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オーガンの魔女
森の魔獣
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冒険者三勇姿と真魚達の一行は西の森の魔女魔女に真相を確かめるべく帝都の西に広がる森へと入った。
鬱蒼と生い茂る森には獣道しかなく徒歩しか手段はない。
壁はいつものように真魚を抱き抱えているがまるで何も持ってない様に軽々と歩く。
「壁。疲れたら真魚さんを運ぶ役をいつでもかわるぞ。力と体力なら誰にも負けん」
アックスは確かに並みの冒険者では携帯不可能ともいえる真魚よりも重そうな大斧を帯同していた。
一方でジャベリンのジョウはお雪に道中ずっと美しさを称える言葉をならべたていた。
「美しい。あなたの前ではいかなる花も宝石も色褪せてしまいます」
「うざ。」
長い道中でジョウに返した言葉はその一言だけだった。
その一言にもめげずにジョウはお雪を誉めまくっている。
「ところで三勇姿さん達の編成は前衛ばかりでいつもどうしてるんですか?」
もっともな質問だ。
「今回と同じでその都度チームにはいってない優秀な回復役や魔法職を雇っている。」
チームを代表してブレイドが答える。
「チームには入れないのですか?」
「チームに入ってない優秀なやつは少なくないがそういう連中は協調性にかけるやつが多くてな。」
アックスがぼやく。
「協調性があって優秀なら既にどこかのチームに所属している。そこから引き抜くのも気が引けるもので…」
「お雪さん達なら大歓迎だ。どうだい俺達と組まないか?」
「そうだ。それはいい。チームから一人引き抜くのは気が引けるがチームごと全員ってのはいいアイデアだ。そう思わんかリーダー」
「そうだ。悪くない。考えてみてくれ」
三勇姿の意見は一致を見たようだが
「冗談じゃない」
「反対みたい…」
「だな。この話はなしで」
お雪の強烈な一言のあと真魚達の意見も一致していた。
「そりゃないぜ。お雪さん」
ジョウはさらに食いさがろうとするが、その後はお雪はジョウに対しては一言も発しなくなった。
森の中、ジョウの声のみ響く。
さらに鬱蒼とする森の中を黙々と歩き続ける。
「この森って魔物とかって出ます?」
真魚が三勇姿に問いかける。
壁とお雪の足が止まる。
「夜になると出やすいとの情報だが日はまだまだ高い」
「これだけ鬱蒼としてると昼でも夜とあまり変わらない。夜はでやすいって昼はでないと言うわけではないだろう?」
壁とお雪が辺りを警戒してるため三勇姿達も警戒し始める。
6人が警戒する中。
茂みのなから現れたのは大型の狼のような獣だった。
10匹程度の群れ。
我狼と言われる野生動物だ。
冒険者にとってはさほど恐ろしい敵ではない。
「我々が前に出る。壁は真魚さんを頼む。」
「お雪さんは俺の後ろに」
三勇姿が真魚達の前にでる。
フォーメーションは先頭にアックス。
2列目右にジョウ左にブレイド。
三列右にお雪、左に壁。
もちろん真魚は壁の腕の中だ。
に対して我狼達は正面から4頭。
左右から3頭づつ迫っていた。
真正面からと左右、タイミングを図ったかのように3方向から同時に飛びかかって来た。
正面から高く跳躍し襲いかかってきた獣達をアックスの大斧が左上からに右下に振り下ろされる。
振り下ろされた大斧はまるでコンダクターが指揮棒を振るごとく軽々く振り上げられ再び振り下ろされる。
一瞬で4頭を丸太のごとく斬り倒してしまった。
右から襲いかかってきた我狼はブレイドの華麗なまでの剣技で切り捨てられた。
右から左に振り返す剣で左から右に流れるように3頭を切り捨てていた。
左からの我狼はジョウのジヤベリンで三頭同時に串刺しにしてしまった。
