運命の嘘つき令嬢

第3章：真実の契約

イストはリーヴァルドとの婚約生活を形式的にこなしながらも、彼の行動を観察し続けていた。彼が表向きに「冷酷な侯爵」として振る舞いながらも、裏では孤児院を支援し、貴族社会の歪みを正そうとしていることに気づいた今、彼女の胸の中には次第に複雑な感情が芽生えつつあった。

だが、彼の行動のすべてが理解できたわけではない。彼の嘘を見抜く力を持つイストでさえ、彼の真意を完全に読み解くことはできなかった。その謎めいた態度が彼女を惹きつける一方で、不安をも呼び起こしていた。


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訪問者の告白

ある日の午後、リーヴァルド邸を訪ねてきた男性がいた。その男はリーヴァルドの執事に案内され、イストがいる部屋に通された。

「初めまして。私はアルノ・フランベルク、リーヴァルド侯爵にお世話になっている者です。」
彼の名は、イストも聞いたことがあった。フランベルク家は中級貴族ながら、リーヴァルドの支援によって政治の舞台に立つ機会を得た家柄である。彼はリーヴァルドの忠実な協力者として知られていた。

アルノはイストに深々と頭を下げると、低い声で切り出した。「イスト様、私はあなたにどうしてもお伝えしたいことがあります。」
その真剣な表情に、イストは静かに頷いた。「何でしょうか？」

「侯爵様が行っている活動についてです。彼はただの冷酷な貴族ではありません。その裏で、ある任務を遂行しています。それは、この国を守るためのものです。」
アルノの言葉に、イストは驚きを隠せなかった。リーヴァルドの行動が単なる慈善活動や自己満足ではないと感じてはいたが、「国を守る」という言葉が意味するものがあまりにも大きかったからだ。

「詳しく聞かせていただけますか？」
イストが静かに問いかけると、アルノはため息をついて語り始めた。


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リーヴァルドの使命

リーヴァルドは幼い頃から侯爵家の当主として育てられてきたが、その背景には特別な使命があった。それは、国の安全を脅かす敵対勢力を排除し、王国の安定を保つことである。そのために彼は時に冷酷な判断を下し、時に自ら危険な任務に赴くこともあった。

「侯爵様は、その任務のために感情を捨てる覚悟をしています。」
アルノは続ける。「しかし、感情を捨てたように見せかけているだけです。本当は、人一倍他者を思いやる方なのです。」

その言葉に、イストは胸の奥が熱くなるのを感じた。リーヴァルドが隠してきた本当の姿を知るたびに、彼への興味が深まっていく。


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二人の契約

その夜、イストはリーヴァルドに向き合うことを決意した。彼の真意を知るためには、自ら行動するしかないと思ったからだ。

「リーヴァルド侯爵、少しお時間をいただけますか？」
イストがそう言うと、彼は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに笑みを浮かべて応じた。「君が話を持ちかけるなんて珍しい。どうぞ。」

リーヴァルドの書斎で二人きりになると、イストは深く息を吸って切り出した。「あなたが行っている活動について、私はある程度知っています。」
その言葉に、リーヴァルドの瞳が鋭く光る。「誰から聞いた？」

「アルノ様です。ですが、私が知りたいのは、あなた自身の言葉です。なぜそこまでして国を守ろうとするのか、教えてください。」
イストの真剣な問いかけに、リーヴァルドはしばらく沈黙した。そして、静かに口を開いた。

「俺が国を守る理由はただ一つ。この国には、俺が守りたいものがあるからだ。」
「守りたいもの……それは具体的に何ですか？」
イストが問い返すと、リーヴァルドは微かに笑みを浮かべた。「それを教えるには、まだ君を信頼しきれていない。」

その言葉にイストは悔しさを感じたが、同時に彼の慎重さに理解も示した。「ならば、あなたが私を信じられるよう努力します。そして、私もあなたを信じたいと思います。」
彼女の言葉に、リーヴァルドは少し驚いた表情を見せた。

「いいだろう。ならば、一つだけ契約しよう。」
「契約？」
「そうだ。俺を信じると言った以上、俺の任務に協力してもらう。その代わり、俺も君に少しずつ本当の俺を見せることを約束する。」
その提案に、イストは一瞬ためらったが、すぐに頷いた。「わかりました。契約しましょう。」


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揺れる感情

その夜、イストは自室で一人考え込んでいた。リーヴァルドとの契約が、彼との関係をどう変えるのか。それはわからなかった。ただ一つ確かなのは、彼に対する感情がこれまでとは違っているということだった。

彼女の嘘を見抜く能力は、リーヴァルドの本当の姿を暴くための武器となるのか、それとも二人を繋ぐ絆となるのか──それはまだ誰にもわからない。


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