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第二章「真の力の覚醒」

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 隣国の村での日々が続く中、ルシダは少しずつ穏やかさを取り戻していた。追放された苦しみと失意からはまだ完全に立ち直っていないが、フィニアスの優しさに触れることで、彼女の中で少しずつ自分を見つめ直す気持ちが芽生えていた。

 フィニアスは日々、ルシダに新しいことを教え、彼女の能力を引き出すように励まし続けてくれる。「聖女だから特別な力がある」と思い込んでいたが、フィニアスは彼女に、「聖女であることは関係なく、君自身の持つ力に目を向けるべきだ」と教えてくれたのだ。

 ある日、村に突然病が広がり、村人たちが次々と倒れ始めた。フィニアスが出払っている間に、ルシダは村の人々が苦しむ姿を目の当たりにし、自然と自分が助けなくてはという思いに駆られた。彼女は村の集会所で祈りを捧げ、どうにかして村人たちを救いたいと願った。

 しかし、祈っても何も起きない。聖女であった自分に力がないことを痛感し、ルシダは一瞬、絶望しかけた。だが、その時、心の中でかすかな温かさが芽生えるのを感じた。それは、これまでとは違う、純粋な慈しみと願いの力だった。

 「どうか……どうか皆を救わせてください……!」

 すると、彼女の体から柔らかな光が放たれ、部屋の中が眩いばかりに輝き始めた。光は温かさと癒しを伴い、村人たちの病はみるみるうちに消えていった。彼女の心の中で、今まで感じたことのない強さが目覚めた瞬間だった。

 村人たちは驚き、感謝の言葉をルシダに伝えた。「あなたが私たちを救ってくれた」と涙ながらに感謝する村人たちの姿を見て、ルシダもまた涙を浮かべた。彼女は初めて、自分の力が人々の役に立ったことを実感し、これまで感じたことのない達成感と喜びに満ちていた。

 フィニアスが帰ってきた時、ルシダは彼に起きた出来事を話した。彼は優しく微笑みながら彼女を抱きしめ、「君は本当に素晴らしい存在だよ」と褒めてくれた。彼の言葉にルシダの心は温かくなり、これからもこの力で人々を助けたいと強く思った。

 それからルシダは、村人たちのために様々な活動を始めた。彼女の祈りは人々を癒し、農作物の収穫を手助けするほどの奇跡をもたらした。村人たちは彼女を「本当の聖女」として敬い始め、彼女もまたその期待に応えるべく、自分の力を磨き続けた。

 ある夜、フィニアスはルシダとともに村の丘に腰を下ろし、夜空を見上げながら静かに話しかけた。「ルシダ、君の力は単なる奇跡ではなく、君自身の優しさから生まれているものだよ」

 その言葉に、ルシダは少し驚いたが、フィニアスの言葉が深く響いた。これまでの自分は、ただの道具のように「聖女」であることに固執していた。しかし、今の自分は、力を使うことで人々に喜びをもたらすことができる、そう感じられるようになっていた。

 「フィニアス様、私が聖女としてではなく、ただのルシダとして人々を助けられることが、こんなに幸せだなんて思いませんでした」

 彼女のその言葉に、フィニアスは優しく微笑み、彼女の肩に手を置いた。「君は君であるだけで、十分に特別なんだよ」

 その夜、ルシダは自分が追放されたことをもはや後悔していないことに気づいた。王宮での束縛から解放され、本来の自分と向き合うことができたのだ。彼女は今、これからどんな困難が訪れようとも、自分の力と心で乗り越えられると信じていた。

 それでも、心のどこかでわだかまっているものがある。それは、エリックとアリスがいまだに王国で偽りの聖女として君臨しているという事実だ。彼女が不在の間、王国は混乱していないのだろうか。今や彼女は「無力な聖女」として追放された身ではなく、「本物の力を持つ者」として生きている。その力を使って、王国に何が起こっているのかを知りたいという気持ちが次第に強くなっていった。

 ルシダは心の中で決意した。いつか、王国に戻り、自分の力と心で真実を示す時が来ると。その時こそ、彼女が追放された「聖女」ではなく、真の力を持つ「ルシダ・エスティマエ」として、堂々と立ち向かう日が来るのだと信じていた。

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