まさに上級冒険者三勇姿の名に恥じない活躍だった。
我狼を蹴散らし一行は再度、西の森の魔女の住むを目指して進む。
「しかしこんな未開の森に住むとは変わり者だな。不便じゃないのか?」
ブレイドが誰に言うわけでもなく呟く。
「もしかして食料や水までも魔法で出せるのや知れんぞ」
「いくらなんでも万能過ぎるだろうアックス」
「全くだ。それじゃ神様だ」
戦闘時のフォーメンションのまま三勇姿の三人が先頭にたって歩いてる。
「お雪さん。どうよ。俺様の槍さばきは?頼りになるだろう?」
ジョウが再びお雪に話しかけるがお雪は何も答えない。
「おい。ジョウ。調子に乗って油断するな。たかが野生動物をしりぞけたくらいで受かれるな!」
リーダーのブレイドがジョウに釘を刺す。
「女の前だといつも調子に乗るのが悪い癖だ」
「アックス!お雪さんの前でなんて事を言うんだよ!それじゃあ、俺が女たらしみたいに聞こえるじゃあないか?」
「違うのか?」
「二人とも勘弁してくれよ!」
わざととらしくおどけて見せるジョウの姿に笑い声がもれる。
しかしお雪は無表情のままだ。
「また来ます!」
真魚が叫ぶ。
全員が身構える。
「今度は二足歩行…これは…コボルトです」
「真魚さん。回復役っていってたけど。探知系の能力もすごいですね」
ブレイドは感心しきりだ。
さっきの我狼の接近も最初にきがついていた。
「今度は俺達が前に出る」
壁が叫ぶと同時に横にお雪が並んでいた。
「しかし真魚さんを抱えたままでは!」
壁達の能力を知らない三勇姿のメンバーが慌てる。
「さっきはあんたらの実力を見せてもらった。
今度は俺達の実力を見てもらう」
「なら真魚さんは俺らが守る」
「俺達の実力と言った」
「しかし真魚さんを抱えたままでは壁は戦えないだろ?」
「そうだ。それではお雪さん一人で戦うことになるじゃないか!お雪さん一人ではいくらなんでも危険だ」
「真魚が足手まといだとでも思ってるのか?」
三勇姿達は真魚が回復役で探知系のスキルにも優秀であるとは認めてるが歩けない以上、戦闘に対しては無力なうえに壁の負担になるだけだと考えていた。
「まあ。俺達の戦い方を知っておいてくれ」
壁達三人は三勇姿の前に出て距離を取る。
「壁さん。私にやらせてください」
「いつもと違うフォーメーションになるぞ」
「仲間に足手まといなんて思われると悔しいです。二人に支援に回って欲しいです」
「俺は構わん。俺もどちらかというともともと支援系だし。お雪は?」
「きくまでもないわ。仲間を過小評価されるのは許せない。コボルトごときならいつもと違うフォーメーションでも問題ない」
「来ます!お雪さん。ブリザードを!」
「了解。視界を防ぐわ!」
お雪のブリザードはコボルトだけではなく味方の視界さえ妨げる。
「壁さん。右斜め30度6メートル前進!」
真魚の指示に壁が真魚を抱えたまま前進する。
真魚が軽く手を振るとコボルトの肉が斬れる音が響く。
「お雪さん。左15度、目の前!」
お雪の手にはいつのまにか剣が握られていてた。
お雪のスキルで作られた氷の剣だ。
コボルトに致命傷を与えるに充分な鋭さを持つ魔法の剣だ。
眼前だと言うのに敵の姿は全く見えない。
お雪はなんのためらいもなく目の前に剣を振り下ろす。
空中を舞う雪が紅く染まる。
「壁さん!右15度戻し正面!」
今度は大きく水平に手を振る。
肉が斬れる音が複数響く。
「お雪さん。ブリザード中止」
お雪のブリザードが止むとそこには複数のコボルトの遺体が累々ところがっていた。
お雪のブリザードは当然三勇姿の視界を妨げていた。
「これは一体?」
三勇姿には何が起きたのか分からなかった。
彼にコボルトの遺体が累々と転がっていてそれが真魚達の力であることしか判らない。
「あっ!私の実力を見せられなかった…」
