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第三章: 王子たちとの接近と新たな試練
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パーティーから数日が経った。あの夜のことが未だに頭から離れない。自分があの魔物を倒したことも、三人の王子たちが私に期待の目を向けていることも、すべてが現実感を欠いていた。
「はぁ……どうしてこんなことに……」
朝の光が差し込むリュシエル家の広々とした庭で、私はベンチに腰を下ろし、ぼんやりとため息をついていた。平和な日常を望んでいたのに、これからどうなってしまうのか……未来のことを考えると、どうしても不安が拭えない。
その時、庭の入り口の方から足音が聞こえてきた。振り返ると、そこには意外な人物が立っていた。
「アレン……王子?」
私が声をかけると、アレンはニッコリと笑いながら手を振ってこちらに近づいてきた。王宮でのパーティー以来、彼と話すのは初めてだったが、彼はあの日と同じ無邪気な笑顔を見せていた。
「やあ、リュシエル! 今日は暇だったから、君に会いに来たんだ」
「え、え? 私に?」
私は驚いて立ち上がり、アレンに尋ねた。彼は私の反応を楽しんでいるかのように笑いながら、軽く肩をすくめた。
「もちろんさ。あんなにすごい魔法を見せられたら、誰だって君に興味を持つよ。君は一体何者なのか、もっと知りたくなったんだ」
「えっと……ただの普通の人だよ。少なくとも、そうだったんだけど……」
そう答えながらも、私の胸には依然として重い疑問が残っていた。どうして私がこんな強力な魔力を持っているのか。普通の生活をしていたはずの私が、異世界に転生して、いきなり魔物を倒すほどの力を持っているなんて、未だに信じられない。
「そんな謙遜しなくていいよ。君には特別な力がある。それは確かだ。でも、それをどう活かすかは、君次第だよ」
アレンの言葉には温かさがあり、彼の無邪気な笑顔に少しだけ安心感を覚えた。彼が私に敵意を持っているわけではないことが分かる。
「それにしても、リュシエルって魔法の勉強とかしてたの?」
アレンが軽く尋ねた。私は首を横に振る。
「いや、全然……魔法なんて、こっちに来て初めて使えるようになったんだよ。自分でもびっくりしてるくらい」
「そうなんだ! じゃあ、やっぱり何か運命的なものかもしれないね。君にはこの国を救う力があるのかも」
「いやいや、そんな大げさなことじゃないよ……私はただ、静かに暮らしたいだけなのに」
私はまたため息をついた。アレンは私の言葉に少し考え込んだ後、真剣な表情で私を見つめた。
「でもね、リュシエル。力を持っている人には、その力を使って守るべきものがあるはずだ。君が望まなくても、きっとそういう運命なんだよ」
彼の言葉に、私は答えることができなかった。確かに、あの魔物を倒した時、自分にしかできないことがあるという感覚を覚えた。でも、それが本当に私の運命だとしたら……?
---
その時、突然背後からもう一つの声が聞こえた。
「全く、アレン。君は少しおしゃべりが過ぎるんじゃないか?」
振り返ると、そこにはクールな表情を浮かべた第一王子カイリスが立っていた。彼の存在に、アレンも驚いたようだ。
「カイリス、君も来てたのか!?」
カイリスは肩をすくめ、私たちにゆっくりと近づいてきた。彼は冷静な目で私を見つめ、静かに口を開いた。
「リュシエル、君がどんな力を持っているのか、俺も興味がある。だが、力を持つ者には、それをどう使うかの責任がある。君はその力をどう使うつもりだ?」
カイリスの問いに、私は返答に詰まった。私自身、その力をどう使うべきか分かっていない。ただ、平和に過ごしたいという思いが強いだけだ。
「……分からない。私はただ、平和に暮らしたいだけ。でも、力があるなら、それを使って誰かを守るべきなのかもしれない……」
そう答えながらも、まだ自分の中で結論が出ていないことがわかる。
「ならば、その力を試す機会が来るかもしれないな」
カイリスが淡々と言い、私は少し不安になった。彼は何を考えているのだろう?
