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冒険はお姫様抱っこのままで

エリーゼの回想

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エリーゼは崖の上の白い洋館を見つめる。

彼はあの洋館にいる。

遠くから見ると手が届きそうなのに近づくとこんなにも遠い。

彼を初めて見たのはクルーザーに乗っている姿だ。

イケメンの彼に一目惚れしてしまった。

しかし彼とはあまりにもすむ世界が違う。

彼は大貴族の嫡子。

夏のバカンスの間だけあの別荘にいる。

夕暮れ過ぎで薄暗くなり始めたがエリーゼはこの場から離れがたく沖合いの海面にわずか先っぽだけ出ている岩礁に腰を下ろしていつの間に歌を口ずさんでいた。

暗くなり始めたビーチに人影はまったくない。

薄暗い海にエリーゼの歌だけが響いてた。
エリーゼは知らなかった。

自分の歌声に人を魅了する力が備わっていることを。

洋館のテラスで夜風に当たっていた彼は静寂が支配する海で微かに聞こえてくる歌に気がついた。

「歌?…何て美しい声なんだ」

彼は歌声の主を探す。

「海か…」

崖の上の洋館のテラスにいるというのに彼は浜辺でも歩いてるように海に向かって歩き出していた。

当然崖下の海に落ちた。

それでも彼は歌声の主を求めて泳ぎ出す。

彼は取りつかれたように歌声の主を求めて泳ぎ続ける。

岩礁の上で歌う美少女を見つけた時、彼は力尽き溺れ海の中に沈み始めた。

岩礁で歌っていたエリーゼは彼女を目指して泳いでくる彼を見つけた。

エリーゼは嬉しかった。

彼が彼女を目指して泳いでくると思えたから。

その瞬間、彼が海面から消えた。

溺れた?