「これは真魚さんが?」
ブレイドが唖然とした表情で問いかけてきた。
「攻撃魔法…水属性ですか?」
アックスも呆然とした表情だ。
コボルトの遺体のほとんどんが溺れたように水に濡れていた。
「高圧の水流での切断です」
「水で切断?そんな魔法は初めて聞きました」
ブレイドは驚きを隠せない様子だ。
三勇姿達は真魚達の能力の高かさに充分驚かされていた。
しかし真魚はお雪のブリザードで視界を阻まさせたことで充分に能力を把握させることを失敗したと考えていた。
「あううう…ブリザードは必要なかったかも」
「大丈夫よ。真魚。優位に戦闘をするためには適切な指示だった。あなたの判断に間違いはないわ」
お雪が真魚を擁護する。
「まあ。連中も足手まといとはもう考えないだろう」
壁の考え通り三勇姿達は真魚達を自分達と同レベルの冒険者と認めていた。
「ところでさっきの戦闘はどんなふうに見えた?」
壁は三勇姿達に質問してみた。
「えっと。突然真魚さんの声が聞こえて、それで次の瞬間にはすでに終わっていましたが?」
「真魚さんの声で敵の位置を把握したんじゃないのか?」
「声が聞こえても敵の姿も見えませんでした」
「ふーむ。そうか。やはりそういうことなのか?」
「壁さん。どうしました?」
「いや。なんでもない。真魚の能力の高さに驚いているだけだ」
壁は真魚の能力が想像以上だったことに改めて驚嘆していた。
「壁さん。私も壁さんみたいに戦いたいです」
真魚が壁にしがみつきながらお願いしてきた。
「俺みたいって。前衛か?」
壁は真魚の真剣な瞳を見て少しだけ嬉しくなった。
自分の後を追い求めてくれる存在がいることが嬉しいのだ。
「はい。壁さんのように」
「回復系が前にでたら困るんだが」
「前衛しながら回復」
「しかし、俺は、盾役だから、前衛だし、お雪が後方から攻撃魔法で支援する?」
「壁さんは?」
「俺か?俺の場合は、敵の攻撃を引き付けるために前線にでないといけないから、やっぱりお雪かな?」
「じゃあ。お雪さんに回復魔法を教えてもらいます」
「壁。甘すぎ」
お雪がジト目で壁を見つめる。
「お雪さん。よろしくお願いします」
「無理言わないでね、今までの形がベストだとおもうわ。」
「私だって、回復系として頑張ってるんですけど!」
「はい。わかっています。ただ、壁さんは、私を信頼してくれてるので私が怪我しても壁さんは絶対に助けに来てくれます」
「それは当然だろ?」
「私も壁さんの信頼に応えられるよう頑張ります」
「期待しないで待ってるわ」
お雪は苦笑いを浮かべた。
お雪も真魚の気持ちがわからなくもない。
ただ、真魚の回復魔法の能力は確かに高いと認めるが戦闘に関しては素人だ。
「真魚ちゃんは壁さんと一緒なら戦えるんでしょ?」
「はい。壁さんとなら!」
「なら壁と一緒に戦うときだけ前に出て戦ったらいいんじゃないかしら?」
「壁さん。それで良いですか?」
「まあ。真魚がそうしたいなら俺は構わないが」
「それなら問題ありません!」
「私は、いつでも、壁さんと一緒です!」
「なんか俺が告白されてるように聞こえるんだけど」
「壁さん。大好きです!」
「ありがとう」
「はい。真魚ちゃん。おめでとう」
「お雪さん。違うと思います」
「真魚さん。壁さんのことが好きだったんですか!」
アックスが興奮した面持ちで真魚に詰め寄る。
「いえ。違います」
「壁さん。良かったですね。真魚さんが壁さんのことを好きだったなんて」
「あの。アックスさん?私の話聞いてましたか?」
「もちろんですよ。真魚さんは壁さんとずっと一緒にいたいと」
「あー。その話はまた今度ゆっくり話すよ。とりあえず今はコボルトの討伐を終わらせないとな。ブレイド。コボルトの素材を回収してくれないか?」
「わかりました。任せてください。ブレイド行きましょう」
