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第六章: 王家の思惑と選択の行方

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騎士団長カイルとの戦いが終わり、敵のリーダーが消え去った後も、私の胸には不安が残っていた。私の中にある力は、この国を揺るがすほどの存在らしい。それがどれほどの意味を持ち、なぜ私がその力を持って生まれたのかは、未だに分からないままだ。しかし、確かなことが一つある。この力が、単なる魔法使い以上の何かであり、それを狙う者たちが数多くいるということだ。

――平穏な日々はもう戻らない。

その現実を、私は徐々に受け入れるしかなかった。だが、心の奥底ではまだ諦めきれない思いが燻っている。静かに過ごす日々、それこそが私の唯一の望みだった。何も望まない。戦いも争いも避けたい。だけど、その望みを守るためには、やはり力を使わなければならないのだろうか。

そんな葛藤の中、突然王宮から使者が訪れた。彼は私に、王宮で行われる緊急会議に出席するようにとの命令を伝えた。私が王家に呼ばれるなど、前世では考えられない事態だったが、今は異世界の侯爵令嬢として生きているのだから、驚くべきことではないのかもしれない。だが、それでも不安は募る。

「お嬢様、王宮からの使者がいらっしゃいました」

クラリスの報告に耳を傾けながら、私は深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。会議に出席するということは、私の持つ力について何かしらの決定が下される可能性が高い。王家は私をどのように見ているのだろうか。そして、王子たち――特に冷徹なレオナルド王子は、私に何を期待しているのか。

「分かったわ。すぐに向かうわね」

私は準備を整え、クラリスに手伝ってもらいながらドレスに着替えた。王宮に向かう道中、私はどこか緊張感と好奇心が入り混じった感情に包まれていた。私がこの国の未来に関わる存在だというのなら、それを拒むことはできない。だが、同時に自分の力を王家に利用されることへの警戒心もあった。


---

王宮に到着すると、荘厳な建物が私の目に飛び込んできた。金色に輝く装飾や、大理石の柱が並ぶ大広間。そこには王や王妃、そして三人の王子が揃っていた。私は深々とお辞儀をし、礼儀正しく場に臨んだ。

「アリシア侯爵令嬢、よくお越しくださいました」

王が重々しく口を開いた。彼は威厳に満ちた姿であり、その目は私をじっと見つめている。まるで私の内面を見透かしているかのような鋭い視線に、私は背筋が伸びた。

「お呼びいただき、光栄に存じます、陛下」

私はできる限り冷静な声で応じたが、その場の空気には何か張り詰めた緊張感が漂っていた。王子たちがそれぞれの席に座り、私に注目している。レオナルド王子の冷静な瞳、ルイ王子の優しげな微笑、そしてヴィクター王子の挑戦的な視線。彼らの思惑がそれぞれ異なることは明らかだった。

「本題に入る前に、まず一つ確認しておきたい。アリシア侯爵令嬢、君は自分が持つ力について、どれほど理解しているのか?」

王の問いかけに、私は一瞬戸惑った。自分が持つ力……それはまだ完全には理解していない。しかし、最近になって魔力の一端を感じ、制御できるようになりつつあるのも事実だ。

「正直に申し上げますと、まだその全貌を理解しているわけではございません。ですが、この力が普通の魔法とは異なるものであることは感じています。」

私の言葉に、王は重々しく頷いた。

「そうか……君の力は、古代の伝説に語られる『神の使徒』と呼ばれる存在の力だと考えられている。非常に強大で、国家をも左右する力だ。この国において、そのような力を持つ者が現れることは稀であり、慎重に扱わねばならない。」

「神の使徒……」

その言葉に、私は驚きを隠せなかった。そんな壮大な話になるとは思ってもみなかった。私が持つ力が、ただの魔力ではなく、伝説的な存在と関係しているとは――。だが、それが意味するものは、私が今後この力をどう扱うか次第で、国全体に大きな影響を与えるということだ。

「アリシア、君がその力をどう使うかが重要だ。力は素晴らしいものだが、誤れば破滅を招く。我々は君がその力を制御し、この国のために役立ててほしいと願っている」

今度はレオナルド王子が口を開いた。彼の言葉には冷徹さがあり、まるで命令のように響いた。私の力を王家がどう利用しようとしているのか、その意図がますます明らかになってきた。彼は国を守るために私を兵器のように扱うつもりなのだろうか。

「アリシア、お前は自由に選ぶことができる。我々のために力を貸すのも、拒むのも、君次第だ。ただ、君が望むのなら、この国のために共に歩むことを考えてほしい」

今度はルイ王子が穏やかに言った。彼の声には優しさがあり、私の選択を尊重する姿勢が感じられた。彼は私に強制はしないが、助けを求める道を提示してくれている。

一方で、ヴィクター王子は私に挑むような視線を投げかけていた。

「アリシア、その力を持つ者は運命を背負っている。君が望むかどうかに関わらず、この力を放置すれば、いずれ国にとって脅威となる。自分の力の意味を理解し、責任を持って行動すべきだ」

彼の言葉には厳しさと挑発が含まれていた。確かに、私がこの力を放置すれば、いつか誰かがそれを悪用しようとするかもしれない。だが、だからと言って私がその責任をすべて負うべきなのだろうか?

私は三人の王子の意見に耳を傾けながら、心の中で葛藤していた。彼らはそれぞれ異なる考えを持ち、私にさまざまな選択肢を提示してくれる。だが、私が本当に望むのは、ただ静かに過ごすことだ。この力を持っていても、平穏な日々を守ることはできるのだろうか。

王は私の迷いを見透かしたかのように、再び口を開いた。

「アリシア、君には選ぶ権利がある。だが、その選択は国の未来に影響を与えることを忘れないでほしい。君が力を使うかどうかは、君の意思次第だ」

私は深く息を吸い込み、心を落ち着けた。この決断は、私自身の人生だけでなく、この国全体に関わるものだ。だが、最後に選ぶのは、私自身だ。

「分かりました、陛下。私自身、この力を理解し、どう使うべきかを考える時間が必要です。しかし、私が選ぶ道が国

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