そう感じた時エリーゼはなにも考えず海に飛び込んでいた。

彼女の下半身の大きな尾鰭が力強く水をかいて泳いでいく。

エリーゼは人魚と呼ばれる存在だ。

あっというまに彼を見つけ沈みいく彼に追いついて抱きかかえて浜辺に向かって泳いでいく。

エリーゼはどうにか彼を浜辺に押し上げることに成功した。

「はぁはぁはぁ…どうしてこんなむちゃを?」

エリーゼは自分の歌の持つ恐ろしいまでの力を知らなかった。

彼を呼ぶ声が聞こえてくる。

彼の使用人達が海に落ちた彼を探していたようだ。

エリーゼは慌てて海の中に姿を消した。

白い洋館の主ライアン・クリフは自身のベットで目を覚ましたとき覚えていたのは海に沈む自分を助けようと手をさしのべてきた美しい少女のことだ。

「おお。目覚められた」

使用人達は安堵の声をあげた。

「私はどうしたのだ?まるで覚えていない」

彼はベットで上半身を起こした。

使用人達がざわつく。

「どうした?」

「若は…人魚に惑わされたのです」

「はぁ?何を言ってる?人魚だと?そんなものおとぎ話だけの話だろう」

「ですが若。この辺りでは昔から多数の目撃情報があります。それに今夜も沖の岩礁に人影があったのが目撃されています」

「海水浴客を見間違いたのだろう。」

「こんな夜更けに海水浴客は考えにくいかと」

「馬鹿げてる」

ライアンは一蹴する。

ライアンの事件があった数日後。

ライアンはテラスでボンヤリと海を眺めている。

左手にみえる砂浜で大勢の人の声が騒がしく聞こえてくる。

「ラン!」

ライアンはメイドを呼ぶ。

「お呼びでしょうか?」

「あれは何事だ?」

「それが人魚を捕まえると言う集団が噂を聞きつけてやって来たのです」

「なんだそれは?酔狂な連中だ。見せ物にでもするのか?」

「人魚の肉は不老不死の薬になるそうです」

「不老不死だと?さらに馬鹿げてる!デニスにあの馬鹿どもを追い払わせろ」

「かしこまりました」

デニスはライアンの執事であり使用人の長だ。
数10分後デニスがライアンの前に現れた。
「当家の敷地から退去させました」

「そうか。少し散歩してくる」

屋敷の周囲10キロは私有地で他人が入り込むことはあまりない。

さっきのような不躾な連中がごく稀に入り込むことがある。

大概はデニスが速やかに排除する。

ライアンは静けさを取り戻した砂浜を一人散歩する。

ふとあの少女を思い出す。

「幻影だったのか…」

そんなことを考えながら歩いてると岩場へとたどり着いていた。
「!」

岩場に腰を下ろす少女を発見する。

ライアンの位置からはまだ遠い顔だけがわずかみえる。

「君は!」

「あっ!ごめんなさい。勝手に入り込んでしまって。すぐ出ていきます」

ここが私有地であることを知っているようだ。
海に飛び込もうとする素振りを見せる。

「待ってくれ。いかないで欲しい」

彼女は飛び込むのを思いとどまった。

「私はライアン・クリフ。君はこの前私を助けてくれた子だね。名前を教えてくれないか?」

「エリーゼです」

「良い名前だ」

ライアンは岩場を苦労しながらもエリーゼに近づく。

やがてエリーゼの下半身がみえる位置まで近づき驚愕した。

下半身は足ではなく尾鰭になっているではないか!
「人魚?!だと?」

ライアンは困惑を隠せない。

「驚かせてごめんなさい」
長い金髪の髪が潮風に揺れる。

「いや。私の方こそ。驚いたりしてすまん。なんと言うかその…私は人魚が実際に存在するなどと思ってなかったので驚いてしましまった」

「いいんです。私達も基本的に人前には姿を現さないようにしてるんです。さっきみたいに驚かしてしまうので」

「でもどうしてこんな目につく時間帯に堂々と姿をさらしていたのかな?」

「ここはあなたの私有地で他に人が来ることがほとんどありませんし館からも崖で死角になってます。ライアン様だって普段はここに来たりしませんから」

「なるほど確かに」

「でもチヨット期待もしていたんです、ライアン様に会えるかなって」

「どうして?」

「一度でいいからお目にかかってお話してみたかったんです」

「エリーゼ…私もこの前助けられてからずっと君のことばかり考えていた。君に会いたかった」

見つめ合う2人。

2人は思いのたけを語り合い夢中で話した。
気がつけば夕闇がせまっている。
後ろ髪を引かれる思いだったが再会を約束して別れた。

それから数日間、2人は毎日のようにここで逢瀬を続ける。

エリーゼは人魚の国の海底王国マリアルの首都海底都市アクアシティへと戻った。

「エリーゼどこ行ってたの?」

エリーゼの一番上の姉シーが迎えに現れた。

「シー姉さま」

国王陛下おとうさまがおこってるわよ」

「え!」

エリーゼは海底王国の5番目の姫だ。

王宮に戻ったエリーゼは無断で出かけたために国王である父親にこっぴどく怒られた。

「地上に行ってはいかんとあれほど言ったであろう!」

さらに禁止されてる地上に行ったためになおさら厳しく叱責されることとなった。

「どうしてですか?国王陛下おとうさま

「人間と接触すると不幸になるからだ」

「なんでですか?わかりません!」

