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第12話 果てし戦士へレクイエムを
12ー⑤
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底なし沼のように、源次と怪物が箱の中へ沈んで行く。
箱は、二メートル三〇センチの深さがある。そして、その三分の二程にドロドロのセメントが注がれていた。
いくら不死身の怪物でも、登って来ることは不可能であろう。
「翔太!石蓋を」と、肩まで沈みかけた源次が叫んだ。
腹を抉られているが、怪物の腕を放そうとしない。怪物は沈みながら、必死に右腕を引き抜こうとしている。
「早くしろ!翔太!」と、源次の声に、翔太は石蓋を吊り上げている鎖を外した。
〈ガリガリガリ……ガシャーン!〉
石蓋が、割れそうな音をたてて、箱の上に落ちて、閉まった。
「彗!」と、翔太が、血を流しながら倒れている彗に駈け寄った。
「彗、しっかりしろ!」と、翔太が彗を抱き起こした。
左腕と、左わき腹が切断されている。大量の血が流れ出し、裂けた腹からは腸のようなものがはみ出していた。
翔太は、テーブルに掛けてある白い布を切り裂いて、彗の左腕と腹に強く巻いた。
「彗!」
「何だよ」と、彗は、細く目を開けた。
翔太は、あの泣き虫な彗が、泣き叫ばないのをみて、不思議な顔をした。
「壁は」
「えっ?」
「翔太、壁だよ、壁に連れていってくれよ」
と、彗の言葉に、翔太は辺りを見渡した。
「壁って云ったて、距離があるぞ」
「いいから、引きずって行ってくれ」
翔太は、後ろから彗の両わきに腕を回すと、中庭に面した壁際まで、ズルズルと引きずっていった。
「寄りかからしてくれ」翔太は、彗の背中を壁につけてやった。
腕と腹からは、血が止まらない。巻いてある白い布が真っ赤になっている。
「翔太」
「あ、んっ……?」
「煙草あるか」
「煙草?何フザケてんだよ。しっかりしろよ。……彗」
と、翔太が、彗の肩を揺すった。
「翔太!煙草あるか……いや違う、違う、違う」
と、彗が云いかけて、途中で首を横に振った。
「翔太!ガスバーナーを持って来てくれ。隣にあるから」
翔太が、首を捻った。多量の出血で、頭がいかれた。―――翔太はそう思った。
「翔太!早くしてくれ。隣の部屋からガスバーナーを持って来てくれ。そして、そう、鉄板を焼くんだよ。鉄板焼にして、卵やキャベツを用意して……料理だよ、料理……」と、彗の声が、段々か細くなってきた。
「彗」と、翔太が、彗の肩を強く握った。
「翔太、おれ、やっぱ格好わりぃーな。おれ、死ぬ時まで格好わりぃーな」
彗の目から、大粒の涙が流れ出した。また、顔がグチャグチャになった。
「腹が熱いよぉ。死にたくないよ。……かぁーちゃん、……おれ、死にたく……」
と、云い掛けて、彗の首がガクンと落ちた。
「彗ー!彗ー!」
翔太が、彗の頭を両腕に抱いて、自分の胸に押し当てた。
……彗は、二度と目を開かなかった。
箱は、二メートル三〇センチの深さがある。そして、その三分の二程にドロドロのセメントが注がれていた。
いくら不死身の怪物でも、登って来ることは不可能であろう。
「翔太!石蓋を」と、肩まで沈みかけた源次が叫んだ。
腹を抉られているが、怪物の腕を放そうとしない。怪物は沈みながら、必死に右腕を引き抜こうとしている。
「早くしろ!翔太!」と、源次の声に、翔太は石蓋を吊り上げている鎖を外した。
〈ガリガリガリ……ガシャーン!〉
石蓋が、割れそうな音をたてて、箱の上に落ちて、閉まった。
「彗!」と、翔太が、血を流しながら倒れている彗に駈け寄った。
「彗、しっかりしろ!」と、翔太が彗を抱き起こした。
左腕と、左わき腹が切断されている。大量の血が流れ出し、裂けた腹からは腸のようなものがはみ出していた。
翔太は、テーブルに掛けてある白い布を切り裂いて、彗の左腕と腹に強く巻いた。
「彗!」
「何だよ」と、彗は、細く目を開けた。
翔太は、あの泣き虫な彗が、泣き叫ばないのをみて、不思議な顔をした。
「壁は」
「えっ?」
「翔太、壁だよ、壁に連れていってくれよ」
と、彗の言葉に、翔太は辺りを見渡した。
「壁って云ったて、距離があるぞ」
「いいから、引きずって行ってくれ」
翔太は、後ろから彗の両わきに腕を回すと、中庭に面した壁際まで、ズルズルと引きずっていった。
「寄りかからしてくれ」翔太は、彗の背中を壁につけてやった。
腕と腹からは、血が止まらない。巻いてある白い布が真っ赤になっている。
「翔太」
「あ、んっ……?」
「煙草あるか」
「煙草?何フザケてんだよ。しっかりしろよ。……彗」
と、翔太が、彗の肩を揺すった。
「翔太!煙草あるか……いや違う、違う、違う」
と、彗が云いかけて、途中で首を横に振った。
「翔太!ガスバーナーを持って来てくれ。隣にあるから」
翔太が、首を捻った。多量の出血で、頭がいかれた。―――翔太はそう思った。
「翔太!早くしてくれ。隣の部屋からガスバーナーを持って来てくれ。そして、そう、鉄板を焼くんだよ。鉄板焼にして、卵やキャベツを用意して……料理だよ、料理……」と、彗の声が、段々か細くなってきた。
「彗」と、翔太が、彗の肩を強く握った。
「翔太、おれ、やっぱ格好わりぃーな。おれ、死ぬ時まで格好わりぃーな」
彗の目から、大粒の涙が流れ出した。また、顔がグチャグチャになった。
「腹が熱いよぉ。死にたくないよ。……かぁーちゃん、……おれ、死にたく……」
と、云い掛けて、彗の首がガクンと落ちた。
「彗ー!彗ー!」
翔太が、彗の頭を両腕に抱いて、自分の胸に押し当てた。
……彗は、二度と目を開かなかった。
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