---
そんな緊張した空気の中、今度は知的な雰囲気の第三王子ライラが現れた。彼は眼鏡を直しながら、にこやかに私たちに近づいてきた。
「やあ、リュシエル。君の力について、少し調べたいことがあってね。今度、王宮に来てくれないかい?」
「調べたいこと……?」
「そうだ。君の魔法の源や、その強力さの理由を探るために、君の協力が必要なんだ。興味があるだろう?」
ライラの言葉に、私は少し戸惑いながらも頷いた。確かに、自分の力が何なのか、私自身も知りたいと思っていた。でも、王宮に行って何をするのか、少し不安でもあった。
「リュシエル、君の力はまだ眠っているかもしれない。私たちと共に、その力を解明し、そしてどう使うべきかを一緒に考えよう」
ライラの提案に、私は少し考え込んだ。このまま自分の力を知らないまま過ごすわけにもいかないし、何より、彼らに協力することで少しでも自分の未来が見えてくるかもしれない。
「……分かった。行ってみるよ」
私は覚悟を決めて答えた。こうして、私は王子たちとの関係を深めていく中で、自分の運命と向き合うことになる。王宮で待ち受けている新たな試練と、解明される私の力の秘密――その先に何が待っているのか、まだ誰も知らない。
ライラからの提案を受け入れ、私は王宮で自分の力を解明することに決めた。自分でも何者なのか、どうしてこんな強力な魔法を使えるのかを知りたい気持ちは強い。アレンもカイリスも、それぞれの考えを持って私を見つめているけど、今はまず自分のことをしっかり知るべきだと思った。
---
翌日、私は王宮に向かうことになった。エリナが用意してくれたドレスを身にまとい、馬車で王宮へ向かう道中、心の中は緊張と不安でいっぱいだった。
「本当に……私が何か特別な力を持っているのかもしれない」
もしそうだとしたら、この力をどう使うべきなのかを真剣に考えなければならない。力を持つ者としての責任――カイリスが言っていた言葉が頭をよぎる。
王宮に着くと、案内されたのは広い研究室のような場所だった。そこには、ライラが待っていて、魔法の研究道具がたくさん並べられていた。
「リュシエル、来てくれてありがとう。ここで君の魔力を少し調べさせてもらうよ」
ライラは真剣な表情で、私の手に触れ、何やら特殊な魔法陣を描き始めた。周りには魔導具が光を放ち、空気がピリピリと緊張していた。
「大丈夫、痛みはないよ。ただ、君の魔力の根源を少し探るだけだから」
彼の言葉に少し安心しながら、私は静かに目を閉じた。すると、体の中から何かが引き出されるような感覚があり、心の奥に眠っていた記憶がぼんやりと浮かび上がってきた。
---
突然、景色が変わった。目の前に広がっているのは、異世界の光景ではなく、私が元々いた現代日本の風景だった。通勤電車に乗り、ビル街を歩いていたOL時代の私が見える。
「……これは、私の記憶?」
ぼんやりとその光景を見ていると、突然、声が聞こえてきた。
「リュシエル……」
その声は、私を呼んでいる。だが、それは誰の声なのか分からない。まるで夢の中のような感覚の中、私はその声の方向に向かって歩き出した。
「貴女の運命は、まだ始まったばかり」
---
次の瞬間、目の前が光に包まれ、私は元の研究室に戻っていた。ライラがじっと私を見つめていた。
「リュシエル、君の力は……どうやら予想以上に強大だね。これはただの魔法使いの力じゃない」
「どういうこと?」
私が尋ねると、ライラは少し躊躇しながら言葉を選んで答えた。
「君の力は、単なる魔法ではなく、古代の神々が使った『神術』に近いものだ。非常に珍しく、そして強力なものだよ」
「神術……?」
その言葉に、私はさらに混乱した。まさか、私がそんな大それた力を持っているなんて。
「今後、この力をどう使うかが大事だ。王国にも君の力を欲する者が現れるだろうし、敵も増えるかもしれない。だが、君はその力で多くの人を救うことができるんだ」
ライラの言葉は真剣だったが、私はまだ自分がどうすればいいのか分からなかった。ただ、少しずつ自分の運命と向き合う必要があると感じ始めた。
---
その夜、私は再びリュシエル家に戻った。エリナが出迎えてくれたが、私の心はまだざわついていた。
「お嬢様、お疲れのようですね。今日はゆっくりお休みください」
「ありがとう、エリナ……」
そう言ってベッドに横になった私は、眠りに落ちる前に自分に問いかけた。
「私は……この力をどう使うべきなんだろう?」
まだ答えは見つからないが、少しずつその答えに近づいていく気がした。私の力、そしてこの世界での役割――そのすべてをこれから見つけていくために。
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