「困った娘だ。エラアルの話を聞いてこい!」


「げーっ」

エリーゼはげんなりした表情を見せる。

エラアルはマリアルの最長老の人魚だ。

説教が長いので若い人魚達には敬遠されている。

国王にして父親の命令なので仕方なくエラアルの屋敷を訪ねる。

エラアルはマリアル最長老ではあるが見た目は美しい美女だ。

人魚達は不老不死とまでとは言わないが長寿で見かけは永遠に若いままだ。

「聞いたぞエリーゼ。地上に行ったうえ人間にあったらしいな」

「どうして人間にあってはいけないのですか?」

「まさかと思うが地上で歌ったりしてはおるまいな?」

「歌ってはいけないのですか?」

「やれやれ。私達の歌には人間を魅了する力があるのだ」

「魅了?」

「うむ。私達の歌を聞いたものは自分の命の危険があろうともお構い無しに引き付けられてしまうのだ」

「命の危険!」

「例えば海で歌えば溺れて死んでしまうのも構わず歌に引き寄せられて海に入ってしまう」

「そんな恐ろしい力があったの?」

「それゆえ人間達は私達を危険な海の怪物と思っておる」

「そんな!全ての人間がそんな風に私達を思ってるとは思えません」

「それだけではない。あやつらは我々をとらえて我々の肉を食べようする。我々を食べると不老不死なると言われてるらしい」

「私達を食べる?なんて恐ろしい…」

「人間などと知り合っても不幸になるばかりだ」

エリーゼは当惑するばかりだ。




ライアン・クリフをある男が一人の少女と一人の女をつれて訪ねてきた。

人魚を捕まえに来た集団の一人だった。
ライアンはそんな連中に合うつもりはなかったがエリーゼにあった事で心境に変化があった。
「人魚は本当にいるのです!おとぎ話ではありません」

「本当にいるとしてなぜ捕まえようと言うのだ?」

「あれは危険な化け物です。」

「化け物?」

「あいつらの歌声を聞いた人間は海に引きずり込まれて命を奪われるのです」

「歌で海に引きずり込まれて命を奪われる?まさか…そんな?」

「あいつらの肉は不老不死の妙薬となるのです。」

「その話しが一番信じられない」

「と思いましてこちらの女性に同行してもらったのです。彼女は何歳にみえます?」

美しい妖艶さが漂う女性だ。

「二十代前半ぐらいか?」

「この女性は200歳以上です」

「えええっ?信じられない」

「別に信じてもらわなくてもいいです」

つまらそうに答える。

「この子は私の妹なんですが、不治の病で医者にも見放されたのです。ですが人魚の肉さえあれば助かるんです。
あなたの敷地内の海域で良く目撃情報があるのです。どうか敷地内の立ち入りを許可してください」

「…認められない」

「なぜですか?あいつらは化け物なんです」

「化け物って見た事があるんですか?人の姿をしてるんでしょう?それを殺して食うなんて事のために当家の敷地に立ち入りを認めるわけには行かない」

結局ライアンは敷地内への立ち入りを認めなかった。

「認めてもらえるまで何度でもお伺いします」
あの男も妹を病から救うため必死なんだろうがそのために人魚を犠牲になんてできない。

『人魚は化け物?エリーゼが私を海に引きずり込もうとした?馬鹿な!私を助けたのはエリーゼじゃないか』



再びあの岩場へとライアンは向かう。

岩場にはボンヤリと海を見つめるエリーゼがいた。
『私のせいでライアン様を死なせかけてしまった…。私はライアン様を不幸にしてしまうのかしら』

「エリーゼ!」

「ライアン様」

「エリーゼ…しばらく陸地に近づかないほうがいい。」

「ライアン様。どうして?」

「人魚を捕らえようしてる人間が近くにいる。しかもやつは人魚の肉を不老不死の薬として食べようとしてる」

「えええっ!?食べられちゃう?」

「君にしばらく会えないのは残念だが奴らに捕まったりしたら永遠にあえなくなってしまう。それは回避したい」

「ライアン様。私も会えなくなるのは嫌です」

「安全になったらテラスに旗を揚げよう。旗を見たらここで再び会おう」

「はい。ライアン様」

二人は再会を誓い別れる。
エリーゼは再び海へとライアンは館へと戻る。
その様子をみていた視線が1つあった。

ライアンが屋敷に戻るあの男と一緒に来た女が一人で訪ねてきた。

「ご用件はなにかな?」

「さっき人魚と会ってましたね」

「それがどうかしたか?彼女は化け物ではない。人間のエゴで勝手に殺していい存在ではない」

「化け物です。あれは生かしておくべきではありません」

「何故だ!彼女達は知的で理性的だ。畏怖すべき化け物ではない」

「彼女達の呪われた血肉がいけないのです!」

「不老不死か?」

「そう人々は不老不死を手に入れよう人間同士が醜く争う。血肉を得たものは永遠の孤独と言う呪いにさいなまされる。全てはあいつら人魚が存在するのがいけないのさ」

「ふざけるな!それこそ全ての人間のエゴではないか!」

「そのエゴも人魚がいるからだ」

「全て人魚のせいか?」

「その通りだ。ライアン・クリフ殿。全ては人魚がいるからだ。お前も海に引きずり込まれて殺されるだろう」
女の眼が赤く怪しく光る。
「俺も海へ引きずり込まれて…殺される…


