【完結】愛玩動物

匠野ワカ

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番外編 かわいい人.11

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「し、しぬ……っ!」

 空がうっすらと明らんできたころ。
 許容値を超える快楽にティフォは息もたえだえになっていた。


『さすがに死なれたら困る……』

 アキラは心底名残惜しそうにしながらも、ぬぽっとペニスを引き抜いた。

『あ、じゃあ、俺に入れるのは?』

 いいことを思いついたとばかりに触手の上で腰を揺らすアキラに、ティフォは断固として拒否をした。


「ダメです! 今はまだ絶対にしません! アキラの体はまだまだ成長途中なので、無理はさせられませんからね!」
『ちぇ。分かったよ。あー早く育たないかな』


 アキラのそのあまりにもしょんぼりとした姿に、ティフォは触手一本動かせないと思うくらいへとへとになりながらも、甘やかしてしまうのだった。


「……えっと、その、……口でなら、いい、よ? だって、そ、そのままじゃ苦しいでしょ?」



 あとは何がどうなったのか、ティフォは覚えていなかった。

 口内も性感帯に育てられていたティフォが、喉奥を突くアキラのペニスに気持ちよくなってしまい、意識を手放してしまったからだ。




◇◇◇




 目が覚めたティフォは、まずはきれいに整えられた体をみて、年甲斐もなくあられもない夢をみたもんだと思った。

 しかし隣で眠るアキラと、腹のなかに感じる卵、それから途切れ途切れの昨夜の記憶を思いだし、恥ずかしさにもだえながら目を閉じた。

 そうやっていくら現実逃避をしていても、理性が白旗を振って撤退した昨夜の事実は変わらない。



 まさかこの年でまた卵を産む日が来るとは……。
 ティフォには確実に受精した確信があるだけに、お腹を撫でながら、ジェイクはともかく他の子どもたちにどう報告しようかと頭を悩ませた。





 ティフォはアキラを起こさないようにベッドを降りて、外へ出た。


 体が重い。
 一日無理をすると二週間は回復しないようになったのはいつからだったか。昨夜のアレは、いったい何日引きずるのだろう。出産と育児には何よりも体力が必要なのに。

 これからは適度に運動をしようと決意して見上げた空は、底なしに明るかった。




 太陽はとっくに昼の顔をして、今日も南の島を照らしてやるぞと空高く浮かんでいる。

 ティフォに気付いた犬が、触手にじゃれながら隣を歩く。
 ティフォは白い砂浜をまっすぐに歩いた。



 目の前には遠浅の青く透き通った海が広がり、白い細かな泡を立てて波が押し寄せては引いていく。



 この海のどこかに、ムームが眠っている。

 ティフォはムームの最期を思い出し、目を閉じた。
 まぶたの裏で、太陽の光を弾く海面の瞬きがちらちらと浮かんでは消えていく。



 アキラの人生が一遍の曇りもなく幸せに満ちたものでありますように。

 ティフォは心のなかでそう願った。








 どれくらいそうしていたのか、犬が急にワンと一つ吠えて走りだした。

 ティフォが顔を上げると、あわてたように走るアキラが遠くに見える。




『あんなに愛しあった朝に起きて隣にいないとか、あんまりだ!』

 それなりの距離を走ったあとでも息をきらせることなく、頬を膨らませているかわいいアキラ。

 ティフォはその眩しいほどの若さに目を細めた。



「うん。アキラより長生きするために、健康に気をつけようかと思って。ちょっとしウォーキング、かな?」

『や、もちろん元気に長生きしてもらわなきゃ困るけどさ。今度は俺が看取ってやるつもりだぜ? もう一人にしないって約束したからな』

「ありがと。でもやっぱりアキラに寂しい思いはさせられないもん。アキラが心配で死ぬに死ねない気がする。
 でもそうだな。今度は、アキラのあとを追いかけて逝くことを許して欲しい、かな」

『ははは。一緒にぽっくり逝けるように、頑張ってみようか』
「ふふふ。せーので、ぽっくり?」
『そうそう。俺たちくらい愛しあってれば、なんか頑張ればいけそうじゃない?』
「あ、あ、あい……んんっ、そ、ソウダネ?」
『え? さんざん淫らなことをしておいて、これくらいで赤面しちゃうの? 誤魔化すのが下手すぎてかわいいな。愛しあってるでしよ、俺たち!』
「うう。だってムームはそんなこというタイプじゃなかったじゃん。免疫がないんだよ!」
『若者はこれくらい挨拶感覚で普通にいうんだぜ。大丈夫おじいちゃん。俺にときめきすぎて心臓止まってない? ちゃんと息してる?』
「もう! もうっ! いじわるっ!」
『ははは! ごめんごめん。かわいくって、ついね。うんと優しくする。
 でもティフォってば、俺にいじめられるのも好きだからなぁ。好きな人に求められれば、応えたいしなぁ』


 にやにやと笑うアキラに、ティフォはムキになって主張した。


「ち、違いますっ! いじめられるのが好きなわけじゃないもん! アキラが好きなだけだもん!」
『だもんって……っ! 年を重ねるたびにかわいさが増してない? ねぇ、今からベッドに戻って、もう一回子作りエッチしよ?』
「本当に死んじゃう……っ!」
『あはは! それは困るなぁ。
 でも、たとえ死んでもさ、何度でも生まれかわってまた出会いたいな。何も覚えてなくても、ティフォがどんな姿形でも、どれだけ年が離れていても、性別や種族を超えて、きっと好きになるよ』

「うん。私も。きっと、絶対に好きになる」



 二人は寄り添い、触手と手をつないで静かに海を眺めた。

 そこにたしかな永遠を感じながら。






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