王宮の薔薇と騎士たち

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第二章: 古の森の不思議

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朝日が木々の間から差し込み、エリスは目を覚ました。昨夜は旅の始まりの緊張でなかなか眠れなかったが、今は体中に力がみなぎっているようだった。周囲を見ると、すでに騎士たちが動き始めており、焚き火の残り火が煙を上げている。

「おはようございます、姫様。よく眠れましたか?」

カイが優しく声をかけてきた。彼の微笑みにはいつもの明るさがあり、エリスは安心感を覚えた。

「おはよう、カイ。おかげでよく眠れたわ。みんなはどう?」

「皆、もう準備を整えています。今日も古の森を進んでいきますが、何が待ち受けているか分かりません。気を引き締めていきましょう」

カイの言葉に頷きながら、エリスは自分の装備を確認した。ドレスは動きやすいように特別に作られており、腰には軽量の剣が装着されている。彼女は王女でありながら、幼い頃から剣術を学んでおり、その腕前はなかなかのものだった。

「レオン、今日のルートはどうなっているの?」

エリスは騎士団長のレオンに尋ねた。彼は地図を広げながら、冷静に説明を始めた。

「今日は古の森の奥深くへと進みます。そこには『霧の湖』という場所があり、王妃候補としての試練が待ち受けていると伝えられています。湖にたどり着くまでの道は、霧が濃くなり視界が悪くなるため、隊列を崩さないように進みましょう」

「霧の湖…か。名前だけでも神秘的ですね」

エリスは少し興奮した様子で言った。古の森は、伝説や神話の舞台となることが多く、その中でも霧の湖は特に神秘的な場所として知られていた。

一行は朝食を簡単に済ませ、再び森の奥へと歩みを進めた。木々は次第に密集し、空気がひんやりと冷たく感じられるようになった。そして、しばらく進むと、レオンの言った通り、霧が足元から立ち込め始めた。

「ここからが本番だな」

アレンが笑みを浮かべながら言ったが、その声にはいつもの軽さはなかった。彼の目も周囲を鋭く警戒している。

「この霧、ただの自然現象じゃないですね」

リュカが冷静に言い放つ。彼は霧の中に何かを感じ取ったようだが、その詳細はまだ分からない。

「皆さん、気をつけて進みましょう。この霧の中には何かが潜んでいるかもしれません」

エリスは剣を握りしめ、周囲を注意深く観察しながら進んだ。霧はますます濃くなり、視界はほとんどゼロに近い状態だった。まるで、何者かが意図的に彼らの進行を妨げているかのようだった。

その時、エリスの足元に何かが絡みつく感覚があった。驚いて足元を見ると、霧がまるで生き物のように彼女の足にまとわりついていた。

「これ…生きている!?」

エリスが叫ぶと、騎士たちも一斉に剣を抜き、エリスの周囲に集まった。

「姫様、下がってください! これはただの霧ではない!」

レオンが鋭く指示を出し、エリスを守るように前に出た。霧は次第にその形を変え、やがて人型のようなシルエットを形作り始めた。

「霧の精霊か…?」

リュカが眉をひそめた。精霊は自然界に存在するが、人間と接触することは稀であり、通常は無害である。しかし、この霧は明らかに敵意を持っているように見えた。

「何が目的なんだ…?」

カイが警戒しながら霧を観察する。彼の手には既に光の魔法の準備が整えられていたが、彼は慎重にタイミングを見計らっていた。

その時、霧の中から低い声が響いた。それは彼らの頭の中に直接語りかけてくるような感覚だった。

「王妃候補…エリス・ルクレティアよ…お前の心の強さを見せよ…」

その声は、まるで彼女の心の奥底を見透かすかのようだった。エリスは恐怖と驚きで一瞬動けなくなったが、次の瞬間、強い決意が彼女の中に芽生えた。

「私の心の強さ…それを見せるためにここにいるのなら、試してみるといいわ!」

エリスは剣をしっかりと握りしめ、霧の中に立ち向かう決意を固めた。彼女の中で何かが変わった瞬間だった。恐怖ではなく、挑戦を受け入れる勇気が湧き上がってきたのだ。

「姫様、我々がついています!」

レオンが力強く言い、他の騎士たちもそれに続いた。彼らの存在がエリスの心をさらに強くした。

エリスは目の前の霧の精霊に向かって、一歩踏み出した。その瞬間、霧が大きく動き、彼女に襲いかかろうとした。しかし、エリスは恐れずに前進し、剣を振り下ろした。

光の剣筋が霧を切り裂き、精霊は一瞬で消え去った。霧も次第に薄れていき、視界が戻ってきた。

「姫様、見事です」

カイが微笑んで言った。エリスは深く息をつき、剣を鞘に納めた。

「これが…試練の一つだったのね。でも、まだ始まったばかりよ」

エリスは冷静に周囲を見渡し、再び旅の続きに備えた。彼女と騎士たちの旅は、まだ序章に過ぎなかった。この先には、さらに困難な試練が待ち受けていることを感じながら、一行は再び歩みを進めた。

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