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第二章:王子の絶望と勇者の登場

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四聖神獣の暴走により、コツマギ王国はかつてない混乱と恐怖に包まれていた。火のフェニックスは王都を覆い尽くすほどの炎を巻き上げ、水のリヴァイアサンは沿岸を荒らし、風のドラゴンは嵐を呼び起こし、地のケルベロスは大地を揺るがせて人々を怯えさせた。王都を含む王国全体が恐怖に震え、民衆は日々の平穏を失った。

アクトロス王子は、この事態を鎮めるために必死に策を講じようとするが、すべてが徒労に終わっていた。神獣たちは尋常ではない力を持ち、人間の手でどうにかなるものではないと次第に理解し始めたが、それでも王子は何とかしようと多くの冒険者や兵士を募り、神獣討伐を命じた。

「このままでは国が滅びる!何としてでも四聖神獣を鎮めねばならぬ!」

そう叫びながら王子は自らが追い出した聖女ニーヴァを思い返した。彼女がいれば、きっとこの事態を救えたかもしれない――そう思うが、自らが彼女を裏切り、追放してしまったために、もはや戻ってきてくれるはずもなかった。自分の軽率な行動が、取り返しのつかない事態を引き起こしたことに、王子は初めて深い後悔の念を抱いた。

それでも、国を救うために神獣を抑えようと王子は様々な英雄や勇者たちにも助けを求めた。だが、その多くが神獣との戦いを恐れ、依頼を断って去っていった。それも無理もない、四聖神獣の力は、あまりにも強大で人間には太刀打ちできるものではなかったからだ。

しかし、そんな中でただ一人、ある勇者が王子の前に現れた。その勇者は、王子にとっても見覚えのある人物だった。彼の名はリカルド、ニーヴァの幼馴染であり、かつて共に冒険の夢を語り合った友人でもあった。

「リカルド、よくぞ来てくれた。どうかこの国を救ってほしい」と王子は胸の内の不安を抑えつつ、彼にすがるように頼んだ。

しかし、リカルドはその言葉を聞き終わると、冷たい眼差しで王子を見つめ、静かに口を開いた。「…お断りだ。国を危機に陥れたのは他でもない、お前のせいだからな。」

「な、何を言うのだ!私は国を守るために、神獣を鎮めたいだけだ!」王子は動揺し、必死に言い訳を続けようとする。

リカルドは彼の言葉を遮るようにして言った。「お前は、聖女であるニーヴァに何をしたかを忘れたのか?彼女を守り、共に国を支えるべきだった聖女を、くだらない嫉妬と陰謀に巻き込み、無実の罪で追放した。そのせいで、神獣たちは怒り、今このような状況が生まれているんだ。俺が助ける義理など、どこにもない。」

王子はその言葉に顔を歪ませ、唇を噛みしめた。確かに彼の言う通りだった。リカルドは聖女ニーヴァの幼馴染であり、彼女にとっても大切な友人だった。彼がここに来たのも、ニーヴァのことを心から案じていたからに違いない。

「それでも…それでも頼む!どうか神獣たちを鎮めてくれ!国が滅びてしまうのだ!」王子は膝をついて懇願したが、リカルドの表情は変わらず冷ややかだった。

「お前が自分で招いた結果だ。ニーヴァが戻らない限り、この国に未来はない。そして彼女が戻るかどうかも、お前が決めることじゃない。」リカルドはそれだけを言い残し、王子の前から立ち去った。

王子は絶望に打ちひしがれ、震える手で顔を覆った。自らが犯した過ちが、これほどの結果をもたらすとは思いもしなかった。彼は初めて自分の行いの罪深さを思い知り、真に後悔した。しかし、彼の後悔はもはや遅すぎるものだった。

だが、王子は諦めなかった。どんな手段を使ってでも、ニーヴァを探し出し、彼女に神獣を鎮めてもらうしか国を救う道はない。王子は国中の手がかりを探し求め、彼女の居場所を突き止めようと必死になった。

その頃、ニーヴァは国を去り、遠い山奥の静かな村で人目を避けて暮らしていた。彼女の心には、まだ王国で受けた裏切りの傷が深く残っており、誰にも会わず、ただひたすら静かに過ごしていた。しかし、心のどこかで自分が守り続けてきた人々が苦しんでいるのではないかと感じる瞬間があり、そのたびに胸が痛んだ。

やがて、王子の捜索は村にまで及び、ニーヴァの居場所がついに知られることとなった。だが、王子が再び彼女に会おうと訪れると、そこにはリカルドが待ち構えていた。彼は王子を睨みつけ、毅然とした態度で立ち塞がる。

「アクトロス王子殿下、あなたをニーヴァに会わせることはできない。会いたいなら、おれを倒してからにしろ!」とリカルドは鋭い声で告げた。

王子は一瞬たじろいだが、ここで引き下がるわけにはいかない。彼はリカルドに対し、「頼む、私は謝罪したいんだ。このままでは国が滅びる。どうか、ニーヴァに会わせてくれ!」と再び懇願した。

リカルドは黙って王子を見つめ、しばらくの間、彼の真摯な表情を見極めるかのように沈黙を保った。そして、やがて溜め息をつくようにして言った。

「…分かった。ここを通そう。しかし、ニーヴァが本当にお前に会うかどうかはわからないぞ。彼女がどれだけ深く傷ついたか、お前には理解できるのか?」

王子は頷き、震える声で「それでも、どうか会わせてくれ」と答えた。

こうしてリカルドは道を譲り、王子はニーヴァの住む屋敷へと足を踏み入れた。しかし、リカルドの言葉通り、ニーヴァは彼に会うことを拒んだ。執事が静かに王子に告げた。「ニーヴァ様は、王子殿下のために深い心の傷を負ってしまいました。どうかこれ以上追い詰めないでください。お引き取りを願います。」

王子は絶望の表情で立ち尽くし、彼女に会うことが叶わないまま屋敷を後にした。

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