5 / 13
第5章:「疑念の影」
しおりを挟む王国の貴族たちが何かを企んでいる――リオーナは前回の接客で得た手がかりを頭の中で整理しながら、控え室で静かに座っていた。商人の曖昧な言葉が頭から離れない。彼が言っていた「裏で動いている貴族たち」とは一体誰なのか。彼らが何を計画しているのか、その全貌を解明しなければならない。
その日、リオーナは次の任務に備えて、店内の雰囲気に溶け込むように歩き回っていた。客の様子を観察し、彼らの話に耳を傾けながら、少しでも有用な情報を拾い上げようとしていた。
「この世界はまるで別世界だ……」
リオーナはふと自分が異質な場所にいることを改めて感じた。華やかに飾られたキャバクラの店内で、剣を持たない騎士として働く自分。この状況はまるで夢のようだが、彼女にとってはれっきとした現実だった。王国を守るため、この地で情報を収集し、隠された陰謀を暴かなければならない。リオーナの中で強い使命感が沸き上がっていた。
---
その夜、リオーナに指名が入ったのは、これまで接客したことのない初対面の客だった。彼は50代半ばの、明らかに貴族階級に属する人物で、豪華な衣装をまとい、立派な身なりだった。リオーナは彼に対して一瞬の警戒心を抱いたが、冷静さを保ち、接客を始めた。
「リオーナと申します。本日はどうぞよろしくお願いします」
丁寧に挨拶しながら、彼の前に座る。彼はリオーナをじっと見つめ、微笑みを浮かべた。
「君がこの店で噂の女騎士か。噂通り、強さと美しさを兼ね備えている」
その言葉にリオーナは軽く微笑み返し、心の中で観察を始めた。この客は、ただの楽しみで来たのか、それとも何か目的があって来たのか。それを見極めるために、まずは会話を自然に進めることにした。
「お楽しみいただけるように、精一杯おもてなしさせていただきます。それにしても、貴族の方がお越しになるのは珍しいですね。何か特別な機会ですか?」
リオーナは彼にワインを注ぎながら、自然な会話の流れで質問を投げかけた。貴族がこの店に通うこと自体は珍しいことではないが、ここ最近の動きにはどこか異質なものを感じていた。
「特別なことはないさ。ただ、この店の噂があまりにも広がっていてね。私も一度、訪れてみようと思っただけだよ」
彼は軽い調子で答えたが、その背後には何か隠されている気がした。リオーナはさらに話を進め、彼からもう少し具体的な情報を引き出そうとした。
「貴族の方々も、このような場所で少しの息抜きをするのですね。最近、王国ではいろいろな動きがあるようですが、何かご存じですか?」
リオーナはさりげなく、王国の動きに話題を切り替えた。彼は一瞬だけ表情を曇らせたが、すぐに笑みを浮かべた。
「ふむ、確かにいろいろな噂が飛び交っているが、私には直接関係ない話だよ。ただ、何か大きな変化が起きるのかもしれないが、それが我々にどう影響を及ぼすかはわからない」
彼の言葉には明らかな曖昧さがあった。リオーナは内心でその言葉に疑念を抱いたが、さらに深く問い詰めるのは逆効果だと判断した。
「そうですか……いろいろと大変な時期ですものね。でも、何か変化があれば、またお話を聞かせていただければうれしいです」
彼はリオーナの言葉に軽く頷き、グラスを持ち上げた。彼女はこれ以上の情報を引き出すことが難しいと感じ、話題を別の方向に切り替え、接客を続けた。
---
接客を終え、控え室に戻ったリオーナは、今回の会話で得られた情報を整理していた。彼の言葉には確かに何かを隠している気配があったが、その核心に迫ることはできなかった。彼女は、王国の中で進行している陰謀に対する手がかりをさらに深掘りする必要があると感じていた。
「どうだった?」
控え室に入ってきたママがリオーナに声をかけた。リオーナは顔を上げ、少し考え込んでから答えた。
「怪しい部分はありましたが、まだ具体的な情報は引き出せませんでした。でも、確かに何かが動いているようです」
ママはうなずき、リオーナの横に座った。
「焦らないことよ、リオーナ。相手の警戒心を解いて、自然に話を引き出すことが大切。あなたは少しずつ慣れてきているわ。この店で働いているうちに、相手の心を読む術も身につくでしょう」
リオーナはその言葉に感謝しながらも、自分の中で何か足りないものがあると感じていた。騎士としての戦闘スキルは申し分ないが、この「戦場」では違う技術が必要だ。それを学び取るには、まだまだ修行が必要だと感じていた。
「そうですね……焦らず、次の機会を狙います」
リオーナはそう答え、再び冷静さを取り戻した。彼女は任務を完遂するために、さらに慎重に、そして深く相手の心に入り込んで情報を引き出すことを誓った。
---
数日後、リオーナは再び客を迎える準備をしていた。今回も新たな手がかりを得るため、冷静かつ慎重に接客をこなす覚悟を決めていた。王国で進行している陰謀の全貌を解き明かすため、彼女の戦いはまだ続く――。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
気付いたら異世界の娼館に売られていたけど、なんだかんだ美男子に救われる話。
sorato
恋愛
20歳女、東京出身。親も彼氏もおらずブラック企業で働く日和は、ある日突然異世界へと転移していた。それも、気を失っている内に。
気付いたときには既に娼館に売られた後。娼館の店主にお薦め客候補の姿絵を見せられるが、どの客も生理的に受け付けない男ばかり。そんな中、日和が目をつけたのは絶世の美男子であるヨルクという男で――……。
※男は太っていて脂ぎっている方がより素晴らしいとされ、女は細く印象の薄い方がより美しいとされる美醜逆転的な概念の異世界でのお話です。
!直接的な行為の描写はありませんが、そういうことを匂わす言葉はたくさん出てきますのでR15指定しています。苦手な方はバックしてください。
※小説家になろうさんでも投稿しています。
私が美女??美醜逆転世界に転移した私
鍋
恋愛
私の名前は如月美夕。
27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。
私は都内で独り暮らし。
風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。
転移した世界は美醜逆転??
こんな地味な丸顔が絶世の美女。
私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。
このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。
※ゆるゆるな設定です
※ご都合主義
※感想欄はほとんど公開してます。
俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛
ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり
もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。
そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う
これが桂木廉也との出会いである。
廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。
みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。
以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。
二人の恋の行方は……
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
夜の帝王の一途な愛
ラヴ KAZU
恋愛
彼氏ナシ・子供ナシ・仕事ナシ……、ないない尽くしで人生に焦りを感じているアラフォー女性の前に、ある日突然、白馬の王子様が現れた! ピュアな主人公が待ちに待った〝白馬の王子様"の正体は、若くしてホストクラブを経営するカリスマNO.1ホスト。「俺と一緒に暮らさないか」突然のプロポーズと思いきや、契約結婚の申し出だった。
ところが、イケメンホスト麻生凌はたっぷりの愛情を濯ぐ。
翻弄される結城あゆみ。
そんな凌には誰にも言えない秘密があった。
あゆみの運命は……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる