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5.人間の尊厳
しおりを挟む無事にトイレでの難題をクリアしてベッドへ移動した江原は、すでに疲労困憊だった。
クロは準備を手伝いたかったとぶちぶち文句をいっていたが、人間の尊厳について蕩々と反論することでなんとか切り抜けたのだった。
もちろん、心の中での反論なのだが。
(汚物汚物と文句をいっていたくせに、本当の汚物処理をしたがるなんて、死神さんは変態だ……)
「ひどいなぁ。別にこれくらい変態じゃないよぉ。だってさ、そういう準備も大事なコミュニケーションじゃん? いわば前戯だよ前戯。それにおじさんのなら、なんかいい匂いがしそうだし、いける気がするんだよね」
(だめだ。変態だ。便なんて普通に臭いに決まってる。だいたい菌とか、病気とか考えたら、やはり排泄は決められた場所ですべきであって)
「お堅いなぁ。いろんなプレイを楽しもうよぉ! それに俺ってば死神でしょ? こうみえても神さまの端くれみたいなもんだから、病気とかかかんないもんね!」
秋の夜は肌寒い。
服を取りあげられた江原は裸のまま、これまた裸の死神と、そう広くないベッドの中で暖を取るために密着していた。
よく考えたらとんでもない状況だが、それを忘れてしまいそうなほどなんとも平和な雰囲気だった。
(なにぶん経験がなさ過ぎて分からないけど、もしかしたら、このままなにもせず就寝するのかも?)
「んなわけないっしょ! おじさんを怖がせたくないから、がっつかないように頑張ってんの! もう! こうなったら俺の努力を! 思い知れ!」
がばりと覆いかぶさったクロは、そのままぐいぐいと下半身を擦りつけた。
素肌の腹に当たるその堅さと熱さに、江原はぴしりと音がしそうな勢いで固まる。
「ね? こうなるでしょ!」
(わ、私で、こうなった、の?)
「当たり前! おじさんのこと抱きたいんだもん。ちんこ痛くても我慢してる俺のこと、いっぱい褒めてよね」
同じ男として勃起状態が長く続けばつらいことくらいなら、童貞でも分かる。
いかにもチャラそうな死神の意外な優しさを知って、江原は恥じらいながらもじもじと足を擦りあわせた。
さっきまでいっぱい弄られていた体が、思い出したようにうずうずと甘く痺れる。
(そ、そうか、私で……。し、知らなくて。我慢を強いていたなら、申し訳なかった)
「ふふん。分かればよろしい。悪かったと思うなら、おじさんから、キスして?」
クロは上に覆いかぶさると、江原に体重をかけることなく唇が触れるか触れないかの距離まで近付き、そっと目を閉じた。
江原はその長いまつげを見つめながら、息を止める。
きれいな顔に、鼻息を吹きかけることさえ畏れおおいような気がするのだ。
さんざんしたとはいえ、口付けを、自分からするのは思った以上にハードルが高い。
「俺とキスするのが嫌なら、無理強いはしないけど」
しょんぼりとしながらそういわれれば、江原はぶんぶんと首を横に振って、その勢いのままにえいやっと唇を押し当てた。
すぐに離れた江原を追って、クロの唇が重なる。
少しずつ深くなる口付けに思考をとかされていると、柔らかくなった穴にぬるっとしたものを塗り込められた。
おそるおそるクロの手を見れば、あれがちな手を保護するために買った市販のハンドクリームが握られていた。
(たしか洗面台に置いてあったはず……?)
「痛くならないように、滑りをよくするのに借りたよ。本当ならセックス用のローションのほうが良いんだけど、今から買いに行くのもなんだしね。うん。これならいい感じに入りそう」
(ほ、本当に、今から、す、するんだ)
「うん。今からおじさんの初めてをもらっちゃうもんねぇ。どうする? 希望の体位とかある?」
「わ、わからない、ので、お任せで、よろしくおねがいします」
「よっし! まかせなさい!」
そのままがばっと股をおっぴろげられ、正常位の体位を取らされた江原は、すぐさま前言撤回した。
「や、ま、待ってください! う、後ろからのとか、もっと恥ずかしくないの、ないんですか?」
「なぁにいってんの。今から俺と何するの? セックスだよ? セックスなんて恥ずかしくてなんぼでしょ。真っ裸になって、お互いの恥ずかしいところをさらけ出すんだよ。きれい事だけじゃできないよ。それに前からのほうが、顔が見えるしさぁ」
(こんな無表情のおじさんの顔なんて見ても楽しくないから、やっぱり、顔の見えない後ろからとか)
「俺、おじさんのとろけきった顔を見ながらしたいもん。それにおじさん、キス、好きでしょ? 前からじゃなきゃできないよ? どうせ俺に隠し事なんてできないんだから、潔く諦めなさい」
「ひゃ」
(ないないないない! 顔色一つ変わらないことで悪評の絶えない私の顔なんて、萎えるでしょう!)