「そう。殺される人魚をいかしておいたらだめなの。全て人魚のせい」

「人魚のせい…人魚は生かしておけない」

ライアンの目も怪しく赤く光る。


エリーゼは海底王国マリアルへと戻ってきた。

「ライアン様にしばらく会えないなんて寂しい」

「エリーゼどこに行ってたの?」

「ウェイ姉さま。ちょっと…」

ウェイは5姉妹の二番目の姉。

「シー姉様に会わなかった?」

「シー姉様?知らないわ」

「あなたを探しに行ったのよ」

「え?私を?」


エリーゼの姉シーは無断でアクアシティを抜け出したエリーゼを探して浜辺の沖合いまで来ていた。

「あの子ったらまた陸地に近づいたのかしら?」

突然、泳ぎが妨げられた。

「!?」

身動きが取れない。

あがくほどに自由が奪われていく。

「これは網?」

力の限り暴れるが網が体に食い込むような苦痛にもがく。

深く潜ろうとするがどんどん上ヘ上へと引き上げられて行く。

「なんて事!人間に捕らわれてしまったの!」



やがてシーは海上へとにさ引き上げられてしまう。

「やったぞー!人魚だ!本物だ!」

「本当にいたんだ!」

人間達が網かかった人魚を見て歓声をあげてる。

この海域は比較的安全な白い洋館の敷地の沖合いのはずだった。

…いや。白い洋館の主も人間だ。

安全なんて思い込みにすぎなかった。

網にからまったシーを見つめる人間達の目にシーは恐怖を感じる。

シーはいつの間に気を失っていた様だ。
気がつくと尾鰭をロープで縛り上げられて逆さに吊るされていた。

「上半身だけなら人間と変わらないな!」

男達の獣のような視線が集まる。

「ボス!ちょっとだけあそぼうぜ!」

「こんな生臭い化け物になにしょうってんだ?」

人間達の獣のような目にシーは怯え悲鳴をあげようとする。

「ぐううう」

くぐもった声しか出せない。

猿轡をされていた。

しかも口の中にも布を丸めたものが押し込まれている。

シーは水着のトップスのようなブラを身につけており下半身にパレオのようなものを巻いてたが逆さ吊りにされているため捲れ上がってる。

男達の目はシーの豊満なバストに眼が集中している。

男の一人がシーのブラを剥ぎ取る。

「くうううっ!いい乳してる」

「乳と言っていいのか?こいつ魚だろう?」


「上半身は人間型だから乳だろう?」

男の一人がシーの乳房を揉み始める。

シーはあまりの屈辱に涙を流す。

「なんだ?こいつ。化け物のクセに泣いてやがる」

捲れ上がったパレオにかくれていた部分をまじまじ見つめる一人の男。

「おい。これって人間のあそこそっくりだぜ」

羞恥心でシーはもう死んでしまいたいと思う。

「んぐーっ!!」

いやーっ!と絶叫したいが猿轡のせいでそれもかなわない。


「おい!もういいだろ!肉を削ぐぞ」

ボスと呼ばれる男がナイフをシーンの腕に突き立てえぐる。


「ギャーッ!」

猿轡をしているのにかなりの大音量の絶叫だった。

「後はお前らで適当にわけろ」

ボスは人魚の肉を一切れ程度を持って行ってしまう。

「おい!俺は乳房をもらう」

「てめえずるいぞ!片方だけだぞ。もう一方の乳房は俺だ!」

「じやあ俺はあそこぽいとこをもらう」

シーは次々と切り刻まれ絶叫を繰り返してやがて動かなくなってしまった。

床一面に血が飛び散りさながら殺人事件の現場だ。

しかし男達には魚を捌いてる程度の感想しかわかない。

肉を削いでそれを口にする男達。

「うめーっ」

「これが人魚の肉。やばい」

「今までに食ったことないおいしさだ」

男達は何度も人魚の肉を削いでく。
もうなにも反応しない。

