上 下
6 / 8

第六章: 王宮での対決

しおりを挟む


フェリクス王子の不正と裏切りの証拠を集め終えたビトゥルボ・マセラティは、次なる行動に移る準備を整えていた。アストルとベルトラン伯爵の協力によって、彼女は王子が婚約期間中に別の女性と密かに交際を続けていた事実を確信した。そしてその証拠は、彼が自らの影響力を利用して隠し通そうとしたものであり、彼の王族としての責任を大きく損ねるものであった。

ビトゥルボは、自分がただの被害者で終わることを拒んだ。家族の名誉、そして自分自身の尊厳を守るため、フェリクス王子と直接対決することを決意したのだ。そして、その場を整えるために、彼女は自ら王宮に赴き、王子との面会を求めた。

フェリクスは彼女の突然の来訪に驚いた様子だったが、元婚約者であるビトゥルボを拒むわけにもいかず、彼は彼女を豪華な応接室へと案内した。その部屋は重厚な家具で飾られ、王家の権威を象徴するかのような空間だった。しかし、ビトゥルボにとっては、その豪華さが今や何の意味も持たないものでしかなかった。

フェリクスが部屋に入ってくると、彼は冷ややかな微笑を浮かべてビトゥルボを見つめた。かつての婚約者としての優しさや温もりは一切なく、その瞳には冷徹さと自己満足が漂っていた。

「久しぶりだね、ビトゥルボ。どうして突然、王宮まで出向いてきたんだい?」

フェリクスの声には軽薄さが含まれており、彼が自分の行動に対して何の罪悪感も抱いていないことが伝わってきた。ビトゥルボはその態度に内心苛立ちを覚えつつも、冷静な表情で彼に答えた。

「王子様、今日はお話ししたいことがあって参りました。私たちの婚約破棄に関することです」

フェリクスは一瞬だけ表情を曇らせたが、すぐに不敵な笑みを浮かべた。

「婚約破棄のことか。もう決着のついた話だろう?僕はただ、自分にふさわしい未来を選んだだけさ」

ビトゥルボはその言葉に冷笑を浮かべた。彼の「自分にふさわしい未来」という言葉が、彼が自分勝手に相手を利用し、周囲の人々を無視してきたことを象徴していると感じたからだ。

「そうでしょうね。ですが、その未来のために、私との婚約を破棄した理由が本当にあなたにとって都合の良いものだけであったのか、確認させていただきたくて参りました」

ビトゥルボは静かにそう言いながら、彼の目を鋭く見つめた。フェリクスは少し戸惑ったようだったが、すぐにその表情を隠そうとした。

「確認?君が何を知っているか知らないが、僕には何も後ろ暗いことなどない。僕は正々堂々と君との婚約を解消したんだ」

「本当にそうでしょうか?」

ビトゥルボは冷静な態度を保ちながらも、用意していた証拠の一部を差し出した。そこには、彼が秘密裏に新しい婚約者候補である侯爵令嬢と頻繁に密会していたことを示す手紙のやり取りが記録されていた。

フェリクスの表情が一瞬歪んだ。彼は目を見開き、ビトゥルボが持ち出した証拠に驚愕している様子だった。彼はすぐに取り繕おうとしたが、冷静さを装うことはもはや難しい状況だった。

「……それが何だというんだ。僕が誰と会おうと、婚約破棄の理由には関係ないはずだろう?」

フェリクスは必死に冷静を装おうとしたが、その声には焦りが滲んでいた。ビトゥルボはその動揺を見逃さず、彼をさらに追い詰めた。

「王子様、これはあなたが私との婚約を結んでいる最中に行われていたものです。つまり、私たちの関係を裏切り、私を蔑ろにしていた証拠です。そして、それだけでなく、あなたの新しい婚約者候補である侯爵令嬢にも不名誉な影響を与えるでしょう」

フェリクスはますます動揺し、その目は鋭くビトゥルボを睨んだ。

「……それが君の狙いか?僕を陥れて、自分の立場を守ろうとしているのか?」

「いいえ、私はただ真実を明らかにし、公爵家の名誉を守るために行動しているだけです。王子様が私たちの家族を軽視し、その誠意を踏みにじった結果、私にはこうするしかなかったのです」