ブレイド達はコボルトの遺体を漁り始める。
コボルト達は冒険者から奪った装備を身につけていることが多い。
コボルト達の武器や鎧の中には鉄などの鉱石が含まれているため回収することで換金できる。
「それは、三勇姿で分けてくれ。俺達はいらん」「いらないですか?」
「ああ。この辺りのコボルトは狩り尽くしたはずだからな。そいつらはお前達で処分してもいいぞ」
「では遠慮なく」
三勇姿達はコボルトの遺体の処理を始める。
「そういえばさっきの戦闘中に真魚さんの声が聞こえた気がしたんですが」
「聞こえたか?」
「ええ。聞こえましたよ。確か『右15度前進』とかなんとか」
「視界が悪いときの中の真魚の探知能力は頼りになる」
「なるほど。声が聞こえた方に進むと敵を発見できたわけか」
「そうだ。真魚は耳も良い。聴覚強化も使えるらしい」
「へぇ。すごいな」
「真魚の声を聞けば戦闘が楽になる」
「でも、俺には聞こえなかったよな?」
「お雪のブリザードは、視界だけでなく聴覚も阻害するからな、至近距離でなければ聞こえない」
「そんな魔法があるのか?」
「ある。ただ、使い手は少ない。俺もお雪以外の使い手をしらない」
「そうなのか?」
「ブリザードは、範囲魔法で視界阻害、聴覚阻害、体力消耗、意識混沌、体温低下等、あと幻惑もあるんだっけ?とにかく強力な魔法だ」「お雪さんは凄いな」
「まあな。俺もお雪のことは尊敬している」
「壁さん。褒めても何も出ませんよ」
「真魚。行くぞ」
「はい」
「真魚ちゃん。元気ねぇ」
再び西の森の魔女を目指す。
彼らの行く手の森が急に開ける。
獣道が急に整備された道幅の広い石畳の引かれた道に変わりその両脇には一定間隔で巨大な石像が置かれてる。
巨石像は古い遺跡のようだ。
「これは明らかに…」
鬱蒼と生い茂る森には獣道しかなく徒歩しか手段はない。
壁はいつものように真魚を抱き抱えているがまるで何も持ってない様に軽々と歩く。
「壁。疲れたら真魚さんを運ぶ役をいつでもかわるぞ。力と体力なら誰にも負けん」
アックスは確かに並みの冒険者では携帯不可能ともいえる真魚よりも重そうな大斧を帯同していた。
一方でジャベリンのジョウはお雪に道中ずっと美しさを称える言葉をならべたていた。
「美しい。あなたの前ではいかなる花も宝石も色褪せてしまいます」
「うざ。」
長い道中でジョウに返した言葉はその一言だけだった。
その一言にもめげずにジョウはお雪を誉めまくっている。
「ところで三勇姿さん達の編成は前衛ばかりでいつもどうしてるんですか?」
もっともな質問だ。
「今回と同じでその都度チームにはいってない優秀な回復役や魔法職を雇っている。」
チームを代表してブレイドが答える。
「チームには入れないのですか?」
「チームに入ってない優秀なやつは少なくないがそういう連中は協調性にかけるやつが多くてな。」
アックスがぼやく。
「協調性があって優秀なら既にどこかのチームに所属している。そこから引き抜くのも気が引けるもので…」
「お雪さん達なら大歓迎だ。どうだい俺達と組まないか?」
「そうだ。それはいい。チームから一人引き抜くのは気が引けるがチームごと全員ってのはいいアイデアだ。そう思わんかリーダー」
「そうだ。悪くない。考えてみてくれ」
三勇姿の意見は一致を見たようだが
「冗談じゃない」
「反対みたい…」
「だな。この話はなしで」
お雪の強烈な一言のあと真魚達の意見も一致していた。
「そりゃないぜ。お雪さん」
ジョウはさらに食いさがろうとするが、その後はお雪はジョウに対しては一言も発しなくなった。
森の中、ジョウの声のみ響く。
さらに鬱蒼とする森の中を黙々と歩き続ける。
「この森って魔物とかって出ます?」
真魚が三勇姿に問いかける。
壁とお雪の足が止まる。
