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12.地は揺れる

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 最初はカタカタと細かい縦揺れがあり、ドンという地鳴りと共に激しい横揺れが起こる。ラシードは散乱していた服を羽織り、魔人の手を引いて外に飛び出した。ラシードの父母や弟、祖母に使用人達もラシードの家の庭に集まる。

「火元は消したか」

 ラシードと父親が同時に使用人へ確認の声を上げる。

「はい、大丈夫です。ご安心ください」
「父上、王城の方が情報が集まるかも知れません。父上は王城に行ってください。お祖母様、お願いがあります。母上と弟の事はお任せしても大丈夫でしょうか」
「ああ、大丈夫だよ。この家には屈強な護衛もいる。安心してお前たちの役目を果たすんだよ」
「はい、お祖母様。ジーニー、魔法の絨毯は出せる? 出来たら二人乗りの方がいいんだけど」

 魔人の眞名である『ジン』は二人きりの時以外に呼ぶ事が出来ない。魔人は眞名を呼ばれると魂が囚われてしまうからだ。よって、あらかじめ人前で魔人のことを呼ぶ場合の名前を『ジーニー』と決めておいたのだ。

「ちょっと待て、ラシード。そのお方は誰だ?」
「……僕の恋人だよ」

 この国の宰相という高い役職にいるラシードの父の家は、清貧を重んじているので派手さはないが、充分な広さがある。当然ラシードの部屋と普段父親たちが居る場所は離れている。ましてや公務が忙しい父親は、ラシードの生活すべてを把握するものでもない。しかし、ラシードと魔人の蜜月は隠しているようでも漏れ出ていて。『誰が』ラシードの想い人かということまでは関知できなくても、ラシードには他の者が入り込めない程気持ちを寄せる相手がいることは、父にも薄々わかっていた。

「ラシード様、準備が整いました」

 魔人の方を見ると、人の膝くらいの高さの位置にふよふよと赤い魔法の絨毯が浮かんでいる。

「二人で乗れる?」
「はい。大丈夫です」
「父上、王城まで送ります。ついでに王都の上空を一回りしてもらうので、被害状況を確認いたしましょう」

 ラシードの国は、同性愛に対して寛容とは言いがたい国だ。そう考えるとラシードの父は複雑な気分になった。魔人はどう見ても男だし、人間でもない。どうしたものかと逡巡する父の背中を、ラシードが押した。

「父上、お早く」

 背中を押されてつんのめりそうになりながら、父は魔法の絨毯に乗った。父が乗った横にラシードがするりと滑り込む。

「父上、怖かったらこちらの金で出来た取っ手を握っていてください、ちょっと失礼しますよ。安全ベルトもつけますから」

 ラシードは慣れた様子で絨毯に括りつけられている取っ手を父に握らせ、同じように括りつけられている革のベルトを父の腰に装着した。自分にも安全装備をすると、魔人に目配せをした。魔法の絨毯はぐいぐいと上昇した。
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