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第三章:王国の危機と偽りの聖女

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アイシスが王都を離れて数か月が経った頃、王国は新たな危機に見舞われていた。それは、魔物の襲撃だった。これまでも魔物の出現はあったが、最近になってその頻度と規模が増しており、村や町が次々と被害を受けていたのだ。王都にも魔物が侵入し、一般市民に甚大な被害が及ぶようになっていた。

王宮では、王子アランが対策に頭を悩ませていた。彼は新たな婚約者である隣国の姫、リリアンに期待をかけていた。リリアンは高い魔力を持つとされ、彼女を「聖女」として王国の人々に紹介していた。しかし、実際に魔物に対峙したリリアンの力は予想以上に弱く、彼女が聖女として称えられるべき存在ではないことが徐々に明らかになっていた。

王子アランは、焦りと失望に苛まれていた。彼が選んだ「新しい聖女」は民衆に支持されるどころか、かえって失望の的となっていた。アイシスを捨てたことで一時は得意気であったが、その判断が誤りであったことが明白になりつつあった。しかし、彼は引き返すこともできず、民衆にリリアンを聖女として押し付けるしか方法がなかった。

一方、アイシスは各地で魔物を退けながら、人々に癒しと希望を与えていた。彼女は王都に戻ることなく、地方での活動を続けていたが、その噂は瞬く間に広まっていった。民衆の間では、「アイシスこそが真の聖女である」との声が次第に大きくなり、リリアンへの不信感が高まっていた。

ある日、王宮に一報が入った。辺境の村が大規模な魔物の襲撃に遭い、ほとんど壊滅状態だという。アランは慌てて兵を送り込むも、既に手遅れで、多くの民が犠牲となっていた。その報告を聞いた民衆は怒りと不安を抱き、王宮への抗議が相次いだ。彼らはリリアンが「偽りの聖女」であると非難し、アイシスの帰還を求める声を上げ始めた。

その声を耳にしたアランは、ついにアイシスに助けを求める決断をする。彼はこれまでのプライドを捨て、使者を送り、アイシスに王都への帰還を依頼した。王国が危機に陥っている今こそ、彼女の力が必要だと伝え、民衆のために助けてほしいと懇願した。

しかし、アイシスからの返答は冷たかった。

「私は、王子にとって『必要ない』と見なされた存在です。私にできることは、民衆に直接力を貸すことだけです。王都のためではなく、人々のために私は動きます」

その言葉を聞いた王子アランは、強い屈辱と後悔に苛まれた。アイシスが自分たちの呼びかけを無視していることに、彼は怒りを覚えると同時に、自らの行動の過ちを痛感した。

アイシスは民衆のために地方での活動を続け、次第にその評判は王都にまで届き、「真の聖女」としての存在が揺るぎないものとなっていった。彼女が魔物を退ける姿は、民衆の間で神話のように語られ、彼女が行く先々で喜びと平和がもたらされるとさえ言われるようになった。

そしてついに、王都を狙う巨大な魔物の群れが現れ、王都は一触即発の状態に陥った。王宮の騎士団も出動し、リリアンも「聖女」として魔物に立ち向かうが、その力は圧倒的に不足しており、王都の防衛は限界に達していた。

そのとき、民衆の間で噂されていた「真の聖女」がついに姿を現した。アイシスが王都の門に立ち、淡々と魔物たちに対峙する。彼女がその手をかざすと、聖なる光が広がり、魔物たちが次々と浄化されていく。その圧倒的な力を目の当たりにした民衆は歓声を上げ、アイシスこそが真の聖女であることを確信した。

リリアンはその場に立ち尽くし、アランもまたその光景に言葉を失っていた。彼が捨てた聖女がこれほどの力を持ち、民衆からの信頼と敬愛を集める存在になっているとは思いもよらなかった。アイシスの姿を見たアランは、彼女を取り戻したいと願うが、もはや遅すぎることを悟った。

アイシスは一度も王子や王宮の者たちを振り返ることなく、魔物を浄化し終えると、民衆に向かって優しく微笑んだ。

「皆さん、もう安心してください。これからはあなた方のそばで共に歩みます」

その言葉を聞いた民衆は涙を流し、彼女の存在がいかに大きなものであるかを実感した。そして、アイシスは彼らにとってかけがえのない存在として新たな人生を歩み始めることを決意したのだった。

こうして、王子アランとリリアン、そして王宮の腐敗した権力者たちは、アイシスの圧倒的な力と民衆からの支持を目の当たりにし、自らの愚かさを思い知ることとなった。

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