ビトゥルボの言葉には、もはや迷いはなかった。彼女は家族のため、そして自分自身の誇りのために行動しているのだ。フェリクスがどれほど自分を責めようと、彼女の決意は揺らがなかった。

その時、部屋の扉が開き、数人の貴族たちが入ってきた。彼らは王子の側近であり、フェリクスにとっては忠実な仲間であったが、ビトゥルボが用意した情報により、彼女の主張を裏付けるために証人として呼ばれていた。

「王子様、私がここで証言することが本意ではないことはご理解いただきたいのですが……」

ビトゥルボがそう言うと、側近たちは動揺しながらも彼女の言葉に同意するように頷いた。彼女は集めた証拠と証言を用いて、フェリクスの行動がいかに無責任であるか、そして王族としての立場にふさわしくないものであることを論じた。

貴族たちの間で囁かれる声が増え、フェリクスは追い詰められていくのを感じた。彼の立場が徐々に危うくなる中、ビトゥルボは堂々とした態度で彼に向かって言った。

「王子様、私はあなたに復讐したいわけではありません。ただ、私と私の家族が受けた仕打ちに対する正当な評価を求めているだけです」

ビトゥルボの冷静な言葉に、フェリクスはもはや反論の余地を見つけられなかった。彼はしばらくの間、言葉を失い、ただビトゥルボを見つめ返すだけだった。

こうして、ビトゥルボは王子の不正を暴き、自らの尊厳と家族の名誉を守ることに成功した。彼女の勇気と冷静な判断により、フェリクス王子はその行動の結果に責任を取らざるを得なくなり、彼の評判は大きく傷つけられることとなった。

ビトゥルボは王宮を後にし、冷たい夜風に身を委ねながら、自分が成し遂げたことの重さを感じていた。彼女は過去の傷を乗り越え、新たな未来へと踏み出す準備が整ったのだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

何もできない王妃と言うのなら、出て行くことにします

天宮有
恋愛
国王ドスラは、王妃の私エルノアの魔法により国が守られていると信じていなかった。 側妃の発言を聞き「何もできない王妃」と言い出すようになり、私は城の人達から蔑まれてしまう。 それなら国から出て行くことにして――その後ドスラは、後悔するようになっていた。

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

【完結】4人の令嬢とその婚約者達

cc.
恋愛
仲の良い4人の令嬢には、それぞれ幼い頃から決められた婚約者がいた。 優れた才能を持つ婚約者達は、騎士団に入り活躍をみせると、その評判は瞬く間に広まっていく。 年に、数回だけ行われる婚約者との交流も活躍すればする程、回数は減り気がつけばもう数年以上もお互い顔を合わせていなかった。 そんな中、4人の令嬢が街にお忍びで遊びに来たある日… 有名な娼館の前で話している男女数組を見かける。 真昼間から、騎士団の制服で娼館に来ているなんて… 呆れていると、そのうちの1人… いや、もう1人… あれ、あと2人も… まさかの、自分たちの婚約者であった。 貴方達が、好き勝手するならば、私達も自由に生きたい! そう決意した4人の令嬢の、我慢をやめたお話である。 *20話完結予定です。

貴方といると、お茶が不味い

わらびもち
恋愛
貴方の婚約者は私。 なのに貴方は私との逢瀬に別の女性を同伴する。 王太子殿下の婚約者である令嬢を―――。

女官になるはずだった妃

夜空 筒
恋愛
女官になる。 そう聞いていたはずなのに。 あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。 しかし、皇帝のお迎えもなく 「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」 そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。 秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。 朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。 そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。 皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。 縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。 誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。 更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。 多分…

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

【完結】公爵令嬢はただ静かにお茶が飲みたい

珊瑚
恋愛
穏やかな午後の中庭。 美味しいお茶とお菓子を堪能しながら他の令嬢や夫人たちと談笑していたシルヴィア。 そこに乱入してきたのはーー

処理中です...