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第二部 第一章:新たなライバルの出現
しおりを挟む祐は新作の打ち合わせのため、久しぶりに編集部を訪れていた。作品が着実に評価を集めている中で、新たな展開を模索していた祐と編集者の良本は、どんな物語を進めるべきかを真剣に話し合っていた。
「新作のアイデアはいいけど、今までと少し違う展開を考えてみたらどうだろう?」と良本が提案する。祐は少し戸惑いながらも、「読者を驚かせたいんです」と意気込みを見せ、新しいプロットの可能性を模索していった。
打ち合わせを終え、祐が編集部の廊下を歩いていると、目の前に若い少年が立っていた。少しもじもじとした様子で祐の隣を通り過ぎていくその少年は、見た目からして祐と同じくらいの年齢に見えた。
不思議に思った祐は、良本にその少年のことを尋ねてみた。「さっき廊下ですれ違った子、あれは誰なんですか?」
良本は微笑みながら答えた。「ああ、彼は笠井龍って言うんだよ。最近デビューしたばかりの新人ラノベ作家でね、実は祐くんと同い年なんだ」
「僕と同い年の作家が…」祐は驚きの声を上げた。自分が高校生作家として活動していることに少し誇りを持っていた祐にとって、同じ年齢のライバルがいると知るのは新鮮な驚きだった。
「彼も結構注目されていてね、今後の成長が楽しみな新人なんだ」と良本が続ける。その言葉に、祐は少しだけ胸が騒ぐのを感じた。自分と同じ年齢でありながら、同じ業界で注目されている存在がいることで、思わず意識してしまう。
翌日、学校で祐は日常に戻り、平穏な一日を過ごすはずだった。しかし、ホームルームが始まったとき、担任の先生が新しい編入生を紹介するために立ち上がった。
「皆さん、今日から新しいクラスメートが仲間に加わります。どうぞ歓迎してあげてくださいね」
教室の前に立ったのは、昨日編集部で見かけたあの少年だった。彼の姿を見た瞬間、祐は一瞬息を呑んだ。まさか昨日会ったばかりの笠井龍が自分の学校に、しかも同じクラスに編入してくるとは思ってもいなかった。
「えー、笠井流一です。皆さん、よろしくお願いします」
祐の予想をはるかに超える展開に、クラスは少しざわめいた。笠井は続けて言葉を足した。
「ちなみに…笠井龍というペンネームでラノベ作家をやっています。よかったら新刊も読んでみてくださいね」
その瞬間、教室はさらに大きなざわめきに包まれた。高校生にしてラノベ作家だという自己紹介が、多くのクラスメイトにとって衝撃的だったのだ。驚きの視線が一斉に彼に注がれる中、祐もまたその一人だった。しかし、祐は心の中で焦りを感じていた。「まさか…堂々と高校生作家だと公表するなんて」と。
「ラノベ作家って…すごい!」と、クラスメイトたちから興奮した声が飛び交う。
その中で、クラス委員長の菜月綾子が手を挙げて質問を始めた。「ちょっと待ってください。アルバイトは校則で禁止されているはずですが、大丈夫なんですか?」
その言葉に笠井が少し困った表情を浮かべたが、すぐに自信たっぷりに答えた。「ええ、もちろん。学校側の許可を取っているので問題ありません」
彼の堂々とした返答に、クラスは再び驚きの声を上げた。まるで誇りを持って自己紹介しているかのように見えた笠井の姿に、祐は一瞬羨ましさすら感じた。「あんなに堂々と自分の活動を公表できるなんて…僕とは全然違う」と感じずにはいられなかった。
しかし同時に、心の奥底では笠井の登場が自分の正体に影響を及ぼすのではないかという不安が湧き上がってきた。万が一、自分もラノベ作家であることがバレたらどうしようかと、頭の中でシナリオを巡らせた。
祐が考え事をしていると、笠井がふとこちらに視線を向け、少し首をかしげながら話しかけてきた。「あれ?君、どこかで会ったことがあったかな?」
その一言に祐は一瞬焦りを覚えたが、すぐに平静を装い「いや、僕は初めてだと思うけど」と返答した。笠井は気にすることなく、「そっか、気のせいかな」と微笑んでその場を去っていったが、祐の心はまだ落ち着かないままだった。
その日、授業の合間にもクラスメイトたちが「笠井先生」と呼んで親しげに話しかけたり、彼の作品について質問したりしていた。祐もその様子を横目で見ながら、「もし自分が『笹本祐希』だと知られたら…こんな風に普通の高校生活は続けられなくなるかもしれない」と考え、不安が募っていくのを感じた。
放課後、笠井はクラスメイトたちの質問攻めに遭いながらも、楽しげに答えを返していた。彼の堂々とした態度を見て、祐はますます焦燥感に苛まれていた。
「もし万が一、この学校で僕のことがバレてしまったら…どうすればいいんだろう」祐は心の中で呟きながら、ひとまずこれからの行動に注意を払おうと決意を新たにするのだった。
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この第一章では、祐が笠井という新たなライバルの出現によって、自身の秘密が明かされるかもしれないという不安を抱き始める様子が描かれています。笠井の堂々とした態度に対する祐の葛藤が、この先の展開に緊張感をもたらすシーンになっています。
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