悪役令嬢の真の勝者 〜婚約破棄は計画通り！〜

第二章：ライバルの台頭と真の敵

クラリス・リンドールが公爵家の長女として家に戻り、自らの商業活動を本格的に開始してから数週間が経った。王妃になるという社会的な道から解放され、彼女はついに望んでいた自由を手に入れた。しかし、自由と成功への道のりは平坦ではなかった。

特に、セレナ・アルカンシェル――王国の「聖女」として祭り上げられ、アレクシス王子の新しい婚約者となった彼女の存在は、クラリスの計画を妨害する大きな要因となる可能性があった。聖女セレナの評判は日ごとに高まり、彼女が王宮で果たす役割も次第に大きくなっていた。人々は彼女の慈悲深さと美貌に惹かれ、まるで光の中にいるかのように称賛していた。

「聖女様が来たわ！なんてお美しいんでしょう！」

「アレクシス様も彼女と結婚すれば、王国は安泰ですわね」

クラリスが広場を歩いていると、耳に入ってくるのはセレナに対する賛辞ばかりだった。人々の目は彼女に向けられ、クラリスはまるで自分が存在しないかのような疎外感を覚えた。しかし、クラリスは表情を変えず、ただ静かに歩き続けた。彼女にとって、人々の評価や表面的な印象など、もはやどうでもよかった。重要なのは、自分が何を成し遂げるかという結果のみだ。

「もうすぐね…」クラリスは小さくつぶやいた。

実は、セレナが注目されている裏で、クラリスは彼女に関する調査を密かに進めていた。聖女として崇拝されているその外見とは裏腹に、セレナは何かしらの陰謀を隠している――クラリスはそう確信していた。そして、その疑念は少しずつ証拠によって裏付けられていった。

彼女が得た情報によると、セレナは慈善活動を隠れ蓑に、王国内の商業や財政に干渉しようとしているということだった。表向きは無垢な聖女を装いながら、裏では自身の権力を強化するために、王国の貴族や商人たちと裏取引を行っていた。彼女の狙いは、アレクシス王子を通じて王国の実権を握り、最終的には王妃としての地位を確立することだった。

「このままでは、王国はセレナの手に落ちる…」クラリスは冷静に事態を分析し、次の行動を考えた。セレナの動きを止めるには、証拠を集めて公に暴露する必要がある。しかし、証拠を掴むためには、さらに彼女の裏の顔を暴くための確固たる計画が必要だった。

＊＊＊

その日、クラリスは自宅に有力な商人たちを招き、今後の商業連携について話し合っていた。彼女の手掛ける事業はすでに成功を収めており、さらなる拡大を目指して準備を進めていた。

「クラリス様、この協定が結ばれれば、南方交易路は完全にリンドール家の管理下に入ることになります。これは大きな成功と言えるでしょう」

商人の一人がそう述べると、クラリスは静かに頷いた。「ありがとうございます。ですが、これはあくまで始まりです。次に目指すべきは、より広い市場への展開です。まずは、北方との交易を本格的に進める必要があります」

クラリスの冷静で確実な指示に、商人たちは感嘆の声を漏らした。彼女の経営手腕はすでに多くの者に認められており、今では王国有数の商業家としての地位を築きつつあった。だが、彼女の目指すところは、さらに高みにあった。

「このまま進めば、セレナの思惑を超える力を得られるはず」クラリスは心の中でそう確信した。

しかし、彼女の計画には思わぬ障害が待っていた。

＊＊＊

数日後、クラリスの元に信頼できる情報筋からの報告が届いた。

「セレナ様が、王国内の商業団体に圧力をかけ、リンドール家との取引を停止させようとしているようです」

クラリスは眉をひそめた。セレナはすでにクラリスの動きを察知し、彼女の商業活動を妨害しようとしていたのだ。表向きは何も問題がないように見せかけながら、裏ではクラリスを潰そうと画策している。これは、ただの婚約破棄の問題ではなく、王国内の勢力争いに発展していた。

「そう簡単にはいかないわ」クラリスは冷静に笑みを浮かべ、手元の書類に目を通した。

彼女はすでに対策を考えていた。セレナがどれだけ影響力を持とうとも、クラリスにはその裏をかく手段があった。リンドール家の財力と人脈を駆使し、彼女はさらなる強力な同盟者を求めて動き出す。貴族だけでなく、商人や外国の有力者たちとの連携を強化し、セレナの影響力を打ち消すべく計画を進めた。

＊＊＊

その晩、クラリスは書斎で一人、次の手を考えていた。彼女の元には多くの情報が集まっており、それを整理することでセレナを打倒する策を練っていた。しかし、彼女は一つだけ気がかりなことがあった。

「真の敵は、セレナだけではないかもしれない」

クラリスはつぶやいた。セレナが表向きの敵であることは確かだが、背後にさらに大きな存在がいるかもしれない。王宮内の動きや、一部の貴族たちの挙動が気になり始めていた。

「今はまだ、全貌が見えていない…」

彼女は冷静に状況を分析しつつ、次の動きを慎重に決めようとしていた。ここで焦って動けば、全てが台無しになる可能性がある。しかし、待ちすぎても手遅れになるかもしれない。

「どのタイミングで動くべきか…」

クラリスは悩みながらも、最後には一つの決断を下した。「もう少し、証拠を集めましょう。そして、決定的な一手を打つ」

その夜、クラリスは次の手を打つ準備を整えながら、静かに眠りについた。セレナとの対決の時は、もうすぐそこまで迫っていた。


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