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第四章:ライナとの対立

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フェリクスとの再会から数週間が経った。アリシアは学院での日常に戻り、試験や魔法の訓練に励んでいた。彼の存在はもはや過去のものとして、自分の新しい人生に集中することができていた。しかし、そんな平穏な日々は突然の来訪者によって再び揺れ動くことになる。

ある日のこと、学院に新たな生徒が入学してきた。その名は、ライナ・ベリサリウス――フェリクスの元婚約者であり、かつてアリシアの婚約破棄の原因となった女性だ。彼女が異世界に現れたことは、アリシアにとってまさに悪夢の再来だった。

「どうして……」

アリシアはライナの姿を目にした瞬間、胸の奥からこみ上げる怒りを感じた。ライナは学院の正門を優雅に歩き、周囲の生徒たちから注目を集めていた。その美しさと気品は変わらず、彼女の周りには自然と人が集まってくる。

「また、私の前に現れるなんて……」

アリシアは胸の中で呟いたが、表面には動揺を見せず、冷静さを保つことに努めた。ライナとの再会は避けられないが、彼女に負けるわけにはいかない。今の自分は、過去の弱いアリシアではないのだ。


---

数日後、学院の魔法演習が行われる日がやってきた。生徒たちがそれぞれの魔法の力を競い合い、実力を示す場として設けられたこの演習は、学院で最も重要な行事の一つだった。アリシアもその中で注目される存在となっており、誰もが彼女の魔法に期待を寄せていた。

「アリシア、頑張ってね!」

友人たちが声援を送る中、アリシアは静かに頷き、試合に集中した。しかし、その場にはライナの姿もあった。彼女は新入生にもかかわらず、特別にこの魔法演習に参加する許可を得ていたのだ。そして、その目的は明らかだった――アリシアに挑むためだ。

「ふん、やはりあのアリシア・レインフォードね。どれほど成長したのか、確かめてみる価値はあるわ」

ライナは冷笑を浮かべながら、アリシアに向かって挑発的な視線を送った。かつてのように高慢な態度を崩さない彼女に、アリシアは内心で反発心を抱いた。

「成長したのは私だけじゃないわ。あなたに負けるわけがない」

アリシアは自分自身に言い聞かせ、心を落ち着けた。今回の魔法演習でライナに勝つことができれば、過去の呪縛から完全に解放されるかもしれない。そう強く思い、彼女は魔法の杖を握りしめた。


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演習が始まり、次々と生徒たちが自らの魔法を披露していった。火を操る者、風を呼ぶ者、そしてアリシアの順番がやってきた。彼女は大きく深呼吸をし、集中力を高めた。これまでの努力がすべて試される瞬間だ。

「行くわよ……!」

アリシアの手の中で光が輝き始める。彼女が集中して魔力を集めると、巨大な火の鳥がその場に召喚された。炎の中で舞い上がる鳥は、まるで生きているかのように翼を広げ、天高く飛び立っていった。

観衆はその圧倒的な魔法に息を呑んだ。アリシアの力は以前と比べ物にならないほど成長しており、学院中の誰もが彼女の実力を認めざるを得なかった。

「素晴らしい……!」

「さすがアリシア、見事だ!」

周囲の生徒や教師たちから歓声が上がり、アリシアは自信に満ちた表情で演習を終えた。だが、その歓声の中で冷ややかな視線を感じた。振り返ると、ライナが彼女に向けて鋭い目つきをしていた。

「あなた、そこまで成長したのね。でも、それで私に勝てるとでも思っているの?」

ライナは挑発的に笑い、次に自分の番が来ると自信満々に魔法の杖を掲げた。彼女の魔法もまた強力だった。瞬く間に空が暗くなり、彼女の魔力が呼び出した巨大な嵐が、演習場を包み込んだ。

風が激しく吹き荒れ、雷が轟く。周囲の生徒たちはその威力に恐怖を覚えたが、アリシアはその場で冷静に立っていた。ライナの魔法は確かに強大だが、今の自分なら対抗できると信じていた。

「来なさい、ライナ……私はもう、過去の私じゃない」

アリシアは再び集中力を高め、今度は氷の魔法を使うことにした。彼女の魔法は、ライナの嵐を覆うようにして一瞬で氷の壁を作り出し、その勢いを止めた。雷も氷によって吸収され、嵐は次第に弱まっていった。

「な……何ですって……!」

ライナは驚愕の表情を浮かべた。彼女の魔法をここまで簡単に防がれるとは思ってもいなかったのだ。アリシアはそのままさらに魔力を高め、氷の刃をライナの周りに生み出した。

「もう終わりよ、ライナ」

そう言い放つと、アリシアは氷の刃を動かし、一瞬でライナの魔法を完全に封じた。演習場は静まり返り、観衆も息を呑んでいた。アリシアの圧倒的な勝利が、そこに証明された瞬間だった。


---

演習が終わり、アリシアはその場を立ち去ろうとしたが、ライナが彼女を呼び止めた。

「待ちなさい、アリシア!」

ライナの声は怒りに満ちていた。彼女は悔しさを隠しきれず、震える手で魔法の杖を握りしめていた。だが、アリシアは振り返ることなく、ただ一言だけ言い残した。

「もう私たちは、同じ舞台に立っていないのよ」

その言葉に、ライナは何も返せなかった。アリシアの背中を見送りながら、彼女は敗北の痛みを感じていた。それでも、ライナは自分の中に燃え上がる嫉妬心と屈辱感を抑えることができず、彼女に対する敵意をさらに強めていった。

一方、アリシアは冷静なままであった。ライナに対する対立は避けられないものだったが、彼女の心はもはや過去の感情に縛られていなかった。今の自分には、もっと大切なことがある――学院での成長、新たな仲間、そして自分の力を磨き続けること。それらが、彼女の未来を照らす光となっているのだ。

「私は、私の道を進むだけ」

そう決意を新たにし、アリシアは学院の廊下を歩いていった。ライナとの戦いは終わり、これから彼女が迎えるべき未来は、さらに広がっていく。

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