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第二章「新たな地での奇跡」
しおりを挟む追放されたアクアは、王都から遠く離れた小さな村にたどり着きました。道中、行き倒れる寸前だった彼女を見つけて助けてくれたのは、年老いた村の女性、マーサでした。マーサはアクアの痩せこけた体を見て気の毒に思い、彼女を自分の小さな家へと招き入れてくれました。暖かい食事と清潔な寝床を用意し、マーサは何も聞かずにアクアを受け入れてくれました。
「本当に…ありがとうございます…」
アクアは涙をこらえながら、礼を言いました。王宮での豪華な生活から一転し、何もかも失って心が疲弊していたアクアにとって、マーサのような温かい人々との出会いは、わずかな救いでした。マーサは、かつて聖女と呼ばれていたアクアの事情には触れず、ただ「無理をせず、しばらくゆっくりしていなさい」とだけ言いました。その言葉にアクアはほっと安堵し、自分を偽らず過ごせることに、少しずつ心が癒されていきました。
村での生活は簡素で、村人たちは毎日、畑で汗を流しながら生計を立てていました。しかし、アクアが村に来た頃、村は深刻な問題を抱えていました。村の周辺で疫病が流行し、多くの村人が病に倒れ、村全体が不安と悲しみに包まれていたのです。アクアもまた、その苦しむ村人たちの姿を目の当たりにし、心を痛めました。
「私の力で…少しでも役に立てるなら…」アクアは心の中で決意を固めました。追放され、何もかも失った自分ですが、持っているこの力を誰かのために使いたいという気持ちは、今も強く残っていたのです。
ある夜、アクアは病床に伏していたマーサの隣に座り、手を取りました。「この手で…」彼女の祈りと共に、手のひらから柔らかな光が溢れ出し、マーサの体を包み込みました。その光が消えたとき、マーサは穏やかに目を開け、アクアを見つめました。
「アクアさん、あなたは…」
驚きと感謝が入り混じった表情で、マーサはアクアの手を強く握りました。彼女が自分の体調が回復していることを実感し、病から解放されたことを感じ取ったのです。村人たちもまた、その奇跡の噂を聞き、次第にアクアの元へと訪れるようになりました。彼女は黙々と村人たちを癒し、次々と病から救い出していきました。
アクアの行動は村中に希望の光をもたらしました。人々はアクアの力を「奇跡」と呼び、彼女を慕い始めました。ある若い農夫は、「アクアさんがいなければ、俺の家族もどうなっていたか分からない。本当に感謝しています」と涙ながらに感謝の言葉を述べました。子供たちもアクアに懐き、彼女が村を歩くと、自然と彼女の周りに笑顔の輪が広がりました。
村の長老であるバルドは、村人たちの声を代表して、アクアに感謝の言葉を述べました。「アクアさん、あなたのおかげで我々は救われました。我々は何も持っていませんが、どうかこの村であなたを守り、共に暮らしてほしい」
その言葉にアクアは深く心を打たれました。王宮での生活が、どれほど冷たく孤独だったかを思い出し、この小さな村での生活がいかに温かく、人間らしいものであるかを感じました。彼女は静かに頷き、「私も、この村で皆さんと共に生きていきたいと思います」と返事をしました。
しかし、平穏な日々が続くわけではありませんでした。アクアの奇跡が隣国の貴族の耳に入り、その影響で王宮にも伝わり始めたのです。彼女が追放された後、国の状況は悪化の一途をたどり、疫病や災害が多発していたことも相まって、アクアの不在がもたらした影響に国民は気づき始めていました。
「アクア様は今、どこにいるのだろう…」「彼女が戻ってくれば、我々は救われるのではないか?」そんな噂が王都で広がり始め、王やリリアたちも焦りを感じ始めました。リリアは自分の地位を守るためにアクアを追放しましたが、国が危機に陥り、自らの力では何も解決できない現実に直面していたのです。
一方、アクアはそのような王都の混乱を知ることもなく、村で人々とともに笑顔の毎日を過ごしていました。彼女は過去の苦しみを少しずつ忘れ、新たな家族のように感じる村人たちと絆を深めていました。そして、マーサや子供たちと一緒に野を歩き、畑を手伝う日々は、かつて王宮で感じることのなかった温もりを与えてくれました。
やがて、アクアは自分が追放された理由や、王都での過去を思い出すことが少なくなり、この村での生活に安らぎを感じるようになりました。彼女はもう過去に縛られることなく、未来へと歩んでいけるという自信を持ち始めました。
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