上 下
3 / 11

第三章 「揺れる心――仮面の裏に隠された真実」

しおりを挟む
クラリッサは、ルカとの時間が過ぎるごとに、彼に対する感情がますます複雑になっていくのを感じていた。彼の一言一言が、彼女の心を揺さぶり、かつての自分を少しずつ崩していく。それは彼女にとって予期せぬことであり、同時に抗いがたい誘惑でもあった。

「こんなに…弱くなるなんて…」

クラリッサは、ルカと過ごしたあの日のことを思い出しながら、自室の窓から外を見つめていた。彼が見せてくれた湖の美しさ、そして彼の穏やかな声。すべてが彼女の心に深く刻み込まれていた。

「ルカ…あの時、どうして私にそんなことを…」

彼女はルカが言った「試練」という言葉の意味を考えていた。彼が何を意図していたのか、それが気になって仕方がなかった。だが、彼女が答えを見つける前に、彼がまた現れることになる。

---

数日後、クラリッサは宮廷での舞踏会に招かれていた。そこには多くの貴族たちが集まり、華やかな夜を楽しんでいた。しかし、クラリッサの心は落ち着かず、彼女は周囲の華やかさに気を取られることなく、ただ一人を待っていた。

「来るわけがないわね…」

クラリッサは自嘲気味に微笑んだ。ルカは王子としての責務があり、こんな宴会に顔を出す暇はないだろうと、彼女は自分に言い聞かせた。しかし、その瞬間、彼女の目に飛び込んできたのは、まさにその人物だった。

「クラリッサ、今夜の君は一段と美しいね」

ルカは堂々とした態度で彼女に近づいてきた。彼は優雅な衣装に身を包み、その姿はまさに貴族の中の貴族というべきものだった。彼が発する気品と自信に、クラリッサの心は再び揺さぶられた。

「ルカ…どうしてここに?」

彼女が驚きの表情で尋ねると、ルカは微笑みながら答えた。

「君に会いたかったからね。それに、君がどんな風に舞踏会を楽しんでいるか見たかったんだ」

その言葉に、クラリッサは内心動揺しながらも、冷静さを保とうと努めた。しかし、ルカの瞳の奥に何か計り知れないものを感じ取り、彼女はその場から逃げ出したくなる衝動に駆られた。

「ルカ、そんなに見つめられると…困るわ」

クラリッサは軽く笑いながらも、内心では自分の感情を隠しきれないことに焦りを感じていた。彼女は彼を避けようとしたが、ルカはすかさず彼女の手を取り、軽く引き寄せた。

「クラリッサ、僕と踊ってくれないか?」

その提案に、クラリッサは一瞬戸惑った。彼女は彼と踊ることで、自分の心が完全に彼のものになってしまうのではないかという恐怖を感じたのだ。しかし、彼女はその恐怖を振り払うように、彼の手を取った。

「ええ、喜んで」

二人は舞踏会の中央に進み出て、ゆっくりと踊り始めた。ルカのリードは落ち着いていて、彼女を安心させると同時に、その心をさらに彼に引き寄せた。彼の手の感触、彼の近さ、すべてがクラリッサの心を捕らえて離さなかった。

「クラリッサ、僕は君のすべてを知りたいと思っている」

ルカは優しい声で囁きながら、彼女の耳元に顔を近づけた。その言葉に、クラリッサは心臓が高鳴るのを感じた。

「私の…すべて?」

「そう。君が何を考え、何を感じているのか。君の本当の気持ちを知りたいんだ」

クラリッサはその言葉に、過去の自分が彼に何を感じさせてきたのかを思い出した。彼女はルカを見下し、彼を遠ざけていた。しかし今、その彼が自分に真剣に向き合っている。彼女は自分が彼にどう応えるべきかを考えたが、答えはまだ見つからなかった。

「ルカ、私は…」

クラリッサが何かを言いかけたその時、ルカは彼女の指先を軽く掴み、再び微笑んだ。

「無理に答えを出さなくてもいいよ、クラリッサ。僕は君が自然に心を開いてくれるまで待つつもりだから」

その言葉に、クラリッサは再び胸が締め付けられるような思いを感じた。ルカは自分の気持ちを察してくれている。それが嬉しい反面、どこか不安でもあった。彼が本当に自分を愛しているのか、それとも…?

舞踏会が終わりに近づく頃、ルカはクラリッサをそっと抱き寄せ、耳元で囁いた。

「クラリッサ、これからも君のそばにいたい。君が望むなら、僕はいつでも君の力になるよ」

その言葉に、クラリッサは心からの感謝と、言葉にできない喜びを感じた。同時に、彼の真意が何であるのかを確かめたいという思いが強くなっていった。

「ありがとう、ルカ。あなたの言葉は、とても心強いわ」

クラリッサはそう言いながら、彼に微笑みかけた。しかし、彼女の胸の中には、彼の真意を探る決意が芽生えていた。

---
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

貴方といると、お茶が不味い

わらびもち
恋愛
貴方の婚約者は私。 なのに貴方は私との逢瀬に別の女性を同伴する。 王太子殿下の婚約者である令嬢を―――。

帰らなければ良かった

jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。 傷付いたシシリーと傷付けたブライアン… 何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。 *性被害、レイプなどの言葉が出てきます。 気になる方はお避け下さい。 ・8/1 長編に変更しました。 ・8/16 本編完結しました。

忘れられない恋になる。

豆狸
恋愛
黄金の髪に黄金の瞳の王子様は嘘つきだったのです。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】愛とは呼ばせない

野村にれ
恋愛
リール王太子殿下とサリー・ペルガメント侯爵令嬢は六歳の時からの婚約者である。 二人はお互いを励まし、未来に向かっていた。 しかし、王太子殿下は最近ある子爵令嬢に御執心で、サリーを蔑ろにしていた。 サリーは幾度となく、王太子殿下に問うも、答えは得られなかった。 二人は身分差はあるものの、子爵令嬢は男装をしても似合いそうな顔立ちで、長身で美しく、 まるで対の様だと言われるようになっていた。二人を見つめるファンもいるほどである。 サリーは婚約解消なのだろうと受け止め、承知するつもりであった。 しかし、そうはならなかった。

心の声が聞こえる私は、婚約者から嫌われていることを知っている。

木山楽斗
恋愛
人の心の声が聞こえるカルミアは、婚約者が自分のことを嫌っていることを知っていた。 そんな婚約者といつまでも一緒にいるつもりはない。そう思っていたカルミアは、彼といつか婚約破棄すると決めていた。 ある時、カルミアは婚約者が浮気していることを心の声によって知った。 そこで、カルミアは、友人のロウィードに協力してもらい、浮気の証拠を集めて、婚約者に突きつけたのである。 こうして、カルミアは婚約破棄して、自分を嫌っている婚約者から解放されるのだった。

処理中です...