男達は人魚の肉に夢中になってるといつの間に部屋の中にあの女がいた。

「おう。あんたか。ほら、あんたも食うか?すげーうめーぜ。ってあんたは食ったことがあるんだな」

「ありがとう。いただくわ」

男が差し出した肉片を受けとる。

「人魚の肉はとても美味しいけどとても希少よ。次ぎはいつ食べられるかわからない。この人魚の肉も限りがある」

女の眼が怪しく赤く光ると男達の目もそれに共鳴でもしてるように怪しく赤く光る。

「おい!てめーっ。なにひとりじめしてんだ?」

「なに言ってやがる。おまえが一番食べてるじゃねえか?残りは俺のだ」


男達は人魚の肉をめぐり争い奪い合いを始める。

「ぐわーっ」

一人がナイフを振り回し始める。

「おおっ。痛くない。痛くないぞ。はははは」

他の男もナイフで応戦する。

「人魚の肉を食べると不老不死になるの。怪我をしても痛みを感じない。病気になっても苦しまない。でも完璧ではない。人魚の肉を食べた人間の倒し方は首を切り落とすと死ぬ」

男達はお互いの首を狙いナイフで切り合う

やがて男達は同士討ちでお互いの首を切り落として絶命した。

部屋には女の姿はなく。

骨と化した人魚の遺体とお互いに殺し合った男達の遺体が転がってる。

エリーゼは姉のシーを探して水面まであがってきたが姉の姿を見つけられない。

「まさか人間に捕まったの?」

いやな予感を感じるエリーゼはあることを思い出した。

深く深く海の底を目指し泳いでいく。

やがて海の底にある小さな小屋に到着する。

ここにはいつの間にある魔女がすみついている。

シレーヌと名乗る黒いローブを纏う魔女だ。


人魚族でないのに彼女はなぜか海中でも平気でくらしている。

「シレーヌ様」

「エリーゼかい?どうした?」

海の底に居着いて長いために人魚族とも親交がある。
と言っても親しいわけでもなく敵対するわけでない。

エリーゼも親しいわけではない。
顔見知りと言ったところだ

「シー姉様が行方不明なんで地上に探しに行きたいから人間のような二本の足が欲しいのです」

「足かい?でも足のある体になったらもうもう人魚には戻れないよ」

「構いません。姉様のためですもの」

「この薬を飲めばいい。但し薬の代金としてお前の声をいただくよ。それでもいいかい?」

「…声を?お願いします。薬をください」

「じゃあ、海から出て飲むんだよ。海の中で飲んだら呼吸ができず死んでしまうから」

「ありがとうございます」


魔女シレーヌに教えられた通り砂浜まで這いあがり薬を飲み干すとエリーゼは激しいめまいと激痛に襲われ気を失ってしまった。


「君!君!」

砂浜で倒れていていたエリーゼはライアンに揺り起こされた。

「気が着いたかね?」

『ライアン様』

答えるつもりが声が出なかった。

魔法の代金として声を奪われたことを思い出す。

それでもこれでもう魅了の歌でライアンを危険な目にあわせずすむと思うと少しほっとして笑みがこぼれた。

「君は誰だい?私の知ってる人にそっくりだ」
ライアンは水着にパレオをつけてるその子を普通の海水浴客が溺れたのかと思っていた。

エリーゼはいたずらぽっい笑みを浮かべて砂浜に指で文字を書いた。

「それってなんぱですか?」

「いやいや。本当なんだ。君にそっくりなんだ…君もしてこ声が?」

「ごめんなさい。冗談です。私です。エリーゼです。」
ライアンはエリーゼの砂文字に驚く。

「しかし、その足!それに声は?!まだ危険…いや、もう大丈夫なのかも…」

「ライアン様に会いたくて…足を買うために声を売ってしまいました」
そう言えばおとぎ話の人魚姫はなぜ筆談しなかったのかしらと思うエリーゼだった。
「それにお姉様を探しに…」

