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第二章:婚約破棄と自由への歓喜

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リリカル・サウザー男爵令嬢は、静かな廊下を一人歩いていた。彼女の心の中は、これまで経験した数々の過酷な聖女の業務が重くのしかかっている。しかし、今日の彼女には、少し違う心の動揺があった。婚約者であるハロルド・ノーマン伯爵から「大事な話がある」と呼び出されたのだ。

「きっと、また何か面倒な話なんでしょうね…」

リリカルはため息をつきながら、荘厳な扉を前に立った。そして、ゆっくりと扉を押し開けると、そこにはハロルドがいつものように背筋を伸ばして待っていた。リリカルは彼の姿を見ながら、無表情を保ったまま椅子に腰掛けた。

「リリカル、来てくれてありがとう。話さなければならないことがある」

ハロルドは冷静な表情のまま、丁寧に言葉を紡いだ。リリカルも無言でうなずき、彼の言葉を待った。二人の間にはいつものように形式的な空気が漂っていたが、今日のハロルドにはどこか躊躇いのようなものが感じられた。

「君は、聖女として国に多大な貢献をしていることはわかっている。しかし、正直に言おう。君は聖女にふさわしくないと私は感じている」

リリカルは驚きもしなかった。むしろ、どこか冷静な目でハロルドを見つめ返した。彼の次の言葉を待ちながら、心の中である種の予感を確認していた。

「だから…君との婚約を破棄させていただきたい。君はもう、私の婚約者としても、聖女としてもふさわしくない」

その言葉がハロルドの口から出た瞬間、リリカルは無意識に心の中で歓声を上げていた。そして、その歓喜は自然と彼女の口から飛び出していた。

「ヤッター!自由だー!」

リリカルは突然、大声を上げ、両手を空に投げ出すと、思わずその場でスキップを踏んだ。ハロルドは呆然と彼女の突然の行動を見つめ、完全に困惑していた。

「え…?君、何を…?」

「だって、これでやっと解放されるのよ!聖女の過酷な仕事も、あなたとの形式的な婚約も、全部さようなら!もうこれ以上、苦労する必要はないのね!」リリカルは弾けるように笑いながら、ハロルドの前をぐるりと回り、スキップを続けた。

ハロルドは驚きと困惑が入り混じった表情でリリカルを見つめた。彼は彼女が怒るか、悲しむか、少なくとも冷静な態度を取ると思っていた。しかし、彼女の反応はまったく予想外のもので、言葉を失ってしまった。

「ええっと…つまり、君はこの婚約破棄に異論はない、ということか?」

ハロルドは混乱しながらも、何とか状況を把握しようと尋ねた。しかし、リリカルは彼の質問に対して興味を示さず、むしろその自由を喜んでいるかのようだった。

「異論? まったくないわ!むしろ感謝してるの。これで私は本当に自由になれるのだから」

彼女は机に手をついて、まるで勝利者のように笑みを浮かべた。ハロルドはその姿を見て、さらに困惑を深めていた。

「それじゃあ、あとはよろしくね!」とリリカルは、またもスキップしながら、扉を軽快に開けてその場を去っていった。彼女の後ろ姿が廊下を軽やかに進む様子に、ハロルドは呆然と立ち尽くすしかなかった。


---

婚約破棄が正式に成立し、リリカルは待ち望んでいた「自由」を手に入れた。彼女はこれで聖女の重い責務からも解放されると信じ、日々を謳歌するつもりでいた。

しかし、その期待はすぐに裏切られる。数日後、教会からの知らせが彼女の元に届いた。

「キャンディ・ウィルソン子爵令嬢が、新たな聖女として選ばれました」

その名前を聞いた瞬間、リリカルの顔には一瞬の驚きが走った。キャンディ・ウィルソンという人物は、彼女にとって全く面識のない存在だった。しかし、その新たな聖女としての選定が意味することを、リリカルはすぐに理解した。

「聖女の仕事が私から離れただけで、また別の人に重荷を背負わせただけじゃないか…」

そう思いつつも、リリカルは自分のことではないと割り切ることにした。彼女にはキャンディがどんな人なのか、どう聖女の役割をこなしていくのか、知る必要もないと思っていた。

「お気の毒に…騙されたとも知らずに…」
「騙してなどいない!」ハロルドが怒る、
「聖女詐欺…」
「詐欺などではない!」
「あなたには、わからないは、実際に聖女の職務に従事したことのない人には、わからないわ」


リリカルは、これからキャンディが背負うであろう苦労を皮肉を込めて呟いた。彼女はキャンディがどういう人物であろうと、聖女としての役割の過酷さに気づく日はそう遠くないと考えていた。

「それじゃ、私はもう好きに生きさせてもらうわ」

そう言って、リリカルはまた軽やかにスキップを踏みながら、外の風景へと消えていった。彼女の心には今、自由の風が吹き抜けていた。そして、その自由を享受することだけが、彼女にとっての最大の喜びだった。


---

数日後、リリカルは再び日常の自由を楽しむ日々に戻った。朝は好きなだけ寝て、好きな時に起きる。聖女としての過酷な業務はもう彼女の生活の一部ではなくなった。そして、気ままに散歩をしたり、好きな食べ物を楽しんだりと、かつての忙殺される日々とは一変した穏やかな生活が続いた。

だが、その平和な日々も長くは続かない。キャンディが聖女として任命されたことで、教会や王国にさまざまな変化が起きていた。リリカルはその噂を耳にするたびに、どこか不安を感じ始めた。

「本当にあの子に聖女として務まるのかしら…?」

そう思いながらも、リリカルは自分にはもう関係ないと強く思い直す。

「私の自由な生活さえ守れれば、それでいい」

しかし、そんな考えも束の間で終わりを告げる運命が、彼女の背後に迫っていることを、リリカルはまだ知らなかった。

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