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第一章:「冷たい結婚のはじまり」
しおりを挟むアクトロスは、王国の名家に生まれた美しい令嬢だった。両親は地位と名誉に敏感で、家の名声を高めることが何よりも大切だと彼女に教え込んできた。彼女もそれに応え、学問や礼儀作法、さらには剣術にまで精を出してきた。華やかな装いをし、気品ある微笑みを浮かべれば誰もが羨望の眼差しを向けるほどの美しさを備えた彼女だったが、その内心には小さな疑問があった。自分は本当にこのような人生を望んでいるのだろうか、と。
そんな疑問を抱きつつも、アクトロスはいつも通りの日々を過ごしていた。しかし、ある日、突然彼女の運命が大きく変わることとなる。両親から告げられたのは、彼女が伯爵家の次男、リュカと結婚することになったという話だった。アクトロスは驚きと不安に震えた。彼女には結婚の選択肢など与えられなかったのだ。
リュカという名は、貴族社会で名が知られていた。若くして王国の政務を手がける実力者で、美しい容姿を持ちながらも冷徹で冷酷な性格として知られていた。彼は他者を道具としか見ないような態度で、利己的な行動を取ることが多いと言われていた。そのような相手との結婚が決められてしまったことに、アクトロスは言葉を失った。
「アクトロス、お前は家のために尽くさなければならない。これはお前の運命なのだ」
父の厳しい言葉に、彼女は黙って頷くしかなかった。両親の期待に応えるため、彼女は自分の感情を押し殺し、結婚を受け入れる決意を固めた。彼女にとって、この結婚は家の義務を果たすための一環であり、自分の未来を賭けた犠牲でもあった。愛情など期待できるはずもなく、ただ形式的な結婚生活が待っているとわかっていた。
結婚式の日は、王国内でも話題になり、貴族たちが集う盛大な式典が開かれた。純白のドレスに身を包んだアクトロスは、神聖な式場でリュカの隣に立っていた。彼は冷ややかな微笑みを浮かべ、彼女を見つめることもせず、ただ儀礼的に誓いの言葉を述べていた。その様子に、アクトロスは胸の奥に冷たいものが広がっていくのを感じた。この結婚が形式的であり、愛情のかけらもないものであることを、痛感せざるを得なかった。
新居に移り住んだ後も、リュカはアクトロスに冷たい態度を取り続けた。彼は自分の仕事や趣味に没頭し、彼女にはほとんど興味を示さなかった。彼女が食事の場で話しかけても、返事はそっけなく、彼が家にいる時間もほとんどなかった。アクトロスは次第に自分が一人きりであることを実感し、虚しさを抱えながら日々を過ごすようになった。
ある夜、アクトロスはベッドに横たわりながら天井を見つめ、静かに涙を流した。家族のため、家の名誉のためにこの結婚を受け入れたつもりだったが、自分自身の幸せが犠牲にされていることに気づかざるを得なかった。誰からも愛されず、ただ名ばかりの妻として扱われる自分が悲しかった。
そんなある日、アクトロスは偶然にもリュカの本音を耳にしてしまう。彼が友人と話している場に通りかかった彼女は、思わず足を止め、彼の言葉に耳を傾けた。
「アクトロス? ああ、ただの道具だよ。家のつながりを強固にするための駒に過ぎない。あいつには何の価値もないさ」
リュカの冷酷な言葉が、アクトロスの心に鋭く突き刺さった。彼が自分をどれだけ軽視しているかを、改めて思い知らされた瞬間だった。彼女はその場を去り、自室に戻ると、無言で涙を流した。自分がどれだけ努力しても、リュカにとっては価値のない存在でしかないのだという絶望が、彼女を支配した。
しかし、悲しみに暮れるだけの日々を過ごすことは、アクトロスのプライドが許さなかった。彼女は一人静かに考え、これからの人生を自分の力で切り開く決意を固める。冷たい結婚生活の中で、彼女はかつての自分の弱さを振り返り、今こそ強く生きる時だと悟った。
「私はただの飾りではない。私にも、この人生を生きる権利がある」
自分自身の未来を奪われたままで終わりたくないという強い意志が、彼女の中で燃え上がった。そして彼女は、この冷たい結婚生活から抜け出し、自分だけの道を歩むために小さな一歩を踏み出す決意を胸に秘めたのだった。
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