「何て無茶なことを!姉がいたのか?まさか…」

「なにか心当たりが?」

「人魚探しに来ていた連中が先日、人魚を一人捕まえたらしい」

「どんな!人魚でした?」

エリーゼが慌てた表情で砂文字で訴える。

「すまない。私は人魚を見てないので」

「場所はわかりますか?確かめにいきます」
エリーゼは立ち上がろうとした激痛が走りよろけてしまう。
「エリーゼ!」
ライアンはあわててエリーゼを支える。
「大丈夫です」
立ち上がったので砂文字で伝えることができない変わりに凛とした表情でそうこたえた。
ふらついた体勢を建て直し確実に一歩一歩踏み出す。
「エリーゼ。待つんだ場所もわからない。私が調べるそれまでは私の屋敷でまっていてくれ」
エリーゼの身体がふわりと浮いた。
え?と思うエリーゼ。
お姫様抱っこされていた。
やばいやばい。これはヤバイ。
エリーゼの顔が真っ赤に染まってしまう。

エリーゼはライアンの白い洋館にいた。

応接間と思われる一室のソファーにちょこんと座ってる。

豪華な調度品が並ぶ部屋で借りてきた猫のようだ。

もちろんエリーゼは一国の姫だ豪奢な部屋でも臆するものではない。

しかし海水みずのない環境と足のある自分の身の置き場がない。

脚を右に傾けたり左に傾けたりと落ち着かない。

良い香りがエリーゼの嗅覚を刺激きする。

目の前には紅茶とクッキーが置かれている。

どちらも海中で暮らす人魚だったエリーゼには初体験の代物だ。

『なんだろう?とっても素敵な香りがする』

ティーカップを持ち上げはなの近くに持っていき香りを確かめる。

優雅に香りを楽しんでるというより仔犬がくんくんと匂いを嗅いでるようだ。

「リプルトンのアールレッドでございます。どうぞお召し上がりください」


メイドが紅茶をすすめる。

紅茶自体初体験で生産地や品種を言われてもなんのことやらである。

一口紅茶を口にする。

『美味しい!』


「クッキーもうどうぞ。当家パテシェ手作り自家製クッキーでございます」


エリーゼはすすめられるままにクッキーを口にする。

初めて体験するサクッとした食感に感動してその甘さに感激する。

『こんなの初めてやばい。まじやばい』

エリーゼは幸せそうな表情浮かべ紅茶とクッキーを何度も口に運ぶ。

お茶とクッキーたいらげて味と香りの余韻に浸ってる。


「お茶のおかわりはいかがですか?」

ウンウンと何度も首をたてに何度も首を振る。

エリーゼのカップに新たな紅茶が注がれる。

『ライアン様と一緒にお茶したい。早くもどってこないかな』

エリーゼはこの時は幸せな時間に包まれてご機嫌だった。

情報収集に出掛けていたライアンが屋敷に戻った。

玄関で執事のデニスが迎える。

「首尾はいかがでした?」

ライアンは青ざめて沈痛な表情を浮かべていた。

「いかがされました?御気分でもすぐれませんか?」

「いや。そうではないが…。エリーゼはどうしてる?」

「お茶と焼き菓子がお気に入りなご様子で大変リラックスしておられます。歩けないうえにお声も発せられないようですが何者なのでしょう?」

「私の客人だ。詮索は無用だ」

「失礼しました」

デニスは深く頭を下げる。


ライアンはエリーゼの待つ部屋に向かいながら苦悩していた。

最悪だ。

エリーゼの姉と思われる人魚は惨殺されたうえに犯人と思われる男達は殺しあって現場は遺体は片付けられたが広範囲に及ぶ血痕が惨殺の爪として残されてるのだ。
とてもエリーゼを現場につれてはいけない。