江原は顔を背け身をよじったが、足をがっちりと固定されていて動かない。
そうしている間にも、ぎんぎんのクロの陰茎が、力なくしぼんだままの江原を擦りあげていく。
「あはは。俺が萎えるわけないじゃん。おじさん、お風呂場でもめちゃくちゃそそる顔してたんだから。気付いてなかったの? そうだ! 俺いいこと思いついちゃった!」
顔を見なくても分かる。絶対にいいことではない。
ひどい既視感に、江原は力なく首を横に振ったのだった。
「あ、あ、っ、また、いっ、ちゃ……」
「うんうん、気持ちいいね。何回でもイっていいからねっ!」
江原が希望した背面ではあるものの、後ろからすっぽりと抱きこまれる体勢——いわゆる背面座位で下から突き上げられ、江原はもう何度目か分からない中イキに体の制御を失っていた。
クロの膝の上に座りこめば、自重でより深く迎え入れてしまうと分かっているのに、筋力の衰えた足では踏ん張りがきかないのだ。
「ひぃ、んっ!」
「がんばって腰を浮かせていないと、またS状結腸の入り口をコンコンしちゃうよ。ほらほら」
「だ、め、だめだめだめっ、そこは、……くるし、からぁっ!」
「そうだね、気持ちよすぎて、お漏らししちゃうくらい苦しかったもんね? あ、逃げちゃダメだよぉ」
前に倒れこんだ江原の体を、クロはぐいっと腕を掴んで、かるがると持ち上げる。
逃げ場を失った上半身の重みで、クロの凶悪な陰茎がぐぽっとS状結腸の入り口にキスをした。
「あああああっ!」
「ほら、がんばれがんばれ」
「も、むりぃ、……た、たすけっ、ひっく」
「うんうん。助けてあげるねぇ。今、自分がどんな顔をしてるかちゃんと言葉にできたら、正常位に戻してあげる。そうしたらおじさんの好きなキスをいっぱいしようね。だからもうちょっとだけ頑張ってみようか。ほら、ちゃんと前を見て?」
後ろ手に腕をつかまれ、胸を突き出すように支えられた江原の正面には、部屋に置いてあった縦長のスタンドミラーが配置されている。
エッチな表情を自覚すべきだというクロの主張により、江原は鏡に向かってセックスをする羽目になっていたのだ。
鏡に映るあばらの浮いた貧相な体。しずくを垂らすだけのしぼんだままの陰茎。大きく開かされた足の間には。胡座をかいたクロ。
ふかぶかと侵入しながらもまだ余りある凶悪な男根が、ゆるゆると律動している。
「ほら。おじさんがどんなにかわいい顔をしてるのか、俺に教えて?」
(教えなくても、鏡越しにずっと見ているくせに)
「じゃあ、このまま」
「い、いいます! いうからぁああ、んっ! おねが、も、動か、ない、でぇっ!」
ぱちゅぱちゅと動きはじめた亀頭の出っぱりが、加齢によって大きく育った江原の前立腺を擦りあげ、奥の気持ちがいいところを押し広げていく。
長大な陰茎を受け入れる肛門は最大まで伸びきって、健気に吸いつき、クロの陰茎を追いかけてめくれるのだ。
鏡に映ったその一部始終を見せつけられて、江原は羞恥と快楽でどうにかなりそうだった。
クロの手にすがりついて、後ろを振りかえりながら懇願するしかなかった。
うなじをつかまれ、クロの長い舌が江原の口内をわがもの顔で蹂躙していく。
クロのキスを、江原はうっとりと受け入れた。
「いい子だね。キス、気持ちいいね?」
「きもち、い……す、き」
こくんと頷く頭を優しく撫でてくれるクロの大きな手に、江原は安堵の息を吐いた。
拷問にも似た快楽を与えるのも、なにものにも代えがたい安らぎを与えてくれるのも、この死神なのだ。
「素直ないい子。今、おじさんは何されてるの?」
「……セッ、クス」
「そうだね。初めてなのに俺のちんこを上手にゴシゴシしごいてくれるのは、おじさんのどこ?」
「……お、しりの、あ……な」
「お尻、気持ちいいね?」
「きもちい、い」
「中をどうされるのが、好き?」
「……きもちいいところ、を、……ぐりぐり、されるの」
「奥も好きでしょ?」
「おく、こ、こわい。きもち、よすぎて、へんになるのこわいよぉ」
「こんなに気持ちよさそうな顔をしてるのに?」
