契約結婚の行方 ～ヴヴィザ・シトロエンの華麗なる逆襲～

第3章：裏切りと決断

王都での舞踏会の熱狂が冷めた翌日、ウィッシュは一人、城の庭園を歩いていた。昨夜の出来事を思い返しながら、三人の貴公子――リュシアン、カイル、そしてアーサーのそれぞれの「願い」を改めて考えていた。

リュシアンの復讐、カイルの自由、アーサーの信頼――どれも簡単に解決できる問題ではなかった。ウィッシュはその重さをひしひしと感じながらも、彼らを助けたいという思いを胸に秘めていた。

「私にできることなんて……本当にあるのかな……」

小さく呟いたその声は、誰にも届かないと思っていた。だが、その瞬間、背後から軽やかな声が響いた。

「そんな弱気なことを言う君は、ウィッシュらしくないね。」

振り返ると、そこにはカイルが立っていた。彼はいつものように柔らかな笑みを浮かべていたが、その瞳にはどこか鋭さがあった。

「カイルさん……どうしてここに？」

「散歩ついでさ。君が悩んでいるのが見えたからね。……もしかして、俺たちのことを考えている？」

その問いに、ウィッシュは一瞬言葉を詰まらせたが、やがて静かに頷いた。

「はい。私に何ができるのか、ずっと考えていました。でも、皆さんの抱える問題は……私には荷が重すぎるかもしれません。」

カイルは少し驚いたように目を見開いたが、すぐに微笑みを浮かべた。

「そんなことを考えてくれる人がいるだけで、俺たちは救われているんだよ。……まあ、俺の場合は特にね。」

彼の言葉の裏に隠された意味を感じ取ったウィッシュは、思わず問いかけた。

「カイルさん、どうしてそんなに自由を求めるんですか？ご家族と何かあったんですか？」

カイルは一瞬目を逸らし、苦笑した。

「さすがだね、ウィッシュ。君には隠し事はできないみたいだ。」

その後、カイルはポツリポツリと話し始めた。彼の家族――豪商の家に生まれた彼は、幼い頃から「後継者」としての責任を押し付けられてきた。自由奔放に見える彼の振る舞いは、家族の期待から逃れるための仮面だった。

「俺が欲しいのは、自分の意志で生きる自由さ。それが手に入らない限り、何を手にしても虚しいだけなんだ。」

その言葉を聞いたウィッシュは、彼の心に抱える孤独を痛感した。

「カイルさん……私、あなたの自由を手に入れるお手伝いをします。」

「どうやって？」

「まだ分からないです。でも、必ず何か方法があるはずです。」

カイルは驚いたようにウィッシュを見つめたが、やがて柔らかな笑みを浮かべた。

「君って、本当に不思議な子だね。……ありがとう。」


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リュシアンの闇

その夜、ウィッシュはリュシアンの姿が見えないことに気づいた。彼がどこにいるのか心配になり、彼を探して城の中を歩き回る。やがて彼を見つけたのは、城の外れにある薄暗い中庭だった。

「リュシアンさん……！」

声をかけると、リュシアンは驚いたように振り返った。その目には険しい光が宿り、ウィッシュが近づくと彼は低い声で言った。

「何の用だ。」

「あなたのことが心配で……一人でどこかに行ってしまうのではないかと思って……」

ウィッシュの言葉にリュシアンはため息をつき、少しだけ肩の力を抜いた。

「俺のことなんて気にするな。お前にとって得るものなど何もない。」

「そんなことありません！リュシアンさん、私にはあなたが必要なんです。」

その言葉にリュシアンは驚いたように目を見開いた。

「俺が……必要だと？」

「はい。あなたの中の苦しみを感じるたびに、何とかして助けたいと思うんです。あなたの本当の願いは、復讐じゃないはずです。」

リュシアンは一瞬言葉を失ったが、やがて顔を伏せ、小さな声で呟いた。

「……分からないんだ。本当の願いなんて、俺にはもうないのかもしれない。」

ウィッシュはそっと彼の手を取った。

「それなら、一緒に探しましょう。私も、まだ自分の願いが何なのか分かりません。でも、一緒ならきっと見つけられると思います。」

リュシアンはウィッシュの手を見つめ、そして静かに頷いた。


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アーサーの選択

翌朝、ウィッシュはアーサー王子から直接呼び出しを受けた。冷たい雰囲気の中で始まった会話だったが、ウィッシュは自分の思いを伝えるために勇気を振り絞った。

「アーサー様、あなたが本当に望んでいるのは何ですか？」

アーサーは一瞬驚いたように目を細めたが、すぐに冷たい声で答えた。

「私の願いなど、君には関係ない。」

「それでも、私は知りたいんです。あなたを助けるために。」

その言葉にアーサーは険しい表情を浮かべた。

「助けるだと？君は自分が何を言っているのか分かっているのか？他人を助けるなどと簡単に言うものではない。」

「分かっています。でも、私は放っておけないんです。アーサー様の孤独を感じてしまうから。」

アーサーの瞳が一瞬揺らいだ。それを見逃さず、ウィッシュはさらに言葉を続けた。

「信じることは怖いことかもしれません。でも、私はあなたを信じたい。だから、少しだけ私を信じてみてくれませんか？」

長い沈黙の後、アーサーは小さくため息をつき、静かに言った。

「……愚か者だな、お前は。」

だが、その声にはどこか温かさが含まれていた。


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決断の時

ウィッシュはそれぞれの貴公子たちと向き合い、彼らの心の奥底に触れることができた。リュシアンは復讐から一歩離れ、カイルは自由への一歩を踏み出す決意を固めた。そしてアーサーもまた、わずかではあるが他者を信じる可能性を見出した。

しかし、ウィッシュ自身の願い――それだけがまだ見えていなかった。

「私は……何を願っているのだろう？」

星空を見上げながら彼女がつぶやいたその問いは、やがて訪れる最後の決断の瞬間に向けて、彼女を大きく動かしていく。