サマージャンボドリーム

 (笑)

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声優オファーとオーディション

5章 5

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### スタジオ入り

高橋祐希がアフレコのスタジオに入ると、彼女の目に飛び込んできたのは、四人の人物だった。監督、演出家、音響監督、そしてもう一人の若者が待ち構えていた。祐希は少し緊張しながらも、丁寧に自己紹介を始めた。

「高橋祐希と申します。今日はよろしくお願いします。」

彼女の挨拶に応じるように、まず監督が口を開き、自己紹介をした。その後、演出家と音響監督も順に自己紹介を行い、最後に若者が話し始めた。

「えーっと、役職は…なんと言えばいいんだろう?企画?それともスポンサー?」

彼は少し照れくさそうに笑いながら言葉を探していたが、その時、監督が彼の肩を軽く叩きながら言った。

「いやいや、総指揮でいいだろう。彼がこのプロジェクトのすべてを取り仕切っているんだよ。」

その言葉に、祐希の心は驚きでいっぱいになった。

『総指揮?この人が…この若者が、このプロジェクトを進めてるの?』

彼女は、直樹が自分よりも若いにもかかわらず、この壮大なプロジェクトを牽引していることに気づき、改めて彼の凄さを実感した。同時に、彼の強い意志と情熱が、この作品にどれだけ注がれているのかを肌で感じることができた。

その瞬間、祐希はこのプロジェクトが特別であることを再認識し、自分がその一翼を担う責任感と誇りを胸に抱いた。

直樹が少し照れたように笑いながら話し始めた。

「偉そうに見えるかもしれないけど、実は宝くじに当たっただけなんです。それで調子に乗っちゃって、こんな大掛かりなことを始めちゃったんですけどね。」

彼の言葉に、スタジオの空気が少し和んだ。祐希も緊張が解け、思わず微笑んだ。直樹が背負っているプロジェクトの重みと、自分の役割の大きさを再認識しつつも、その言葉の裏に隠れた彼の人間らしさを感じたのだった。

祐希は直樹の話を聞いて、思わず心の中で驚きを隠せなかった。

『宝くじ…あれって本当に当たるものなの?』と、頭の中で考えながらも、どう返答すればいいのかわからず、一瞬戸惑った。

「当たった人に会うのは、私も初めてです…」と、少し戸惑いながらも言葉を絞り出した。

直樹の無邪気な笑顔と軽い口調に、祐希はその場の緊張が一気にほぐれるのを感じた。彼の謙虚な態度と、どこか親しみやすい人柄が、彼女の不安を少しずつ和らげていったのだった。

祐希は直樹の言葉に少し勇気を出して尋ねた。

「あの…私、いつもリテイクばかりで現場で迷惑をかけてるんです。本当に私でいいのでしょうか?」

直樹は彼女の不安を感じ取り、真剣な眼差しで答えた。

「このヒロイン役は、あなたしか考えられません。リテイクですか?それについては、こちらが先に謝ります。多分、容赦なくリテイクを出すことになるでしょう。納得できるまで、たった一つのセリフに何時間もかけるかもしれません。全てのアフレコが終わるまで、とんでもない時間がかかるかもしれません。その間、あなたをずっと拘束してしまうかもしれません。下手をすると、他の仕事ができなくなる可能性もあります。その分のお給料は保証しますが、逆にこちらこそお聞きしたい、本当にやっていただけますか?」

祐希は一瞬言葉を失ったが、直樹の真剣な態度と、彼がこのプロジェクトにかけている情熱を感じ取り、決意を固めた。

「構いません。どうせ、今はモブとガヤの仕事しかありませんから。こちらに全力を賭けます」

その言葉に直樹は頷き、二人の間に強い信頼関係が生まれた瞬間だった。祐希はこのプロジェクトに全力を注ぎ、直樹の期待に応えるために、全てをかける決意をした。







「では、始めましましょう」
音響監督促されて

高橋祐希がブースに入る。
役柄に対する詳細なレクチャーが始まる。

「まずは、このキャラクターの背景と心情について話しましょう」と直樹が語り始めた。彼は祐希にキャラクターの深層心理や、物語の中での役割について細かく説明し、それをどう演じるかについて一緒に考える時間を取った。

祐希は、このような経験は初めてだった。通常、声優たちはスタジオに入る前に台本を読み込み、自分なりにキャラクターを作り上げてからアフレコに臨むものだ。だが、このプロジェクトでは、直樹の強いこだわりから、役作りの段階で細部にわたる指導が行われた。彼の情熱と徹底した姿勢に、祐希は深い感銘を受けた。

「こんなプロジェクトは聞いたことがない…」祐希は心の中でそう呟いた。さらに彼女を驚かせたのは、映像がすでに全て完成していることだった。アフレコの段階で、映像がすべて仕上がっていることなど、通常ありえない。これがどれほど異例で特別なことであるか、祐希は強く感じた。

その異例さに触れることで、彼女はこのプロジェクトがどれほど大切にされ、真剣に作られているかを痛感した。そして同時に、自分がこの役にふさわしいのかという迷いも生じた。

「私にできるのかしら…」祐希は不安な気持ちを抑えながらも、直樹の期待に応えたいという思いで演技に臨んだ。

直樹はそんな彼女の心の動きを敏感に察知し、「高橋さん、あなたならきっとこのキャラクターを生き生きと演じられます。あなたの声が必要なんです」と力強く言葉をかけた。

その言葉に、祐希は少しずつ自信を取り戻し、直樹の指導を受けながらキャラクターに命を吹き込むことに集中した。
このプロジェクトが彼女にとっても特別なものになることを強く感じながら、彼女は役に対する新たな決意を固めていった。

祐希は少し躊躇しながら、直樹に言葉を続けた。

「多分、このお仕事が私にとって最後のお仕事になると思いますし…」

直樹は驚いた表情で問いかけた。「最後の?」

祐希は静かに頷きながら説明を始めた。「十年、このお仕事をさせてもらっていますが、名前のある役なんてもらったことがありません。最近は、声優として生活していくことが難しいと感じていました。実は、引退を考えていたところにこのお仕事の話をいただいたんです。このお仕事に全てを賭けるつもりです。」

直樹は彼女の言葉を真剣に受け止め、祐希の決意を感じ取った。

祐希は少し微笑みを浮かべながら続けた。「このお仕事が終われば、たぶん、また仕事がない毎日が始まるでしょう。でも、少なくともこのプロジェクトは私にとって素晴らしい思い出になると思います。だから、あまり何も考えずに、全力を尽くしたいんです。」

彼女の覚悟と、これまでの苦労を感じた直樹は、彼女の手を取り、力強く答えた。

「祐希さん、あなたの全力をこの作品に捧げてください。僕たちも、全力でこの作品を作り上げます。一緒に最高のものを作りましょう。」

その言葉に、祐希は深く頷き、直樹の目を見つめ返した。彼女の中で、このプロジェクトが新たな挑戦であると同時に、自分自身を試す最後の機会だという強い思いが一層強くなった。
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