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第四章:勝利と新たな未来
しおりを挟むクラリス・リンドールの目には、冷たい鋭さが宿っていた。王宮での決定的な対立から数週間が経ち、彼女はアレクシス王子と聖女セレナの陰謀に対抗するため、慎重に動いていた。彼女の商業活動は一時的に停滞させられたものの、リンドール家の財力と影響力は依然として健在だった。そして何より、クラリスには強力な同盟者たちがいた。王子とセレナが築き上げた偽りの権力は、少しずつ揺らぎ始めていた。
その日、クラリスは宮廷の一角に呼び出されていた。アレクシス王子とセレナが主導した会議に出席することになったが、彼女の頭にはただ一つ、彼らを打ち倒す決定的な瞬間を待つという冷静な計算があった。
「クラリス様、お待ちしておりました」
彼女を迎えたのは、アレクシス王子の側近である貴族だった。王子は既に玉座に座り、セレナはその隣に控えていた。彼女の微笑みは変わらず慈愛に満ちたものに見えたが、その裏には勝ち誇った意図が透けて見えた。
「クラリス、お前が今までどれだけ王国を乱してきたか、今日こそ明らかにしよう」
アレクシス王子の厳しい声が響いた。彼の言葉には怒りと苛立ちが含まれており、王国を守るという大義名分を掲げながら、クラリスを悪者に仕立て上げようとしていることが明らかだった。
「セレナ様がすべてを暴露してくれるだろう。お前の商業活動が王国にどれほどの害をもたらしたか、そして、裏でどのような陰謀を巡らせていたかをな」
セレナは静かに立ち上がり、王子に一礼してからクラリスを見つめた。
「クラリス様、あなたが行ってきた商業活動は確かに王国にとって重要な役割を果たしていますが、残念ながら、それが国全体に利益をもたらすとは言い難い状況です。特に、南方交易においては、不正な利益の独占が確認されています」
セレナの言葉が広間に響き渡ると、周囲の貴族たちはざわめき始めた。彼女の冷静な指摘は、あたかもクラリスが公正な貿易活動を行っていないかのように聞こえる。しかし、クラリスは微動だにせず、ただセレナを見つめ返した。
「不正な利益の独占、ですか……それは具体的にどのような証拠に基づくものか、お聞かせいただけますか?」
クラリスの冷静な問いに、セレナは一瞬だけ言葉を詰まらせた。だが、すぐに微笑みを浮かべて再び口を開いた。
「証拠なら、すぐにお見せしましょう。アレクシス様が確認された書簡や報告書がございます。これらには、あなたが商業活動を不正に操作し、他の商人たちを排除したという記録が残っています」
その言葉を聞いて、クラリスは内心で冷笑した。セレナは確かに証拠を用意していたが、それはすべて偽造されたものだ。彼女はこの瞬間を待っていたのだ。セレナが偽の証拠を出すことにより、クラリスは逆にセレナの陰謀を暴露するための準備をしていた。
「では、その書簡を確認させていただけますか?」
クラリスの冷静な態度に、セレナは少し焦りの色を見せたが、すぐに衛兵に命じて書簡を持ってこさせた。数枚の書簡がクラリスの前に差し出されたが、それを手に取る前に、クラリスは周囲の貴族たちを見渡した。
「この書簡は確かに私に関するもののようですが、その真偽については今一度確認が必要です」
そう言うと、クラリスは事前に準備していた証拠を取り出した。それは、セレナが裏で貴族や商人たちに不正な取引を持ちかけていた証拠だった。彼女はあらかじめセレナの陰謀を暴くために、徹底的な調査を行い、セレナが偽造した書簡の出所や関与した人物たちの証言を集めていたのだ。
「これは、セレナ様が裏で行っていた取引の証拠です」
クラリスが書簡を広間にいる貴族たちに見せると、その場は一瞬で静まり返った。彼女の証拠は明白であり、セレナの裏の顔が暴かれた瞬間だった。
「嘘だ……これは何かの間違いです!クラリス様が偽造したに違いありません!」
セレナは必死に弁解しようとしたが、彼女の言葉はすでに空虚だった。広間の貴族たちは彼女の言葉に耳を貸さず、クラリスが出した証拠に注目していた。アレクシス王子もまた、動揺した表情でクラリスを見つめた。
「セレナ……これは本当なのか?」
王子の問いかけに、セレナは言葉を失い、ただ震えるばかりだった。彼女が築いてきた偽りの聖女像は、一瞬にして崩れ去った。
「アレクシス様、私があなたを陥れようとしているわけではありません。ただ、真実を明らかにしたまでです」
クラリスは冷静にそう告げると、アレクシス王子はついにその真実を理解したようだった。彼はセレナを見つめ、深くため息をついた。
「セレナ、お前の行いが真実ならば、これ以上私の側にいることは許されない」
その言葉に、セレナは青ざめ、王子の足元にひざまずいた。「違います、アレクシス様、どうかお許しを……!」
しかし、アレクシス王子は冷たい目で彼女を見下ろし、ただ「退け」とだけ命じた。衛兵たちがセレナを連れ出し、広間には再び静けさが訪れた。
クラリスは一礼し、静かにその場を立ち去ろうとした。彼女にとって、セレナを倒すことは目的の一つでしかなかった。真の勝利はまだこれからだ。
「クラリス様、お待ちください」
アレクシス王子の声が彼女を呼び止めた。クラリスは振り返り、彼を見つめた。
「私はお前に対して誤解していた。婚約破棄を申し出たことを後悔している。どうかもう一度、私のもとに戻ってほしい」
その言葉に、クラリスは静かに微笑んだが、すぐにその笑みは消えた。「お断りいたします、アレクシス様。私はあなたのもとに戻るつもりはありません」
そう言い残し、クラリスはその場を去った。彼女はこれからも自分の力で道を切り開いていくことを選んだのだ。婚約破棄は、彼女にとってただのスタート地点に過ぎなかった。そして、今や彼女は真の勝利を手にし、新たな未来へと歩み出したのだった。
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