和感に気が付く。
「マルシって……商人なんですのよね?」
「そうだよ! 主に食品を扱ってて……何か欲しいものがあるの?」
「いえ、そうでなく。エンティパイアでは物流のための転移術士は雇っていなかったように思って……」
そう聞いてみると、マルシの顔が固まった。やっべえ! という焦りがにじみ出ている。
他国とのかかわりあいを持たないエンティパイアで雇われている転移術士は、大体が帝中都にある帝国城で数人のみ。王子が見分を広めるために留学するときに使ったり、よほど切迫して他国の助けが必要なときのみに使う。後者の利用はここ数百年なかったように思うけれど。
「別に、気になったから聞いただけですわ。言いたくなければそれでかまいませんのよ」
グルトン王のことだ、帝国に届を出さずに転移術士をこっそり雇っているに違いない。グルトンは三大美食国家の中で一番『おいしいものが食べれればそれでいい』という国だ。それがたとえ違法な食材であろうと、体に有害なものであろうと、彼らは構わないのだ。
あそこは、ほんのひと時、食事の間に至福を得られれば良いという、刹那主義が多すぎる。
「そうだね、グルトンにたまに訪れるということを聞かなかったことにしてくれると助かる……」
別に帝国は転移術士を禁じているわけではない。届けさえ出せばいいのだが――やはりこの反応は、無届けの術士か。
まあ、もう帝国に戻れない身としては関係ないのだけれど。
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