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第一章:婚約破棄の宣告

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華やかな宮廷の一夜、壮麗な舞踏会の席で、アビー・ド・オーブリーはまるで主役のように美しく輝いていた。彼女は名家オーブリー家の一人娘で、王国中で知られる美貌と聡明さを備えている。幼い頃から王国中の誰もが彼女を称賛し、未来を期待していた。

その期待は、彼女とアラン・ド・ブランシェットの婚約によって頂点に達した。アランは王国随一の貴族の子息で、剣術にも優れ、容姿端麗で、多くの貴族たちから将来のリーダーとして認められている人物だった。アビーもまた、アランとの婚約が自分にとっての運命だと信じ、日々彼の側で支え合うことを夢見ていた。

しかし、今夜の舞踏会で、その全てが音を立てて崩れ落ちることになるとは、アビーはまだ知る由もなかった。

舞踏会の最中、アランはアビーに向かって歩み寄り、彼女の手を取り、冷たい笑みを浮かべて言った。「アビー、話がある。少し席を外してくれないか?」

その声の冷ややかさに、アビーは不安を覚えたが、彼の申し出を断ることもできず、彼の後を静かについていった。彼らが人目のつかないバルコニーにたどり着いた時、アランはため息をつきながら告げた。

「アビー、俺は君との婚約を破棄する。」

その一言は、冷水を浴びせられたように彼女の心を凍りつかせた。信じられない気持ちで彼の顔を見つめると、アランはさらに続けて言葉を投げかけた。

「実を言うと、俺には新しい恋人ができたんだ。宮廷魔術師の娘であるセリーヌだ。彼女といると、自分が本当に求めているものが何か、ようやく分かったんだ。」

アビーは息が詰まるような感覚に襲われ、言葉を失った。あまりの衝撃に頭が真っ白になり、胸が痛む。しかし、次の瞬間には冷静さを取り戻し、問いかけた。「アラン、本当に私との婚約を破棄するの? 私たちは長い間、互いを支え合うと誓ったはずよ。」

アランはため息をつき、彼女をまるで厄介者のように見下ろした。「アビー、君はただ期待に応えようとするだけで、俺の理想からは程遠かったんだ。俺はセリーヌと共に未来を築きたい。それだけだ。」

彼の冷淡な言葉に、アビーは心が打ち砕かれる思いだった。しかし、その痛みの中で、彼女は自分がいかに彼の期待に応えようと無理をしてきたか、少しずつ気付き始めていた。彼女は自身の価値が、彼にとってどれだけのものだったのかを痛感し、胸の奥に燻っていた小さな違和感が確信に変わった。

「分かったわ。」アビーは、できるだけ冷静に言葉を紡いだ。「私もあなたと同じように、自分の本当の幸せを見つけることにする。」

アランは驚いた表情を浮かべたが、彼女の決意を感じ取り、ただ肩をすくめて去っていった。その後ろ姿が見えなくなるまで、アビーは黙ってその場に立ち尽くしていた。

胸の痛みはまだ消えていなかったが、彼女はふと気付く。彼と共にいることが全てだった自分の価値観が、今の一瞬で崩れ去り、自由を手にしたような感覚が芽生えていた。涙がこぼれる前に、アビーは目を閉じ、深呼吸をした。

「私はもう誰かの影に隠れて生きることはしない。これからは、自分の人生を生きる。」

アビーは新たな決意を胸に、バルコニーを後にした。

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