「夜になると出やすいとの情報だが日はまだまだ高い」
「これだけ鬱蒼としてると昼でも夜とあまり変わらない。夜はでやすいって昼はでないと言うわけではないだろう?」
壁とお雪が辺りを警戒してるため三勇姿達も警戒し始める。
6人が警戒する中。
茂みのなから現れたのは大型の狼のような獣だった。
10匹程度の群れ。
我狼と言われる野生動物だ。
冒険者にとってはさほど恐ろしい敵ではない。
「我々が前に出る。壁は真魚さんを頼む。」
「お雪さんは俺の後ろに」
三勇姿が真魚達の前にでる。
フォーメーションは先頭にアックス。
2列目右にジョウ左にブレイド。
三列右にお雪、左に壁。
もちろん真魚は壁の腕の中だ。
に対して我狼達は正面から4頭。
左右から3頭づつ迫っていた。
真正面からと左右、タイミングを図ったかのように3方向から同時に飛びかかって来た。
正面から高く跳躍し襲いかかってきた獣達をアックスの大斧が左上からに右下に振り下ろされる。
振り下ろされた大斧はまるでコンダクターが指揮棒を振るごとく軽々く振り上げられ再び振り下ろされる。
一瞬で4頭を丸太のごとく斬り倒してしまった。
右から襲いかかってきた我狼はブレイドの華麗なまでの剣技で切り捨てられた。
右から左に振り返す剣で左から右に流れるように3頭を切り捨てていた。
左からの我狼はジョウのジヤベリンで三頭同時に串刺しにしてしまった。
まさに上級冒険者三勇姿の名に恥じない活躍だった。
我狼を蹴散らし一行は再度、西の森の魔女の住むを目指して進む。
「しかしこんな未開の森に住むとは変わり者だな。不便じゃないのか?」
ブレイドが誰に言うわけでもなく呟く。
「もしかして食料や水までも魔法で出せるのや知れんぞ」
「いくらなんでも万能過ぎるだろうアックス」
「全くだ。それじゃ神様だ」
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「お雪さん。どうよ。俺様の槍さばきは?頼りになるだろう?」
ジョウが再びお雪に話しかけるがお雪は何も答えない。
「おい。ジョウ。調子に乗って油断するな。たかが野生動物をしりぞけたくらいで受かれるな!」
リーダーのブレイドがジョウに釘を刺す。
「女の前だといつも調子に乗るのが悪い癖だ」
「アックス!お雪さんの前でなんて事を言うんだよ!それじゃあ、俺が女たらしみたいに聞こえるじゃあないか?」
「違うのか?」
「二人とも勘弁してくれよ!」
わざととらしくおどけて見せるジョウの姿に笑い声がもれる。
しかしお雪は無表情のままだ。
「また来ます!」
真魚が叫ぶ。
全員が身構える。
「今度は二足歩行…これは…コボルトです」
「真魚さん。回復役っていってたけど。探知系の能力もすごいですね」
ブレイドは感心しきりだ。
さっきの我狼の接近も最初にきがついていた。
「今度は俺達が前に出る」
壁が叫ぶと同時に横にお雪が並んでいた。
「しかし真魚さんを抱えたままでは!」
壁達の能力を知らない三勇姿のメンバーが慌てる。
「さっきはあんたらの実力を見せてもらった。
今度は俺達の実力を見てもらう」
「なら真魚さんは俺らが守る」
「俺達の実力と言った」
「しかし真魚さんを抱えたままでは壁は戦えないだろ?」
「そうだ。それではお雪さん一人で戦うことになるじゃないか!お雪さん一人ではいくらなんでも危険だ」
「真魚が足手まといだとでも思ってるのか?」
三勇姿達は真魚が回復役で探知系のスキルにも優秀であるとは認めてるが歩けない以上、戦闘に対しては無力なうえに壁の負担になるだけだと考えていた。
「まあ。俺達の戦い方を知っておいてくれ」
壁達三人は三勇姿の前に出て距離を取る。
「壁さん。私にやらせてください」
「いつもと違うフォーメーションになるぞ」
