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06.ラシードと魔法のランプ

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「ここがアイナバル山かぁ」

 ラシードは父を助けたいという一心で、祖母から聞いた魔法のランプの話をもとに、洞窟を捜索することにした。祖母が歌ってくれたの唄をもう一度頭の中で復唱する。

 ──洞窟の旅人の供は、灯りのみ。

 ポンっと、生活魔法を使って光の球を放つと、あたりはぼうと照らされた。

 ──洞窟は試す。旅人や、汝に清き心はありや、なしや。

 洞窟に入る一歩目は緊張した。もしラシードの心が『清き心』でなければ地面が崩れて割れてしまうのだ。ラシードは大きく息を吐いて一歩を踏み出した。一歩、二歩、三歩。歩を進めても地面が割れる気配はない。

(よかった。『清き心』の試練はとりあえず超えたみたいだ。あとはひとつひとつ注意事項を守って進まなきゃ)

 最初は順調だった。コウモリがいたりして少々面食らったりもしたが、問題はなかった。

 ──臆するな、旅人よ。その水を超えていけ。

(ああ、水が……道が水没しているのか)

 人が楽々立って歩けるほどの空間が突如狭くなり、その狭くなった道を抜けると、そこは鍾乳洞になっており、道が水没をしていた。

(普通の人はこの先に道があるなんて思わずに帰ってしまうことになるのか)

 ラシードの国は砂漠地帯だ。水は大変貴重で、水浴びは贅沢の極み。泳ぐなど思ってもみない事。しかし、ラシードの祖母はこれを見越していたのかもしれない。神殿にある泉で行われる水泳教室にラシードを通わせていたのだ。

(お祖母様……なんだか、お祖母様そうとう孫に魔法のランプを取りに行かせたかったのか……)

 そんなに叶わせたい願いがあったのだろうかと、ラシードは訝しみつつ、イチ・ニ、と準備運動をする。

(こむら返りとか怖いもんね)

 恐る恐る溜まっている水を触ってみても、特にピリピリしたりはしない。

(コウモリがいたから、コウモリの糞で水が汚染されている可能性も考えたけれど。毒水……とかではなさそう……かな? でも流石に冷たいな)

 日の当たらない洞窟の奥深くにある溜水たまりみずだ。それはそれは冷たくて。着衣のままだと動き辛いので、ラシードは服を脱いだ。頭の上に脱いだ服を括り付けると、心の蔵がびっくりして止まらないようにゆっくりと水に入り、平泳ぎを始める。

(よかった。完全に水没はしていないから、このまま頭を出した平泳ぎでいける)

 水没した鍾乳洞を抜けると、今度は『上』だ。水から上がってぽっかり空いた空洞を見上げると、垂直に近い岩肌に等間隔に石が突き出している。ちょうどボルダリングのクライミングウォールのような壁だ。

(や、そんなに簡単なもんじゃないとは思っていたけどさ……それにしてもキツいな)

 繰り返すがラシードは、見た目平凡、中身非凡なのである。キツいと言いつつ垂直な壁をするする登っていき、壁の天井近くにある横穴に入った。

(下っていうから今度は壁降りなのかと思ったけど、左にそれる道と降る道があるんだな)

 そして、突然眩い光に包まれた。

「わぁ」

 思わずラシードは驚嘆の声を上げる。そこには光り輝く果樹園があった。

 ──旅人よ、最後の試練だ。清き心を忘るるな。

 金銀で出来た枝と葉に、宝石の果物。これが祖母の言っていた『持ち出してはいけない宝物』で、『清き心』の試練なんだなと納得する。

(絶対、宝物に手をつけちゃいけない)

 そして、その中央にランプが置かれていた。

「発見! やった! これだな」

 ラシードは注意深くランプを手にすると、どうやったら魔人が出て来るのだろうかと観察をした。魔法はあまり得意ではないが、ドアを開ける呪文を唱えたり、蓋を開けて中身を覗いたり。ひっくり返してみたり。

(うーん。魔人ってどうしたら出て来るんだろう)

 途方に暮れてランプを擦ると、ボワンと煙と共に魔人が飛び出して来た。
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