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14.別離

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 アイナバル山の麓にある、洞窟の道を降る。

「ここ、地殻変動で道が崩れていますね」

 ラシードは、三つ目の願いを叶えたら元の洞窟に戻ってランプの中で微睡む事になるという魔人を送りに来たのだ。

「前の道順では、ランプの間には行けないのか……」
「ついでなので、ランプの間への道を簡素化してしまいましょう」

 魔法を使い、ガガガと洞窟を掘削する魔人。

「『清き心』の試練は変えようがないですが、このぐらいの小細工は問題ないでしょう」

 微睡んではいますが、少しだけ世界に干渉して、ワタシの願いを叶えてくれそうな人物にお仕えするようにいたしますと魔人が言うので、ラシードは笑ってしまった。魔人。どれだけお前必死なのだ。頼もしい。笑いすぎてじわりと浮かんだ目尻の涙に魔人が口づける。

「いつの世か、いつの時代かは知りませんが、花嫁が進む道のことを『バージンロード』というらしいですよ」

 言葉を継ぎながら、魔人とラシードは洞窟の道を進む。

「ふーん」
「『バージン』とは処女という意味です。花嫁の純潔を意味します」
「うん?」
「うふふ♡ ワタシの純潔はラシード様に捧げてしまいましたが」

 ラシードは、照れ隠しに「ばーか」と魔人を小突く。

「なので、この道はワタシのバージンロードです……さあ、着きました。ランプの間です」

 地震により、ランプの間にも被害があったのではないかと、ラシードは危惧をしていたが奇跡的にここは無傷だった。改めてランプの間を見回すと、ラシードは気付いた。

「あれ? この宝石は?」
「あ、お気づきになられました? そうなんです。ここにある財宝は全て偽物なのです。欲にまみれた人間というものは、きょじつに置き換えて見てしまうものなのでしょうね。最後の『清き心』の試練の結果、偽物を掴まされてしまうわけです。さて、ラシード様。三つ目の願い事をどうぞ。そして、余力でラシード様が望む場所まで転送して差し上げましょう」

 ラシードと魔人はどちらからともなく口づけを交わした。二人の頬には幾筋もの涙が流れ、まじりあう。長く、長く。貪るのとは違う、お互いを思いやるような優しくて深いキスだった。やがて、魔人はその輪郭を崩していく──いやだ、ジン。やっぱり嫌だ。願い事なんて叶えなくていい──崩れた最後の残滓を必死になってラシードが繋ぎとめようとしたところで、ラシードは王城の中庭に飛ばされた。暗い洞窟からいきなり照り付ける日差しのもとに来たのだ。まばたきをしたのは明るさに目を慣れさせるためだ。頬を伝う涙も日差しのせいだ。何度も何度も日差し避けに羽織っている長衣の袖で涙をぬぐった。中庭の木々がざわりざわりと揺れていた。
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