「仲間に足手まといなんて思われると悔しいです。二人に支援に回って欲しいです」
「俺は構わん。俺もどちらかというともともと支援系だし。お雪は?」
「きくまでもないわ。仲間を過小評価されるのは許せない。コボルトごときならいつもと違うフォーメーションでも問題ない」
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「了解。視界を防ぐわ!」
お雪のブリザードはコボルトだけではなく味方の視界さえ妨げる。
「壁さん。右斜め30度6メートル前進!」
真魚の指示に壁が真魚を抱えたまま前進する。
真魚が軽く手を振るとコボルトの肉が斬れる音が響く。
「お雪さん。左15度、目の前!」
お雪の手にはいつのまにか剣が握られていてた。
お雪のスキルで作られた氷の剣だ。
コボルトに致命傷を与えるに充分な鋭さを持つ魔法の剣だ。
眼前だと言うのに敵の姿は全く見えない。
お雪はなんのためらいもなく目の前に剣を振り下ろす。
空中を舞う雪が紅く染まる。
「壁さん!右15度戻し正面!」
今度は大きく水平に手を振る。
肉が斬れる音が複数響く。
「お雪さん。ブリザード中止」
お雪のブリザードが止むとそこには複数のコボルトの遺体が累々ところがっていた。
お雪のブリザードは当然三勇姿の視界を妨げていた。
「これは一体?」
三勇姿には何が起きたのか分からなかった。
彼にコボルトの遺体が累々と転がっていてそれが真魚達の力であることしか判らない。
「あっ!私の実力を見せられなかった…」
「これは真魚さんが?」
ブレイドが唖然とした表情で問いかけてきた。
「攻撃魔法…水属性ですか?」
アックスも呆然とした表情だ。
コボルトの遺体のほとんどんが溺れたように水に濡れていた。
「高圧の水流での切断です」
「水で切断?そんな魔法は初めて聞きました」
ブレイドは驚きを隠せない様子だ。
三勇姿達は真魚達の能力の高かさに充分驚かされていた。
しかし真魚はお雪のブリザードで視界を阻まさせたことで充分に能力を把握させることを失敗したと考えていた。
「あううう…ブリザードは必要なかったかも」
「大丈夫よ。真魚。優位に戦闘をするためには適切な指示だった。あなたの判断に間違いはないわ」
お雪が真魚を擁護する。
「まあ。連中も足手まといとはもう考えないだろう」
壁の考え通り三勇姿達は真魚達を自分達と同レベルの冒険者と認めていた。
「ところでさっきの戦闘はどんなふうに見えた?」
壁は三勇姿達に質問してみた。
「えっと。突然真魚さんの声が聞こえて、それで次の瞬間にはすでに終わっていましたが?」
「真魚さんの声で敵の位置を把握したんじゃないのか?」
「声が聞こえても敵の姿も見えませんでした」
「ふーむ。そうか。やはりそういうことなのか?」
「壁さん。どうしました?」
「いや。なんでもない。真魚の能力の高さに驚いているだけだ」
壁は真魚の能力が想像以上だったことに改めて驚嘆していた。
「壁さん。私も壁さんみたいに戦いたいです」
真魚が壁にしがみつきながらお願いしてきた。
「俺みたいって。前衛か?」
壁は真魚の真剣な瞳を見て少しだけ嬉しくなった。
自分の後を追い求めてくれる存在がいることが嬉しいのだ。
「はい。壁さんのように」
「回復系が前にでたら困るんだが」
「前衛しながら回復」
「しかし、俺は、盾役だから、前衛だし、お雪が後方から攻撃魔法で支援する?」
「壁さんは?」
「俺か?俺の場合は、敵の攻撃を引き付けるために前線にでないといけないから、やっぱりお雪かな?」
「じゃあ。お雪さんに回復魔法を教えてもらいます」
「壁。甘すぎ」
お雪がジト目で壁を見つめる。
「お雪さん。よろしくお願いします」
「無理言わないでね、今までの形がベストだとおもうわ。」
「私だって、回復系として頑張ってるんですけど!」
