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第二章:大物狙い
しおりを挟むグレイス・オマリーの海賊船「ブラック・シー・サーペント号」は、青く広がる海原を滑るように進んでいた。目指すは次の標的――ドローム侯爵の領地だ。
「姉御、ドローム侯爵の領地はそう遠くないですぜ。奴は財産も多いし、貴族の中でも相当の悪党だって噂だ。」
部下のフランが、船長室の扉を軽くノックしながら報告する。グレイスは相変わらずテーブルに足を乗せ、ワインを傾けていた。
「そりゃ楽しみだね。あの侯爵が庶民から搾り取った金で建てた城、きっと見応えがあるだろうよ。」
グレイスの目が鋭く光る。彼女にとって、財宝だけが目的ではない。貴族たちが庶民を虐げて蓄えた財産を奪い取ることで、彼らに対するささやかな復讐を遂げていたのだ。だが、その理由を表に出すことはなく、あくまで自分の欲望のために動いているように見せていた。
「姉御、どうやってあの侯爵の城に忍び込むつもりですか?」若い船員が疑問を投げかける。
グレイスはニヤリと笑い、足をテーブルから下ろすと、ゆっくりと立ち上がった。
「忍び込む?冗談じゃないよ。堂々と乗り込んでやるさ。」
部屋にいた船員たちは、一瞬言葉を失ったが、すぐにグレイスの計画に理解が追いつく。彼女のやり方はいつも大胆で予測不可能だ。だが、それが彼女の強みでもあった。
「ドローム侯爵が主催する舞踏会に招待されたってことにするのさ。私たちの名が知られていないわけじゃないからね。少し名前を出せば、侯爵も気になるだろう。」
「さすが姉御、頭が切れますね。」
フランが笑いながら感嘆の声を上げる。グレイスはまるで高貴な令嬢のようにふるまうことが得意だった。美しい容姿と洗練された振る舞いで、どんな貴族でも一瞬で虜にする力を持っている。だが、その美貌の裏には、計算された策略と冷徹さが潜んでいるのだ。
「さあ、準備をしな。奴の城に行くぞ。大物ほど、油断しているものさ。」
その言葉とともに、船員たちは動き出した。彼らにとって、グレイスの計画は常にスリル満点であり、彼女の指示には絶対の信頼を置いていた。
---
数日後、グレイスは「グレタ・マリー」という偽名を使い、華麗なドレスに身を包んで、侯爵の城へと向かう馬車の中にいた。舞踏会の招待状は偽造され、彼女の身分は「海外の富豪の令嬢」として通っていた。彼女がドローム侯爵の前に現れると、侯爵は驚いた表情を見せたが、すぐに彼女の魅力に取り憑かれた。
「これはこれは、グレタ・マリー様。遠くからようこそいらっしゃいました。」
「ええ、侯爵様。あなたの評判はかねがね聞いておりますわ。」
グレイスはにこやかに微笑み、侯爵に挨拶を返す。その内心では、彼の財産のありかと防衛状況を把握するために、あらゆる情報を集めていた。彼女の目標はただ一つ――全てを奪い取ることだ。
夜が更け、舞踏会が盛り上がる中、グレイスは少しずつ行動に移り始めた。侯爵の警備が疎かになった瞬間を見計らい、船員たちに指示を送り、城内の財宝を次々に運び出す。侯爵自身はグレイス――いや、「グレタ・マリー」に夢中で、彼女の本当の目的に全く気づいていなかった。
---
翌朝、ドローム侯爵は目を覚ますと、自分の城がほぼ空っぽになっていることに気づく。豪華な宝石や金品はおろか、家具や装飾品まで全てが消えていた。さらに、グレイスが乗り込んできた馬車まで跡形もなく消えている。
「な、何だこれは……!」
侯爵の混乱と怒りの声が城中に響く中、彼の手元には一枚の紙が残されていた。
「侯爵様、ご招待ありがとう。あなたの財産はすべて頂いたわ。――グレイス・オマリー」
その名前を見た瞬間、侯爵は全てを理解した。彼女はあの悪名高き女海賊だったのだ。しかし、もう遅すぎた。全てを奪われた今、彼に残されたものは、ただの屈辱だけだった。
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こうして、グレイス・オマリーはまた一つ、大きな獲物を手に入れた。彼女の次の標的は既に決まっている。海賊としての冒険はまだまだ終わらない。
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