備品係の美咲さん

第3章: 陰湿なイジメの始まり

翌日、美咲はいつも通り会社に出社したが、社内の空気は明らかに変わっていた。廊下を歩くときも、社員たちの視線が彼女に集中し、ひそひそとした話し声が耳に入る。彼女の中で、昨日の出来事がますます不安を募らせていた。

「スパイって…私が？」

美咲は心の中で自問しながら、自分がそんなことを疑われるなんて想像もしていなかった。亮との親しげな関係が、さらに彼女への疑念を強めてしまったのは明らかだった。

その日、美咲が備品の補充を終えた後、倉庫に戻ると、ドアが少し開いているのに気づいた。不審に思いながらも、彼女は中に入ったが、そこには見慣れない光景が広がっていた。備品が散らばり、何かが荒らされたような跡が残っていた。

「一体…どうして？」

美咲は困惑しながら周囲を見渡した。誰かが意図的にこのようなことをしたのか、それとも単なる偶然なのか。だが、その時、背後から声が聞こえてきた。

「何をしているの？」

振り返ると、そこには数人の女子社員たちが立っていた。彼女たちの表情には、嫌悪と疑惑が入り混じっていた。

「まさか、あんたがやったんじゃないでしょうね？」

一人が皮肉を込めてそう言うと、他の女子社員たちも追従するように、美咲を取り囲んだ。

「え？私が？」

美咲は驚きながらも、冷静に答えた。しかし、彼女たちはその答えを信じようとはしなかった。

「スパイだって噂が立ってるわよ。藤堂さんとも親しくしてるし、何か企んでるんじゃないの？」

「そんな…私はただ備品の管理をしているだけで、何も…」

美咲が言いかけたが、女子社員たちはその言葉を遮るようにさらに詰め寄った。

「じゃあ、なんでこんなことになってるの？あんたの仕業だって噂されてるんだから、責任を取ってよ！」

その言葉に、美咲は言葉を失った。彼女は何も悪いことをしていないのに、疑われ、責められる理由がわからなかった。だが、そんな彼女の心情を理解しようとする者は誰もいなかった。

その後、女子社員たちは美咲に対する嫌がらせをエスカレートさせていった。美咲が倉庫を整理しているとき、突然ドアが閉じられ、鍵がかけられてしまうこともあった。備品が勝手に移動されたり、補充したものが消えることも頻繁に起こるようになった。

「何が起こっているの…」

美咲は毎日が恐怖と不安で満ちていた。彼女は一人で全てに耐え、何とか仕事をこなし続けたが、精神的な疲労が次第に彼女を追い詰めていった。

ある日、彼女が再び女子社員たちに取り囲まれ、さらに厳しい言葉を浴びせられた時、とうとう耐え切れなくなった。

「もうやめてください！私は何も悪いことをしていない！」

美咲が叫ぶように言った瞬間、周囲が静まり返った。女子社員たちは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに冷たい笑みを浮かべた。

「ふーん、何もしてない？でも、そう思ってるのはあんただけよ」

その言葉に、美咲は深く傷ついた。誰も彼女の言葉を信じず、彼女が何を言っても聞き入れようとはしなかった。彼女はただ、涙をこらえながらその場を立ち去るしかなかった。

その日の終わり、美咲はいつもより早く仕事を切り上げ、自宅へと帰った。部屋に入ると、彼女はそのまま床に座り込み、涙を流しながらつぶやいた。

「どうして…こんなことに…」

彼女は心の中で自問しながら、今後どうすればいいのかを考え始めた。だが、彼女の中にはまだ隠された「秘密」があり、その存在が次第に彼女を強くしていくことになるのだった。

その夜、美咲は決意を新たにし、明日もまた立ち向かう準備を整えた。彼女には守るべきものがあり、それを放棄するつもりはなかった。

「私にはやるべきことがある…」

美咲はそう心に誓い、眠りについた。だが、その「やるべきこと」がどれほど大きな力を秘めているのか、まだ誰も知らなかった。