「はい。わかっています。ただ、壁さんは、私を信頼してくれてるので私が怪我しても壁さんは絶対に助けに来てくれます」
「それは当然だろ?」
「私も壁さんの信頼に応えられるよう頑張ります」
「期待しないで待ってるわ」
お雪は苦笑いを浮かべた。
お雪も真魚の気持ちがわからなくもない。
ただ、真魚の回復魔法の能力は確かに高いと認めるが戦闘に関しては素人だ。
「真魚ちゃんは壁さんと一緒なら戦えるんでしょ?」
「はい。壁さんとなら!」
「なら壁と一緒に戦うときだけ前に出て戦ったらいいんじゃないかしら?」
「壁さん。それで良いですか?」
「まあ。真魚がそうしたいなら俺は構わないが」
「それなら問題ありません!」
「私は、いつでも、壁さんと一緒です!」
「なんか俺が告白されてるように聞こえるんだけど」
「壁さん。大好きです!」
「ありがとう」
「はい。真魚ちゃん。おめでとう」
「お雪さん。違うと思います」
「真魚さん。壁さんのことが好きだったんですか!」
アックスが興奮した面持ちで真魚に詰め寄る。
「いえ。違います」
「壁さん。良かったですね。真魚さんが壁さんのことを好きだったなんて」
「あの。アックスさん?私の話聞いてましたか?」
「もちろんですよ。真魚さんは壁さんとずっと一緒にいたいと」
「あー。その話はまた今度ゆっくり話すよ。とりあえず今はコボルトの討伐を終わらせないとな。ブレイド。コボルトの素材を回収してくれないか?」
「わかりました。任せてください。ブレイド行きましょう」
ブレイド達はコボルトの遺体を漁り始める。
コボルト達は冒険者から奪った装備を身につけていることが多い。
コボルト達の武器や鎧の中には鉄などの鉱石が含まれているため回収することで換金できる。
「それは、三勇姿で分けてくれ。俺達はいらん」「いらないですか?」
「ああ。この辺りのコボルトは狩り尽くしたはずだからな。そいつらはお前達で処分してもいいぞ」
「では遠慮なく」
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「そういえばさっきの戦闘中に真魚さんの声が聞こえた気がしたんですが」
「聞こえたか?」
「ええ。聞こえましたよ。確か『右15度前進』とかなんとか」
「視界が悪いときの中の真魚の探知能力は頼りになる」
「なるほど。声が聞こえた方に進むと敵を発見できたわけか」
「そうだ。真魚は耳も良い。聴覚強化も使えるらしい」
「へぇ。すごいな」
「真魚の声を聞けば戦闘が楽になる」
「でも、俺には聞こえなかったよな?」
「お雪のブリザードは、視界だけでなく聴覚も阻害するからな、至近距離でなければ聞こえない」
「そんな魔法があるのか?」
「ある。ただ、使い手は少ない。俺もお雪以外の使い手をしらない」
「そうなのか?」
「ブリザードは、範囲魔法で視界阻害、聴覚阻害、体力消耗、意識混沌、体温低下等、あと幻惑もあるんだっけ?とにかく強力な魔法だ」「お雪さんは凄いな」
「まあな。俺もお雪のことは尊敬している」
「壁さん。褒めても何も出ませんよ」
「真魚。行くぞ」
「はい」
「真魚ちゃん。元気ねぇ」
再び西の森の魔女を目指す。
彼らの行く手の森が急に開ける。
獣道が急に整備された道幅の広い石畳の引かれた道に変わりその両脇には一定間隔で巨大な石像が置かれてる。
巨石像は古い遺跡のようだ。
「これは明らかに…」
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とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
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