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第9話ウォートロール

ウォートロールとの戦いのあと

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ウォートロールとの戦いの後、銀色の巨人が再び現れたという噂は瞬く間に広まり、冒険者や騎士たちの間だけでなく、街中、さらには国中にまで知れ渡るようになった。巨人の圧倒的な力とその神秘的な姿は人々の間で次第に崇敬の対象となり、「しろがね様」と呼ばれ、神格化され始める。

しろがね様を崇める人々が増えていく中で、やがて「銀教(しろがねきょう)」という宗教が誕生した。銀教の信者たちはしろがね様を象徴とした神聖な儀式や祈りを行い、彼の力と慈悲を信じ、日々の加護を求めるようになる。銀教の影響力は急速に拡大し、その波は貴族学院にも押し寄せてきた。

ある日の放課後、ミラが学院の廊下を歩いていると、ある教室の中から集会の声が聞こえてきた。興味を抱いて扉を開けると、教室には銀教の信者たちが集まり、しろがね様への祈りを捧げていた。リーダー格の生徒が前に立ち、目を輝かせながら語りかける。

「しろがね様は私たちの守護者です。彼の力と慈悲を信じ、共に祈りを捧げましょう。私たちが団結すれば、しろがね様はさらに強大な力で私たちを守ってくださるでしょう!」

熱心に祈りを捧げる生徒たちの様子に、ミラは複雑な思いを抱いた。自分がその銀色の巨人、しろがね様であることを知る彼女にとって、この場面はどこか居心地が悪くもあった。信者たちの純粋な信仰心には心を打たれたが、同時に自分の正体が明らかになれば学院だけでなく、国中が混乱に陥るかもしれないというプレッシャーが重くのしかかっていた。

その後も銀教の勢力は学院内でますます広がり、しろがね様への信仰は生徒たちの心を強く結びつけていった。彼らが信仰の中で一体感を抱いていく様子を、ミラは心の中で静かに見守りながら、自らの役割と責任を再確認した。

自室に戻ったミラは、しろがね様としての力を正しく使い、多くの人々を守るという決意を改めて固めた。そして、心の中でゼクスに話しかける。

「困ったものですね。できれば、銀教がいかがわしい商売に手を染めるようなことがないように願うばかりです」

ゼクスは不思議そうに尋ねた。「いかがわしい商売とは?」

ミラは少し微笑みながら答えた。「私の元の世界では、御利益があるとか言って怪しい壺を高額で売りつける、そんなエセ宗教団体があったんです。信仰心を利用してお金を巻き上げる、けしからん商売ですよ」

ゼクスはしばらく考え込んでから、あっさりと「理解できない」と答えた。

「でしょうね」とミラは苦笑した。「この世界の人たちは、純粋な気持ちでしろがね様を崇めていると信じたいです」

ゼクスもそれに頷き、静かに「彼らの信仰心が清らかであることを願おう」と答えた。

しろがね様としての重責を胸に秘めたミラは、周囲の信者たちを見守りつつ、これからも人々を守るために力を尽くすことを誓ったのだった。

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