『私はエリーゼに何と伝えればいいのだ。人魚が化け物?違う。人間の方がよほど化け物ではないか?』

長い廊下を歩きながらどうすべきか苦悩しながら歩く。

さらにどうにも不可思議な事があった。

当家敷地内の沖合いに立ち入りを自分が許可したと言うのだ。

全く記憶がない。

しかし執事のデニスが私が許可したと証言しているのだ。

考えがまとまらないままエリーゼの待つ応接間に到着してしまう。

応接間に入ったライアンは紅茶とクッキーで幸せな表情を浮かべるエリーゼを見てライアンは決意した。


隠し通せるものでもないし嘘をついてもエリーゼを守ることにはならない。

むしろ傷つけてしまうだろう。

「おかえりなさい。ライアン様」

エリーゼは手にした石板に書いてしめす。

「その石板はどうした?」

「メイドさんにいただきました」

「ランに?」

そばに控えていたメイドの方をみる。

「私が子供の頃使ってた物ですが役に立つかと思いましたので」

「ああ。ありがとう。これは便利だ」

「役に立ちます。役に立ちます。」

ライアンもエリーゼも感謝する。


この世界では紙は貴重品でノートの役目は石板と言われる板状の石で白墨を使って文字を記すものが使われてる。


「それでなにかわかりましたか?」

エリーゼは筆談で会話をする。

「すまない…それが…捕らわれた人魚は奴らに殺されてしまっていた」

「そんな。その人魚は私の姉でしょうか?」

「遺体の損傷が激しいので確認できないと思うが、そんなにたくさんの人魚が近海が現れると思えないから…」


エリーゼは沈痛な表情でうつむきいてしまう。

「すまないエリーゼ」

ライアンが頭を下げる。

「どうしてライアン様が謝るのです?」

不思議そうな表情で石板を見せる。

「謝ってすむ話ではないが、同じ人間として奴らの行為を謝らずすませるわけにはいかない。それに私の敷地の沖合いに侵入を許したのは私の責任だ。許してくれ」

再び頭を下げる。

「ライアン様の責任ではありません。頭を上げてください」

「エリーゼ、君は優しいな」

2人はみつあう。

かきかきかきかきかきかきとエリーゼは石板に書いては消してを繰り返す。

2人の間にもどかしい奇妙な間が流れる。

「伝えたいことが上手く文章にできません。ライアン様の隣に立てるならと思い声を売ってしまいましたが話せないことがこんなんにももどかしいなんて…」

石板の文字は途中で終わっていた。

「ライアン様」

石板の文字ではない。

「エリーゼ、声が…」

「本当…でもどうして?」

うれしさのあまり笑みがこぼれる。

「エリーゼ、また君の声が聞けて良かった」

「ライアン様」

再び見つめ合う二人。


「それにしてもなぜ私はあいつらに敷地への立ち入りを許しただろか?そしてなぜそれを覚えてないのだ」

「それは人魚を生かして置いてはいけないからだよ」

いつの間に黒いローブを纏った女が背後に立っていた。

「お前はあの時の!」

「シレーヌ様!」

「エリーゼ、知っているのか?」

「私に足をくださった魔女です。ライアン様はどうして知ってるのですか?」

「この女は人魚を捕らえににきた男達の仲間で過去に人魚の肉を食べたと言ってた女だ」

「シーレヌ様が?」

「あいつらは仲間ではない。人魚狩りに利用しただけだ。人魚の肉を奪い合い殺し合う愚か者どもだ。それもこれもこの世に人魚などが存在するのがいけないのさ!」

「違う。人魚が悪いのではない。愚かな人間達が悪いのだ」

「しかし人魚がいなかったらそんな殺し合等なかった。そうは思わんか?ライアン・クリフ?」

黒いローブを纏った魔女シレーヌの目が怪しく赤く光る。

「その人魚もお前の命を奪おうと考えてるかもしれないぞ」

「エリーゼが私の命を?」

ライアンの瞳が赤く怪しく光だした。

「違います。私はそんなこと考えていません」

「魅了の歌で一度殺そうとしたろう?」

「あれは私の歌にそんな力があると知らなかったからです。決して殺そうなどと思ってません」

思わず言葉に力が入る。

「エリーゼが私を殺そうと…?」

「違います。私は決してライアン様を殺そうなどと思ってません!信じてくださいライアン様!」
ライアンの肩がふるふると震えている。

「結果的にはもう一歩で殺すところであったろう?」



「それは…。シレーヌ様。なぜこんなことを?」

「お前達は生かしとけないのさ」

「どうして私達人魚を憎んでるのですか?」

「お前達人魚がいけないのさ」

「どうして?」