鏡に映る江原の顔は、真っ赤に上気してだらしなく潤みきっていた。
汗が一つ一つ粒になって、頬を流れ落ちていく。
緩んだ口からは唾液が垂れて、動かしかたを忘れた氷のような顔は片鱗さえも残っていなかった。
「や、みない、で」
江原がうつむいてかぶりを振ると、クロがきゅっと乳首をつねった。
「やぁんっ!」
「なんで? こんなにかわいいのに? 絶対に見るよ。一分一秒だって目を離したくないもん。あ! 他の人には見せないでよ? こんな顔見せたら、エッチなおじさんの体なんて簡単に襲われちゃうんだからね? 見てよこのピンクでかわいい乳首。おじさんったら、こんなとこまで敏感でかわいいとか! エッチな才能がすごすぎて、俺、心配!」
「そんな、ありえ、ない。……死神さんだけ」
「はぁー。……善生さん。俺の名前、覚えてる? 俺、善生さんに名前で呼ばれたい」
「……クロ、さん?」
さんざん恥ずかしいことをしてきたにもかかわらず、名前を呼ぶだけで盛大に照れる江原を見て、クロは悶えた。
「もう無理! 本当に俺だけにして! 善生さんがかわいくて無理!」
江原はよく分からないまま後ろからぎゅうぎゅう抱きしめられて、そのままごろんとベッドに倒された。
とっさに両手で顔を覆い、上から覗きこむクロから目をそらす。
「無理、ですか。……やっぱり、無理ですよね。こんなおじさん」
江原は今までずっと人から拒否され続けていた。
もう慣れたと思っていたのに、クロからの拒絶の言葉はひどく悲しく感じ、江原の目にじわりと涙が浮かぶ。
「違う違う! あのね無理っていうのは無理じゃなくて、尊いとか、感情が大きすぎてしんどいっていうか! だからつまり、俺、こんなだけど! 仕事もブラックだし! 出会いかたは最悪の部類かもだけど! 恋に落ちました!! 俺、もうね、我慢できないくらい善生さんのこと好きだよ!」
江原はしばらくぽかんとしたまま固まり、それから口元をうごうごと動かしたあとに、ほんの少しだけほほ笑んだ。
「嬉しいです。初めていわれました。死ぬまでに一度でいいから、好きって言われてみたかったんです。……本当にありがとう、クロさん」
初めて見る江原の笑顔に、クロの日に焼けた褐色の肌が赤く染まる。
そして、中に入ったままのクロの陰茎がさらに体積を増やし、江原は増えた圧迫感にぎょっとするのだった。
「笑顔ずるい。……本当にまいったな」
「あ、あ、あ、あの! クロさん……。その、な、なかが」
「あーあ。善生さんがあんまりにもかわいいから、ばっきばきになっちゃった。……かわいそうだから奥をいじめるのはやめておいてあげる。正常位で、善生さんのかわいい顔を見ながらいっぱいキスして、前立腺をゆっくりぐりぐりしようかな」
もう終わりでいいのではないかという江原の願いは聞き入れられることなく、クロは宣言通り、口がふやけるくらいキスをしながら、的確に腰を動かした。
何度目かの精を中に吐きだされ、濡れそぼつ穴はぱちゅぱちゅと卑猥な音をたてている。
「やぁ、きす、らめぇ」
「なんで? 気持ちいいでしょ? キスすると、善生さんの中が気持ちいいよってうねうね動いちゃうもんね? あとはこうやって、……中からぐって押すと、善生さんのふにゃちんが気持ちいいよって、ぴゅくぴゅく液体を出して喜んじゃうもんね?」
「ひっく。お、おもらし、も、やだぁ! ふぇぇ」
「あー、よしよし。大丈夫。これはお漏らしじゃないよ。潮吹き。聞いたことあるでしょ? 男でも気持ちいいと潮を吹くんだよねぇ」
「お、おもらし、じゃ、ないの?」
ぐすぐすと鼻を鳴らす江原の涙を舐め取りながら、クロは秋空のように晴れやかに笑った。
「うんうん。まぁ、どっちでもいいじゃん。俺、おじさんのおしっこならいい匂いがしそうだし、いける気がするんだよね!」
なにも良くはない。
優しい死神だなんて思ったが、やはりただの変態にちがいないと、江原は思考を放棄して目を閉じた。
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