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第二章: 聖女としての覚醒

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アリシアは、自分の中に眠っていた力に気づいてから、何日もそのことばかり考え続けていた。これまでただの「無価値な存在」だと思っていた自分が、実は古代の伝説に語られる「聖女」である可能性があるという衝撃は、彼女の心を大きく揺り動かしていた。だが、それは信じがたいことでもあった。

「私が……聖女だなんて、信じられない……」

そう呟きながら、アリシアは屋敷の庭に足を踏み入れた。昔の記憶が蘇る。幼い頃、家族とともに訪れたこの場所は、今や荒れ果てている。だが、そんな荒廃の中にあっても、庭にはわずかに花が咲き続けていた。それが、まるで彼女自身の状況を象徴しているように感じられた。

「私はどうすればいいのだろう……」

彼女は一人で呟きながら、目の前に広がる庭を見つめた。聖女としての力に目覚めたところで、何をすればいいのか、どう生きていけばいいのか、全く分からなかった。何もかもが不確かで、これまで以上に不安が胸を支配していた。

その時、突然、彼女の耳に何かが聞こえた。かすかな声が風に乗って彼女の方へと流れ込んできたのだ。アリシアは驚いて立ち止まり、周囲を見回したが、誰もいない。しかし、その声は確かに彼女の心の中に響いていた。

「……助けて……誰か……」

その声は、どこからともなく彼女に届いていた。まるで、遠くで誰かが苦しんでいるような、切実な叫び声だった。アリシアは思わず立ちすくんだ。

「何……?」

驚きと共に、アリシアは声の発する方向に意識を集中させた。どうやら、屋敷の外、さらに森の奥から聞こえてくるようだった。彼女は無意識に足を踏み出し、その声に導かれるように森の中へと向かっていった。


---

森は静かで、薄暗い。だが、アリシアは恐れることなく進んでいった。なぜだろうか、不思議なほどに安心感があったのだ。まるで、森が彼女を歓迎しているかのように。

しばらく歩くと、小さな泉のほとりにたどり着いた。そこには、驚くべき光景が広がっていた。傷を負った小さな動物たちが、泉の周りで横たわっていたのだ。鳥や小さな獣たちが、苦しそうに息をしている。

「どうして……」

アリシアは驚きながらも、無意識にその場に膝をついた。そして、彼女の中から再びあの暖かな光が生まれた。それは彼女の手から泉の水へと流れ込み、まるで泉全体を浄化するかのように広がっていった。すると、泉の水が輝き始め、傷ついた動物たちの体が次第に癒されていくのが目に見えて分かった。

「これが……私の力……?」

アリシアは驚きながらも、その光景に見入っていた。小さな鳥が元気を取り戻し、翼を広げて飛び立つ姿を見て、彼女の胸に温かいものが込み上げてきた。自分の手で、誰かを救えたのだ。その事実が彼女にとって、初めての喜びだった。

「私は……誰かを救える」

その瞬間、アリシアの心の中にあった不安が少しだけ薄らいだ。これまで自分は無力で、何もできない存在だと思っていた。だが今、自分には力があることを知ったのだ。聖女としての力を使えば、誰かを助けることができる。それは、アリシアにとって新たな希望の光だった。


---

翌日、アリシアは屋敷の書庫に戻り、再び古い魔導書を手に取った。そこには、聖女としての力の使い方や、その歴史について詳しく記されていた。彼女は夢中でその内容を読み進め、自分の力をもっと深く理解しようと努めた。

「聖女の力は、命を救う力……」

その一文が、彼女の心に強く残った。自分はただの無力な存在ではなく、この力で多くの人々を救うことができる。それは大きな責任でもあり、同時に生きる意味を見つけた瞬間でもあった。

だが、同時に恐れもあった。この力をどう扱うべきなのか、そして、これからの人生をどう進んでいくべきなのか。まだ何も分からないままだった。しかし、少なくともアリシアは自分自身を信じることができるようになった。それだけでも、大きな進歩だった。


---

その日の夕方、アリシアは森を訪れた。再びあの泉のほとりに立ち、澄んだ水面を見つめる。小さな動物たちが元気に遊び回っている姿に、彼女は安堵の笑みを浮かべた。

だが、その時、不意に背後から声が聞こえた。

「お嬢様、ここで何をしておられるのですか?」

驚いて振り向くと、そこには一人の男性が立っていた。黒髪の青年で、鋭い瞳がアリシアをじっと見つめている。彼の姿は、どこか威厳がありながらも、優しさを感じさせるものであった。

「あなたは……?」

「カイルと申します。この屋敷に仕える者です」

カイルと名乗るその青年は、静かに一礼をした。彼がいつから屋敷にいたのか、アリシアは全く知らなかったが、その姿にはどこか安心感を覚えた。

「私は、あなたの力に気づきました。お嬢様は、ただの貴族令嬢ではない……聖女としての力を持っておられる」

その言葉に、アリシアは驚きを隠せなかった。彼が自分の秘密を知っているということは、この出会いが偶然ではないことを意味していた。

「どうして……」

「詳しいことは、今はまだお話できません。ただ、お嬢様がその力をどう使うか、私は見守る者としてここに参りました」

カイルはそれだけを告げ、静かに去って行った。彼の存在が謎めいていたが、アリシアは何か大きな運命が自分を待っていることを感じた。

「私の力をどう使うべきか……」

アリシアは自問しながら、泉のほとりに立ち続けた。彼女の中には、聖女としての使命感が徐々に芽生え始めていたのだった。

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