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第三章:「王太子とリディアの失墜」
しおりを挟むアクセラが成功を収める中、王宮内では微妙な変化が起きていた。アレクシスとリディアの関係が、少しずつぎくしゃくし始めたのだ。アクセラが事業を次々に成功させて社交界での注目を集める中、リディアには不安と焦りが募っていた。もともと平民出身で貴族社会に馴染んでいなかったリディアは、王太子妃としての務めをこなすのに限界を感じ始めていた。
さらに、リディアは身分の違いや貴族たちからの冷たい視線に耐えきれず、次第に王太子に愚痴をこぼすようになった。最初は彼も慰め、励ましていたが、頻繁な不満と弱音が続くにつれ、アレクシスの心は冷え始めていた。彼は理想の中の「清らかなリディア」を求めていたが、現実のリディアはそうではなかったのだ。
ある日、アレクシスは公式な場でリディアと共に出席していたが、彼女が一人の貴族女性に突っかかっている場面を目にしてしまった。リディアはその貴族女性から冷ややかな一言を投げかけられたのだが、それに対して感情的に応じてしまったのだ。その光景を目の当たりにしたアレクシスは、驚愕とともに失望を覚えた。
「リディア、君は何をしているんだ。君には、もっと王太子妃らしい振る舞いが求められているんだ」
その一言に、リディアは顔を真っ赤にしてうつむいた。彼女の心には悔しさと屈辱が入り混じり、彼の期待に応えられない自分への苛立ちが膨らんでいった。しかし、彼女にはアクセラのような冷静さも誇りも持ち合わせていなかったのだ。
リディアの不安と不満が募る中、アクセラの活躍はさらに広がりを見せていた。彼女が手がけた香水は社交界だけでなく、平民の間でも大人気となり、売上は絶え間なく増加していた。さらには新しい事業として、アクセサリーの販売も始めた。彼女がデザインしたアクセサリーは独自の美しさと上品さを兼ね備え、アクセラブランドとして確固たる地位を築きつつあった。
ある晩、リディアはアレクシスと二人きりの食事の場で、怒りをぶつけるように口を開いた。
「アレクシス様、あのアクセラがこんなにも成功しているのはおかしいです! 彼女はただの貴族令嬢で、私たちのように公の役割を果たすわけでもありません。それなのに、なぜ彼女ばかりが注目されるのですか?」
アレクシスはその言葉に戸惑いを感じた。確かに彼も、アクセラの成功を耳にするたび、無視できない感情が湧き上がっていた。しかし、それを口に出すことはせず、冷静さを保つふりをしてリディアをたしなめた。
「リディア、君はもっと穏やかな心を持つべきだ。アクセラが成功しているのは、彼女の努力の結果だろう。私たちは私たちの役目を果たすだけだ」
しかし、彼の言葉はリディアの不安と苛立ちをさらに増幅させるだけだった。リディアは、平民出身でありながら王太子妃の座を得たことで、多くの期待とプレッシャーに押し潰されそうになっていたのだ。
そして、アクセラの成功に焦りを感じたリディアは、ついに裏の手段に手を染めることを決意した。彼女はこっそりと闇商人に接触し、アクセラの名声を落とすための計画を依頼したのだった。彼女は、アクセラの製品に問題があるかのように流言を広め、ブランドに傷をつけることで、彼女を失墜させようと目論んでいた。
だが、リディアの計画は見事に裏目に出た。アクセラはかつての婚約者である王太子とリディアが彼女の成功に目を光らせていることを察知しており、自身の事業を守るために慎重に監視体制を敷いていた。流言が広まると同時に、彼女は迅速に対応し、誠実な謝罪と共に製品の品質保証を発表した。その誠実さと迅速な対応により、逆に彼女の評判はさらに高まり、リディアの策謀は失敗に終わった。
さらに、リディアが裏で不正を働いていたことが明るみに出て、王宮内でも彼女への批判が噴出するようになった。アレクシスもまた、彼女が表では清純を装いながら裏で悪事を働いていたことに衝撃を受け、彼女への信頼を完全に失ったのだ。
この事態を受け、アレクシスはリディアとの関係を考え直さざるを得なくなった。彼の中で、かつて清らかで純粋だと信じていたリディアのイメージは崩れ去り、彼が持っていた幻想も消え去った。アレクシスは失意の中で、アクセラに対する後悔が胸を締めつけるように募っていった。
「私は何を間違えたのだろうか……」
アレクシスは自問自答しながら、失ったものの大きさに打ちのめされていた。彼が手に入れたかった理想は、虚像に過ぎなかったのだ。そして、彼が切り捨てたアクセラこそが、真の実力と誇りを持つ女性だったことに気付くのは、もはや遅すぎた。
一方、アクセラは自らの事業のさらなる拡大を目指し、王宮内の混乱など気にすることなく前を向いていた。彼女はかつての屈辱を力に変え、輝かしい未来へと歩み続けていたのである。彼女にとって、王太子やリディアの失墜は、もはや過去の出来事に過ぎなかった。
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