「私はお前ら人魚が憎い」

「なぜ?」

「死ぬ者が知る必要はない」

ライアンの足元の床にナイフが飛んできてつきささる。

「ナイフを取って人魚を殺しなさなさい」

ライアンは震える手で床に突き刺さったナイフを引き抜く。

「人魚…殺す…生かしておけない…」

ガクガクと痙攣を起こしながらうわ言のよううに呟いてる。

「ライアン様!」

「だめだ!エリーゼを殺すなんて!…殺す…だめだ」

精神力で人魚を殺そうとする衝動を抑えようとしていた。

「ライアン様!」

さらに激しく痙攣をおこす。

「…だめだ。このままでは意識を乗っ取られる。頼む、俺を殺してくれ。エリーゼ。」

「そんな…どうして…?」

「君を殺したくない。たが…このままでは殺してしまう。エリーゼ。」

「無理。私にはできない。どうしてそんなことができるとおもわれるのですか?」

「早く殺しなさい」

「嫌だ。駄目だ。止めろ!   止めろ。」


「くそっ!ぐわーっ」

「ライアン様ーっ!」

ライアンは持ってたナイフを自分の胸に突き立てた。

ライアンの断末魔の絶叫とエリーゼの悲鳴のよう声が響く。

「馬鹿な。自分を刺すとは…愚かだ」

崩れ落ちるライアンをエリーゼが抱き止める。

「どうして…こんなことを?」

「この…ままでは…き…み…を殺してしまうから…こうするしかなった」


「そんな…いやです。ライアン様死なないでください」


ぎゅっと抱きしめた。

「そうだ。人魚の肉!私の肉を食べれば不老不死になって助かります」


ライアンの胸のナイフを引き抜いて自分の腕から肉を削ぎ落とそうと考える。

「止めてく…れ。助かっても…また君を殺そうとするかも…しれない。次…は止められ…」

ライアンの言葉はそれ以上続かなかった。

「ライアン様ーっ!」

息耐えたライアンの身体の揺り動かすがピクリとしもない。

「ひどい。どうして?こんな…ライアン様は関係でしょ?どうして?ライアン様が死ななければならないの?」

魔女シレーヌを睨み付ける。

「どうして?それは人魚のお前のせいさ!」

「どうしてそこまで私達人魚を憎むの?」

「お前らが不老不死の肉を持つ人魚だからだ」

「意味がわからない!」

「意味など知る必要がない。人魚は生かしておけない。それだけだ」

「許せない。あなたが人魚になにか恨みがあるなら私達だけに復習すればいい!なのになぜライアン様を巻き込んだ!だから許さない。」

抱き締めていたライアンを静かに床に下ろすと立ち上がりきっとシレーヌを睨み付ける。

「ほう?許さない?許さないならどうするというのだ人魚の小娘!」

「最長老様に聞きました。私達人魚は不老不死の薬になると何百年もの昔から人間達に狙われて来ました。もちろんご存知ですね?ですが私達人魚は滅びず今も存在します。人間よりはずっと少ないですがそれでも数多くの人魚がいます。なぜだかわかりますか?」

「知るものか!おしやべりはそこまでだ!」

シレーヌは炎の魔法ファイヤーボールを放った。

「それは人魚達わたしたち人間あなたより強いからです」

エリーゼの放った水の魔法がシレーヌの炎を打ち消した。

「なにっ!」

続けて放った氷刃ウォーターカッターがシレーヌを切りつける。

全身がズタズタになるほどの切り傷を負う。

「ぐっ…」

「貴女のレベルはわかりました。あなたでは私に勝てませんよ!」

「なんだと!」

「種族のステータス差があるうえに寿命が違いすぎるので自然とレベル差があるのです」

エリーゼの見かけは18歳ぐらいだが人魚は長命で見かけの歳の取り方もゆっくで
エリーゼも180年生きている。
当然経験値も高くレベルもあがっている。
人間とは比較しようもないレベルとなってる。

2度目の氷刃ウォターカッターは致命傷を負う急所を狙って放たれた。

シレーヌの前に魔法陣が盾のように展開される。

「防御魔法?違うこれは?…転生魔法?そんな高位レベルの魔法がなぜ使えるの?」

「人魚のいない世界に逃げる。レベルを上げてお前達を皆殺しにしてやるのだ!覚えてろ!必ず。復習してやる!」

シレーヌが光に包まれる。

「逃がしません。ライアン様の仇!」

エリーゼはシレーヌを捕まえようと魔法陣に飛び込むと光につつまれた。

やがて二人の姿はライアンの遺体を残してライアン・クリフの屋敷から、いや。この世界から消えていた。









    
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